年金生活の変遷と現代の課題。

 わが国は前例のない高齢化社会を迎えている。30年前までは老後は働かずに年金で豊かに暮らすことが一般的だった。しかし、その時代は遠くに過ぎ去り、今や誰もが退職後の生活の安定を求めて働くようになった。
 年金だけで生活する考え方は、経済的な安定を求める人々にとって魅力的だったが、現在ではそれは現実離れした幻想となった。他の先進諸国でも年金の支給額は決して多くないが、政府が高齢者の面倒を全面的に見るというのが一般的である。
 わが国では現役世代も初期高齢世代も、子育てや老後の生活に心を煩わせている。その結果、投資や保険に手を出し、経済的な負担が増大する傾向が見られる。これは、国が貧しくなり、年金の支給額が減少し、自助で老後の生活費を補填する必要性が生じたからである。
 1970年に高齢化率が7%を超えた高齢化社会に突入した時点で、少子高齢化社会の到来は予見できていた。しかし、政府はこれまで人口問題に対して有効な手段を打たず、この30年間は財政を放漫に委ねて、経済を低迷させてきた。政策の失敗が主な理由だが、少子高齢化は社会全体の責任でもあり、これに対する対策は包括的な視点から考える必要がある。
 高齢者が人口の約3割を占める高齢社会の先進国のわが国では生産者の不足、労働供給のアンバランス、地域経済の停滞といった問題が顕在化している。そのために経済的、社会的、地域的に多くの課題を抱えている。
 高齢者が増加し、若者が減少すると、労働力の供給が少なくなり、生産性が低下し、経済活動が鈍化する。一般に、労働供給の問題は地方よりも都市で先に顕在化し、とくに高度な専門職や技術職が不足すると、地域経済の高度化が進まない。
 しかし、現代の時代背景を考えると、こういった考え方は幻想となりつつある。単に労働力が低下した場合は、すでにかなり進化したロボットやAIで補えば、問題を解消するのはそう難しくはない。これらが飛躍的に進化しつつある近接未来、労働や生産という概念が大きく変容する可能性もある。
 人口の過疎や事業の継承者の補充なら話は別だが、半分遊びごとの地域おこしや町おこしといった振興策は不要である。少子高齢社会が進化した現在、人口減少が進む中で、一番の問題は消費者の数が少なくなる点にある。経済は生産による供給と消費者需要の減少の二つの要素が組み合わさる結果である。
 今後の経済については大きな懸念がある。

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