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日本の「庭」とヨーロッパの「庭園」③

とても驚くことに、1990年、高校3年の時に綴ったレポートを読み返したら、30年後の私が知りたいことが、30年前の私によって綴られていました。「心は時空を超えて、30年前のあなたの筆を借りて語ったのですね」という友人の言葉に背中をおされて、再録しています。

気象現象等、当時の分析のままですが、一緒にお楽しみいただければ幸いです。


第2章 風土的要因による比較
第2節 気候的条件

 和辻哲郎氏によると、ヨーロッパは牧場的地域に分類される。ここでは、湿潤と乾燥の統合がみられるのだが、モンスーン地域の暑熱がもたらす湿潤や砂漠地域の乾燥のように、人々を苦しめる極端なものではない。

 この地域において、乾燥期は夏、雨期は冬である。このような気候条件のもとでは夏草や雑草に勢いがなく、農業労働に際して、日本のように自然と戦う必要性が小さい。人々は無意識のうちにも、自然を人間に対して従順なものとみなすようになった。

 自然の従順さは、気象についても当てはまる。一般に、風は極めて弱い。そのため樹木の形態は、公園のみでなく自然の景観においても、植物学の標本のように規則正しい。
 この様子は、不規則な自然を見慣れている日本人の目には人工的に映り、むしろ合理的過ぎるようにも感じられる。日本人は「自然」と「合理性」を相反するものとして捉える傾向があるが、ヨーロッパ人にとって「合理的」という表現は、「人工」だけでなく「自然」をも形容するものなのである。

 ヨーロッパには、日本の台風に類する突発的な気象現象が見られない。そのため、気候の規則性に従って種を蒔き、適度に手入れをするだけで、収穫が得られるのである。これは一例であるが、ヨーロッパにおいて自然の中から規則性を見出すことは容易であり、この規則に従って自然に臨むと、合理的な自然は更に従順になるのである。

 日本は風土的に、モンスーン域に属している。夏の半年間は南西季節風が大陸に向かって吹き、冬の半年間は北東季節風が海へと吹いている。特に夏の季節風は、熱帯の大洋で極度にまで湿気を吸収しているため、日本は夏に湿度が高く、過ごしにくいのである。
 この湿潤は植物の生長を促進し、豊作という自然の恵みを人間にもたらす。だが、もう一方では、台風や大雨、洪水などの荒々しい力として自然の暴威をふるうこともある。それは人間に抵抗を断念させるほどの巨大な力であり、そのためにモンスーン域の人間は、自然に対して受容的、忍従的にならざるを得ないのである。

 また、温帯に位置する日本では、温暖多雨という気候の影響で、多種多様な樹木が生育している。樹種は高度によって決まるのだが、勾配の急な斜面にあるため、山海と同様に、一地域にいながら多くの種類を知ることができる。このことが、日本人が季節に対する意識を強めることにつながったのである。


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