医師不足について。

 一般に医師不足と言われるのは、医師の偏在を意味する。偏在も医療ニーズと医師の供給の不均衡であり、医療の水準や診療の便利さに影響を与えることから、これらの是正は地域医療には大きな課題となる。
 わが国の臨床医師数は2020年には32.7万人に達し、人口10万人当たり260人の医師が診療に従事する。毎年3500~4000人の医師が増加し、また非常勤医師、高齢の医師、子育て中の医師、主婦の医師などの登録漏れを含めると、総計40万人に近い臨床医がいると推定される。この中には働きたくても、仕事が見つからない人もいる。
 一般にいざとなると、医師の不足を感じるかもしれない。しかし、これほど医師数があれば、新型コロナ感染症の流行などの非常事態でも十分と言える。それが円滑に機能しないのは行政の問題だろう。
 20年前までは医師不足の問題がメディアで取りあげられることもあったが、その後医師数は増加した。高齢人口は増大しても、08年からは人口減少時代に突入し、今後もかなりの勢いで人口は減少していく。
 10年以上も前から病院統合、病院や病床数の削減が行われており、医療体制は縮小が進んでいる。街角の診療所やクリニックも飽和状態と言われて久しく、医師の過剰が問題である。
 偏在には地域と診療科の2種類がある。地域の問題は医師が都市部に集中し、地方やへき地には不足する現象が典型であるが、県内でも医師が多い地域と少ない地域がある。現在、診療科の偏在は地域の偏在よりも重要となっている。医師が一部の診療科に偏り、他の診療科は不足する現象である。
 19年2月の厚生労働省の「医療従事者の需給に関する検討会」によると、最も増員が必要なのは内科で、以下外科、脳神経外科と続く。一方で皮膚科、精神科、眼科、耳鼻咽喉科の4科は過剰とされた。
 医師が足りなければ足りないほど、その領域の医師は過重労働を強いられる。そうなると、そこへいく医師がますます不足するという悪循環が生じる。超過勤務時間が少ない診療科ほど医師は増加し、超過勤務時間が多い診療科の医師は減少するという結果を招く。
 医師が過剰であれば、偏在の問題などすぐに解決しそうだが、これがなかなか難しい。偏在の原因としては、1.医学部入学基準や臨床研修制度などが地域と診療科に対する配慮が不十分である。2.医師自身のライフスタイルやキャリアプランなどの個人的な選択や価値観が地域と診療科の選択に影響する。3.収入や労働条件などが偏在を助長する。4.医師間の連携や教育体制などの専門性や資質向上への支援の良否などがある。
 これらの要因が影響し合って、医師の偏在を慢性化させている。

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