[第十六話]一触即発。山梨遠征。
秋の選抜大会。
男子チームは、東日本大会でベスト8になったと、報告を聞きます。
部長が国体強化選手になり、冬の間は、ちょこちょこ不在でした。
…もっとも、我々の代は、あまり部長に頼りっきり、という雰囲気ではなく、歴代先輩達の代と比較してユルく、フリーダムだったので。
部長が1人くらい抜けたところで、何かが変わるなんてことはありませんでしたが……。
(1年生の時は、その緊張感のない雰囲気にたびたび私だけが怒られていた。男子と一緒になるな、と。)
そんな男子連中の結果と、部長を尻目に、我々女子チームも日常練習をするわけです。
ちなみに、私の絶不調は、この時もまだまだ続いている。
•弓を持たずに射法八節からやり直す→効果なし。
•鏡を見ながら一つずつの動作を確認しながら練習。→効果なし。
•弓を直心から初心者向けの実技に戻してみる。→効果なし。
弦音は、ガッシャンガッシャンと、ガラスを割ったような、弓道場では聞いた事もないような音がなっているし。
離れは緩んで、変な手の動きをしている。
しかし、冬くらいになると、T監督も少し射技指導をしてくださる様になりました。
この時、主に注意されていたのは、手の内(弓の握り方)と、縦横十文字と離れです。
…大体こんな事を言われていたと思います。
言われた事を意識しまくって、頑張って治そうとするも、なかなか上手くいかず…。
他の同期部員に馬手を引っ張ってもらったり、頭を押さえてもらって縦線を意識しやすくしてもらったり……
そんな事をやっているうちに、また山梨遠征の時期がやってきました。
女子部員は、全員参加……と思いきや、参加したのは、大前、私、副部長、ちーちゃん。
つまり1年生2人、2年生2人の合計4人。
この後。ずっと人間関係良好だった女子チーム。
1年生VS2年生…一触即発状態になる事は、この時は誰も予期していませんでした。
山梨遠征前日までは、何ら変哲のない、いつも通りの部活。
集合から移動まで、何も問題なく、会場に到着。
しかし、1年生コンビの異変は1日目のお弁当タイムから始まります。
大きな会場、他校の全国区の集まる招待試合、富士山が綺麗な山梨の風景……
これまで、まとまって行動する事や、試合会場での過ごし方など。注意する必要のなかった1年生。
それが、まるで弱いチームの学校の新入生かのような行動にパターンになってしまっていて…怒りを通り越して呆気に取られてしまった私。
……多分、はしゃいでいたんだろうねぇ…と、私は思っていた。
でも、少しばかり、はしゃぎすぎじゃないかな?
…と、私がちょっとイラッとし始めていた時に、私以上にブチギレていたのは、意外や意外にも副部長。
遠征中。
ストレスを溜めまくっていた副部長は。
部長の尻を叩いたり。私に過剰にベタベタくっついたり。
とりあえず、ウザ絡みが半端なかった。
この人、ストレスが溜まると、キレながらウザ絡みをするらしい。
……慣れたけど。
学校に帰ってきて、翌日。
私と副部長は、昼休みに1年生2人を部室に呼び出しました。
私は、高校生の頃には、自分が極めて激情家である事を自覚していました。
しかし、チームでは、そう言う面はあまり出さない様に気をつけていました。
激情すると最後、支離滅裂になるしね。
なので、相手の言葉を聞きつつ、自分の言いたいことも言うように気をつけていたのですが……
こういうのは、昔からあまり得意ではない。
言葉を選びながら、慎重に進めていると、大前が泣き出してしまいました。
なんと言って泣き出してしまったのかは忘れてしまいましたが、その言葉は私の言葉を詰まらせ、副部長が初めてブチギレながら口を開くに値するものだったと思います。
大前は大泣きしてるし、副部長はブチギレて普段絶対見せたことのない人格出しているし。
これは、一触即発か?チーム崩壊の危機か???
何か手立てはないものか……私の切り出し方が不味かったのか???
短時間でいろいろと考えている時に、救ってくれたのはちーちゃんの大人対応でした。
このチームで、一触即発は、この時1回限りでしたが……
チームとして…と言う意味では、1番気を使った出来事。
この”伝え方が苦手”は、未だ改善されていない、自分のコンプレックスの一つ。
高校生の頃にしては、とっても努力していたけれど。
これまで大前は、チームで1番しっかりしていた印象だったが。
その後ろに隠れて、おどおどしていた印象だったちーちゃん……
結構、この子はやる時はやる子だよね、と見直してしまった出来事でもありました。
やらかす事は誰にでもあるけれど、やらかした時に、スピード感を持って謝罪ができるのは、人として重要。
言い訳なんて、ほとぼりが覚めてからでいい。
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