山吹2

子(ね)の会 吟行合宿記⑤

  まめやは豆売りてにぎはふおのろけ豆海老豆いかが鎌倉まめや/藤本喜久恵 

 「まめや」でひととおり試食して、家族ひとりずつにお土産を選ぶ。いちごミルク、パルメザンチーズなどのわかりやすいネーミングに混じって目を引く「おのろけ豆」。醤油味の美味しいお豆だったが、家族に渡すにはためらいがあって、海老と海老マヨネーズに落ち着く。あとで調べたところでは、今ほど製造技術が進んでいなかった頃、衣に醤油を絡ませる工程で、豆の粒と粒が仲睦まじくくっついてしまいやすかったことに由来するという。 

  うす日さす小町通りへ折れて地下ジェノヴェーゼ革命といふ一皿を食ぶ/榊原敦子

  小町通りには美術工芸品の店などもあるのだが、食べ物にばかり目移りするようになる。そろそろ夕飯時だ。腹時計に頼る昔の子どものように、宿に戻ることにする。風も冷たくなってきた。
  あじさい荘の食堂に入ると、知哲さんの手のなかから、初句が記されたカードを一枚選ぶように言われる。短歌人の大先輩、小宮良太郎、仙波龍英、髙瀬一誌の歌から知哲さんがセレクトしたとのこと。「夕照に」「ひら仮名は」は、あの歌ね!せっかくだから知らないのにしよう。どなたかが「この初句に続けて即詠するわけではないよね?」と恐ろしいことをおっしゃるが「今年はそれはありません」という知哲さんの返事に、ひとまず今年は安堵する。座席ごとに、結句まできちんと(穴埋めにもされず)記されたカードが置かれていて、自分の選んだ初句の歌を探して着席する。座席のカードには歌集の刊行年まで記されていて、「原爆の歌だけれど、戦前に詠まれているのだから、こういう読みになるのかしらね」と話に花が咲く。

(続く) 

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