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どうしても作る必要のあったハヤシライス

本エントリは日記寄りの内容です。調理以外の話がとても多い。

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何某かをやらねばならんタイミングというのは度々訪れるものだ。この日もそうだった。私はハヤシライスをどうしても作る必要があった。

一月下旬。休職期間が二ヶ月を経過し、復職如何について産業医に経過報告がてら意思表明した帰り道で、私は半年前の自分の顔つきについて思いを馳せていた。どうやらだいぶマシになったらしい。それはまあ、年末年始を挟んで休み倒していたから毒気も抜ける。
翌月での退職の意を伝えた。引っ越しをして遠くへ行くつもりだった。次の仕事のアテは薄かったが、それ以上に現状がどうしようもなく袋小路だった。

静かに滑り落ちるように退路を断った。楽観視はしていたが、その割に自分でコントロールできる範囲は狭い状況。なにか手応えのある、コンパクトに完結したことを脳が欲していた。
結果、ハヤシライス。振る舞う人もいないまま、レシピに従ってたっぷり4人前を作る事に決めた。

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レシピは少し前にtwitterで見かけて気になっていた「至高のハヤシライス」。

ハヤシライスを「めちゃめちゃ旨い」と思った過去がなかったので、それを自分の手で覆せるなら、それはさぞ痛快だろうと思った。

つい先日までの数年間は料理の習慣を殺していたので冷蔵庫の中は貧相だ。まともな調理のために、スーパーで調味料含め一気に揃えることにした。
マッシュルームなんて初めて買う。ウスターソースも初めて買う気がする。小麦粉は絶対に持て余すので振りかける用の小さなものにしよう。にんにくも持て余しそうだがチューブはやめておこう。云々。
ここのスーパーは地階にあるせいかスマホの電波が届かない。レシピにアクセスできず思い出しながら買い物をしていたら赤ワインを忘れていた。会計後に気付き、気まずい苦笑いとセットでレジに通してもらう。

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材料からしてひとりで食い切れない量である。しかしやる。

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玉ねぎ1個を切る。マッシュルームは1パック丸ごとを使いこちらも小さく切る。薄切りの牛肉に塩コショウと、さらに薄力粉を大さじ1。下処理は以上。具が3種類というのが随分シンプルに見えたが、素人考えの一種という気もするし作業のハードルは下がるのでただの杞憂として片付ける。
バターを30グラム熱して牛肉を炒める。完成時の量が改めて想起されややテンションが上がる。牛肉を取り出し、引き続き玉ねぎ、追加してマッシュルームと炒めていく。
炒めた野菜に薄力粉を大さじ2半足してさらに炒める。小麦粉と言えば水と卵で溶いてお好み焼きにするしか知らず、粉のままフライパンに入れ込む事に奇妙な気分になる。ボソボソして不安な気分にもなったが、レシピ動画でも似た様な感じだったので安心。視覚情報はバカにならない。文字だけのレシピでは上手く完成しなかったかもしれない。

さて、ケチャップを大さじ6加えて、水気が無くなるまでさらにしっかり炒める。ケチャップ大さじ6て凄い量だ。また動画を確認して自分を安心させる。長めに炒めると酸味が抜けていくらしい。赤ワイン200ccを加えてさらに3分ほど過熱。このあたりでぐっとハヤシライスの様相を現し始める。

味見して酸味が無くなったかなというタイミングで、残りの材料を一気に合わせる。最初に炒めていた牛肉、水400cc、コンソメ大さじ1、ニンニク1片すりおろし、ウスターソースを大さじ3。あとは火を強め、15分ほど延々と煮詰めていく。

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予定通り独り身にとって尋常じゃない量のハヤシライス完成。
完成したハヤシライスはまさにレシピの恩恵でしっかり旨く、最初の一口は思わず笑い声が漏れてしまった。「ハヤシはカレーのにせもの認定」というよくある思想をうっすら持っていたが無事覆され、味わいながらレトルトのハヤシは酸味が気になってたんだなと逆説的に思い知った。

分量は4人前と言いつつ実質8皿分くらいになり、しかし捨てることなく数日かけて美味しく食べきった。
どうしても必要だった工程の成された私は依然として袋小路のままだったが、半年前よりマシな顔つきだったろうと思う。

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後日談としては、少し後で500km以上遠方での引っ越しを決め、引っ越し決定後に幸運にも仕事が決まった。私はかなり広くなったキッチンに立ち、今日も料理を続けている。仕事はやっぱり忙しい。でも、色々な事が決定的に変わった。

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