イランの報復。

 同国は長い歴史を持つ国で、世界文明の中心であったメソポタミア文明の影響を受けている。前6世紀のアケメネス朝時代から繁栄し、サーサーン朝時代にはゾロアスター教が国教だった。
 642年にアラブ人に滅ぼされ、イスラム教が広まった。16世紀初めに成立したサファビー朝は「シーア派十二イマーム派」を国教とし、イラン人の国民意識を形成した。現在は宗教上の最高指導者が最高権力を持つイスラム共和制国家である。
 中東ではサウジアラビアに次いで面積が大きく、人口は8千700万人の大国である。国民の構成はペルシア人 (61%)、アゼルバイジャン人 (35%)、クルド人 (10%)、ロル族 (3%) で、国民の99%がイスラム教徒で、大部分がシーア派である。
 イランはイスラエルに抵抗するイスラム武装勢力を軍事面で支援しており、両国は間接
的に衝突を繰り返してきたが、これまで直接戦火を交えたことはない。米国が後ろ盾となっているイスラエルは、最新鋭の兵器を保有するが、これに対して、長期にわたり経済制裁を受けてきたイランは軍事力に大きな差があり、両国が正面から衝突すれば、一方的に甚大な被害を受けるのは明らかである。
 イランはパレスチナの「ハマス」、レバノンの「ヒズボラ」、イエメンの「フーシー派」などのイスラム武装勢力と密接な関係にある。2023年10月7日、ハマスがロケット弾や戦闘員の侵入によって、イスラエルへの大規模な攻撃を仕掛けた。
 すぐにイスラエルは反撃を開始し、ガザ地区は戦争状態となった。2024年4月8日までの半年間の軍事活動によって、民間人を中心とした約3万3千人が殺された。また多くのパレスチナ人が避難生活を余儀なくされており、国際連合はガザ北部で飢饉が差し迫っていると警告している。
 ヒズボラやフーシー派もしばしばイスラエル側に攻撃をかけており、この関連として、イスラエルは4月1日シリアにあるイラン大使館を攻撃した。翌日イランのライシ大統領はシリアの首都ダマスカスにあるイラン大使館周辺が空爆され、軍司令官など7人が死亡したことを受け、イスラエルに対して報復すると表明した。
イランは4月13日から14日にかけてイスラエルに向けて、200以上のミサイルと無人機を使った大規模な攻撃を仕掛けた。イスラエルは米国と英国の協力を得てそのほとんどを迎撃し、被害は少なかった。
 その理由は防空能力が強力であったことによるが、イランの攻撃は抑制的であった。第一に数日前にイスラエルと米国に攻撃の日時と内容を伝えたとされる。第二に攻撃はテルアビブやエルサレムの都市部ではなく、レバノン、ヨルダンおよびシリアの国境が接し、領有権に問題があるゴラン高原が目標だった。
 イランのバゲリ軍参謀総長は14日の国営テレビで、「イスラエルが報復すれば、われわれの対応ははるかに大規模なものになる」と警告を発した上で、「作戦は終了した。継続するつもりはない」と述べた。
 イランは事態を拡大する気のないことは明らかで、イスラエルと本格的な戦争になるのは何としても避けたい。しかし、この局面では主権を侵され、国民の立場からどうしても報復をしなければならない立場だったが、この程度の攻撃が精一杯のところだろう。全世界が反対しても、イスラエルは報復を意図している。

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