医師偏在の是正について。

 2024年5月23日、岸田総理は官邸で令和6年第6回経済財政諮問会議を開催し、生涯活躍と少子化への対応、そして社会保障の強靱化について議論を行った。この会議で議論された問題は、最終的に経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)としてまとめられ、実行に移される予定である。
 社会保障の強靱化に関する議題の中で、厚生労働省の検討会などで議論が進んでいる医師の偏在問題が取り上げられた。診療報酬などによる経済的な報酬と、さまざまな方法を効果的に組み合わせて解決を図る方針となった。
 医師偏在の問題は20年ほど前から社会的な注目を集めているが、ようやく本格的な解消に向けた取り組みが始まる。これに関連して地域医療構想について、都道府県の責務の明確化を推進し、改革につながる仕組み作りを構築する。
 昔から偏在の問題は存在していたが、長年にわたる医師の不足が重要な課題で、それまで対象になる余地がなかった。医師数が充足した平成16(2004)年に臨床研修制度が導入された。その結果、全国の臨床研修指定病院に多くの新卒者が就職したため、一時的に医学部の医局員が少なくなり、別の形の偏在が発生した。
 その後2~3年間、メディアは病院崩壊、医療崩壊などと連日連夜の報道を展開し、高齢患者の悲哀物語と救急医の残酷物語を半ば創作し、医師不足のキャンペーンを張った。その頃から地方や過疎地の医師の偏在が注目され始め、10年前から医師が過剰傾向となり、実感として地域による偏在はかなり解消された。
 それでも東北地方や信越地方などの地域によって深刻な医師不足が続き、また外科や救急科、産科などの医師確保に苦しんでいる医療現場もある。医師が増えても、医師不足の問題がなくならないのは、就職が集中していることに原因がある。これには東京など大都市で勤務を希望する医師が多く、外科や救急科などの激務の診療科を敬遠する理由がある。
 偏在には地域と診療科によるものの2種類がある。地域による偏在は総数を考えるのではなく、人口10万人当たりの医師数を検討する。厚生労働省による医師・歯科医師・薬剤師統計の概況によると、22年時点の医療施設に従事する医師数は32万7千人で、人口10万当たりの医師数は262人で、2年前の前回の257人に比べて、5.5人増加した。
 都道府県別に見ると、徳島県が336人と最も多く、次いで高知県335人、京都府334人の順だった。一方、埼玉県が180人と最も少なく、次いで茨城県202人、千葉県209人を示した。
 県別には2倍近い格差が見られるが、これでは医師の偏在は実感し難い。今後は救急医療を含む一般的な入院治療が完結する2次医療圏(全国で335区域)、3次医療圏ごとの偏在の課題に踏み込むようだ。

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