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2021年音楽個人的ベスト20(下半期編)

続きました。

2021年個人的ベスト、下半期編です。もともと1エントリにまとめるつもりだったので取ってつけたようにかっこ書きで下半期編です。

レギュレーションだけ改めて。

  • 対象は「2021年に購入した音源」。リリース年は考慮外です。

  • 選考基準は「より強く印象に残ったもの」。記憶力の関係で最近の作品が有利なんですが、そこはなんとなく配慮しつつ。

  • 基本はアルバム単位で、上半期10作品・下半期10作品の合計20作品(これは結果的にこうなっただけ)

  • 20作品の中での順位付けは行わず、購入順で古い物から淡々と挙げていきます。

それではごーごー

下半期ベスト

"Adore Life" by Savages

ロンドンのポストパンクバンドによる2016年作2nd。今調べたらこの後のツアーを最後にバンドは休止し、現在は各々ソロプロジェクトに注力している様子。

中性的な佇まいのVo.Jehnny Bethによるそっけないメロディラインはパンクならでは…と言いたいところだが、一筋縄ではいかない。全編うねりまくるベースが象徴的だが音の全体像としては鬱屈した薄暗さが前面に出ており、パンクの直情的なイメージからは何とも言えず距離がある。こういうジャンルで語ろうとすると途端に零れ落ちてしまうような音に弱い。

1.The Answerの存在感が凄い。呪術めいたヴォーカルを手数多いドラムが強引にロックに引き寄せているようで、「エネルギッシュなのにダウナー」とでも言いたくなる攻撃性には圧巻の一言。他、7.Adore Life9.T.I.W.Y.G.が印象深い。時折ドゥームにも接近する、独特クロスオーヴァーの手腕が光る。

"System" by Shook

オランダを拠点に活動するコンポーザーによる2021年10月リリース作。

70~80'sのシンセポップに端を発するレトロなエレクトロ・ファンクのサウンドを定期的にお届けしてくれる彼。懐古趣味的にkraftwerkやDaft Punkの名盤に絡めて紹介するとスムーズだが、多くの共通項を以てしてなお他にない音楽だとも感じている。

サウンド的な懐古というより「懐古そのもの」の音楽的表現にに長けた楽曲群。3.Sometimesをはじめ、夜にひとり目を閉じて聴き入るのにぴったりな、密やかで物悲しくて暖かい曲たちが並んでいる。他、ややアッパーな1.System8.Systematicも良い。

"The Architect" by Eidola

アメリカのポストハードコア5ピースによる2021年作4th。

レーベルBlue Swan Records及びRise Recordsからのリリース、と言うと、界隈のファンはすぐにピンとくるかも知れない。特にBlue Swan RecordsはDance Gavin DanceのGt.が主催し、彼らのサウンドに近しいバンドたちによる多数のリリースが魅力のレーベルだ。

Eidolaは特にテクニカルなギターフレーズに乗る温かみのあるヴォーカルの取り合わせが魅力だ。今作は全体的にシャープな疾走感が目立ち、よりDance Gavin Danceの音楽性に接近した印象もあるが、初期の頃から変わらない芯の強さはしっかりと感じられる。

先行でMVの上がっていた2.Counterfeit Shrinesがシンプルにかっこいい。他、バラード色の強い6.Perennial Philosophyや6分越えでスケール感満載の12.Ancient Temperamentも印象深い。

"Sufferer" by Sufferer

カリフォルニアのハードコアユニットによる2017年作。バンド紹介を見ると「収益の35%をアメリカ不安神経症協会(ADAA)に直接送られる」とあり、作曲のコンセプトも含めうつ病に関わりのある少し特殊な成り立ちが垣間見られる。

音に注目するとリフ重視なハードコアという印象で、そっけない曲名群に反して引き出しはかなり広い。不協和コード攻めの2.Chapter II、がっつりバラードな7.Chapter VII、ミニマルロックに寄ったフレーズが挟まる9.Chapter IX、などなど。ヴォーカル3人体制ということもあり、五月雨で叩きつけられるシャウトも実にパワフルだ。

…この作品を知った経緯はしっかり覚えていない。bandcamp上、フォローアカウントのアクイティビティだったかどこかの作品に紐付けられたおすすめだったか。自分の観測範囲外から自分の琴線に触れる音楽がやってくるタイミングはそう頻繁には無いが、ここしばらくはbandcamp経由によるものがとても多い。

"Other Worlds" by Android Trio

アメリカのトリオによる2021年作。2017年以来の2ndで、フュージョンロックよりのプログレ作として推したい。

複雑なフレーズ・リズムで淡々と展開しながらも、どこか攻撃性を含んだ楽曲群はやはりロック的というか、これぞプログレッシヴロックならではというか。目まぐるしい曲展開も魅力で、全容を紐解いていくように繰り返し聴くのが楽しい。

5.Serial Tuneが特に印象深い。冒頭のサックスを初め、濃いエネルギーがぐるぐると眩暈のように襲い掛かる。他、6.Fanfare12.Quarkのようなキュートなエレクトロ要素の濃い曲もあり、バラエティ豊かで大ボリュームな一枚。

"Seven" by Cameron Graves

カリフォルニアのジャズピアニストによる2021年作2nd。アルバムの紹介には影響元としてPantera/Slipknot/Meshuggahの名前が挙げられ、ジャズメタルならぬ「スラッシュ・ジャズ」と評されている。

個人的に、共通してMeshuggahを影響元に挙げるピアニストとしてTigran Hamasyanが思い浮かぶ。併せて聴きたいアーティストではあるが調べてみた範囲ではおそらく直接の繋がりや関連性は無さそう。

さておき、楽曲群は「スラッシュ・ジャズ」の標榜に違わずかなりメタルだ。明確にディストーションギターも参加しており、スリリングなリフも全編に散りばめられている。冒頭にインパクトのあるリフをぶつけてくる曲が特にメタル然としていて印象深い。ピアノの主体の7.Red、一方でギター主体の10.Mansion Worldsと、頭からガツンとくる展開が実に爽快。

"Ascension Codes" by Cynic

フロリダのプログレメタルバンドによる2021年作。前作からは7年振りとなる4thフル作。

bandcampの作品紹介には「The album, paradoxically, acts as both swan song and rebirth.(逆説的だが、今作は偉大な遺作かつ再誕の作品だ)」とある。元メンバーを含む関連メンバー2名の訃報が2020年に重なったニュースも含め、非常に思う所の多い作品。("swan song"のニュアンスは翻訳難しいな…)

曲名と曲時間の並びだけで分かるように、アルバム単位で非常にコンセプチュアルな構え。曲は30秒ほどの間奏曲を挟み2曲1セット。また中間地点となる9.DNA Activation Templateで再スタートするような曲展開・構成をとっており、2EP連作として1セット、という捉え方もできる。

前半では4.Elements and their Inhabitantsが特に印象深い。目一杯反響させたヴォーカルが、フュージョン要素やヴォコーダーエフェクトの影響も相まってまるで揮発してしまいそうな雰囲気を醸し出す。後半では15.In a Multiverse Where Atoms Singが印象的だった。キャリアを追うにつれ大きく変化し豊かになった歌のメロディラインが存分に発揮されている。

安直な感想だが、過去作それぞれを想起させてくれる集大成的な懐かしさが強い。そしてその上で新メンバーの個性が乗るようなバランスになっているように感じた。新しい要素としては、ベースシンセに変わった事による鍵盤方面のフレーズの妙や、ドラムのハイハット・シンバル周りの鋭さだろうか。この辺りを違和感と取るか新鮮と取るかは人によって分かれそうだが、決して露骨なものではないと思う。

…個人的に思い入れの強いバンドでもあるので感想が長くなってしまった。

"Plague Accommodations" by Thank You Scientist

ニュージャージーの7人組による2021年作EP。アルバムを合わせると今作は5作目にあたる。
Vo./Gt./Ba./Dr.に加えてサックス/トランペット/ヴァイオリン、これで7人。何度かメンバーチェンジを経ているがこの構成を維持している。

複雑な曲展開を武器とするプログレメタルを素地にクラブジャズ・ビッグバンド的な素養を派手に取り入れたスタイルは奇抜そのものだが、ファンを裏切らない安定した逸品を届けてくれている。

「クールほのぼのえげつなカッコ良、みたいな奔放さ」これに尽きる。そして、足し算一辺倒に見えて繊細な一面も無視できない。優しい輪郭のヴォーカルを大きな魅力にしつつ長いインストパートを常に重視し、曲によってはギターソロだけでなくサックス/トランペット/ヴァイオリンもソロパートを持つ。このバランス感覚には、特殊構成に対する誇りのようなものも感じさせる。

4曲ではあるがバラエティ豊かでしっかりと濃い。個人的にはヴァイオリンソロの新鮮さもあり3.Soul Diverが特に好き。

"SUPERNORMAL" by Everything Everything

UKマンチェスターのアートロックバンドによる2021年作シングル。合わせて2020年作アルバム「RE-ANIMATOR」を買ってこちらも気に入っているが、この曲のインパクトが余りにも大きいためイレギュラー気味に。

エレクトロ/インディーロックのぶつかり合うアレンジとパーカッシヴなグルーヴを効かせたスタイルが強い。ファルセット重視の歌唱スタイルも含め、クセの強さとキャッチーな要素が一緒くたになったサウンドに圧倒される。個人的にこのバンドは定期的に「強烈に刺さる一曲」を発表する存在という認識で、頻繁に動向を追わない割に時折思い出したかのように調べているバンドのひとつだったりする。で、不意打ちの様にキラーチューンを文投げられてひとりで盛り上がるパターンを何度か繰り返している。

「チョー普通」のタイトルからなんとなく察せられるが、高熱の時に見る夢の様な奇抜なMVに違わず歌詞も大概で、喜怒哀楽が目まぐるしくそして繰り返し襲い掛かる。キャッチーそのまま狂気の一曲。

"IIII" by EXN

韓国ヒップホップのソロアーティストによる2021年作シングル。合わせて2021年作EP「[QQQQQ]」を買ってこちらも気に入っているが、この曲のインパクトが余りにも大きいためイレギュラー気味に。
…なぜか12月に入って同じパターンのイレギュラーを二つ踏んでしまった。

こちらはtwitter経由で教えていただいた流れ。普段全く触れていないカルチャーだが、推しの熱量やタイミングなどなど色々噛み合った結果がっつりハマった。

こちらは淡々としたMVが延々と見ていられる。韓国語は分からないがレシート印字を模した歌詞のアニメーションも可愛い。一方、少ない材料で3分耳を惹き付ける手腕は流石の一言。自身の声も含め、音の配置一つ一つに隙が無い。この点でエレクトロポップ的な聴き味が強く、ヒップホップのファンに限らず広く訴求する力を感じる。

本格的なプロデュースは2021年に入ってからの様子。韓国語話者やヒップホップファン、エレクトロファン、色んな人の感想を聞いてみたい注目株。

・・・

おわりに

20曲分の感想まとめるのに通して8時間くらいかかってしまった。推敲そこそこに半分手癖で書いてこれだが、たまにやると達成感もひとしお。

2022年も良い音楽ライフを。


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