がんの統計。

 2023年3月16日国立がん研究センターは、13年前にがんと診断した患者約34万人の10年生存率は53.3%だったと公表した。今回の成績は実態に近い算出方法に変更したことから、14年前の診断患者が対象の前回の調査とは比較できないという。
 集計はがん診療連携拠点病院など全国の316病院で登録された患者の「院内がん登録」のデータを対象に、今回がんのみが死因となる場合の生存率自体を推定する「ネット・サバイバル」法を初めて採用した。
 それまでがん以外の病気や事故などによる死亡の影響を補正した「相対生存率」法で集計していたので、実態より低めの数値が出る傾向があった。今回は純粋にがんのみが死因となる場合を推定した「純生存率(ネット・サバイバル)」法で算出した。この方法はよりも高い数値が出る傾向があるが、がんのみの影響で亡くなる人の割合をより正確に推計できることから、近年国際的に広く使われるようになった。
 がん生存率は1990年代の後半から上昇しており、早期発見技術や治療方法の進歩が大きく貢献している。この結果の重要な点は2010年に診断したがん患者の成績で、この13年間にがんの治療法は、個々のがん細胞を狙い撃ちする分子標的薬の普及や、早期発見につながる診断技術の進歩がある。
 14~15年の1年間にがんと診断した約94万人の5年生存率は、全体で66.2%を示し、前述の10年生存率よりもかなり高い。実感として現在発見される患者の生存率はさらに改善していることから、今回のデータはあくまで参考として理解する。
 部位別の10年生存率は、前立腺がんで84・3%、乳がん(女性)で83・1%、大腸がんで57・9%、胃がんで57・6%を示した。がんは性別、年齢、ステージ、手術の有無により、生存率に違いがあり、その解釈には注意が大切である。
 統計は統計として精密であっても、各個人に当てはまるかどうかは別で、これらの不確かな数値に一喜一憂する必要はない。確率は半々とか60%とか70%と言われても、生命は統計ではなく、ゼロか百しかない。その中間はなく、常に臨床は全か無の法則しかない。
 限界に追い込まれ、かぎりなく無に近くても、後は天運に委ねるしかなくても、無の可能性を全に持ち込むのが医療の役割である。最大限の治療効果を得るために、推奨されている治療をしっかりと行うことが何より大切である。

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