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 アフリカの小国ルワンダ。アフリカの中では、石油などの天然資源やダイヤモンドなどの鉱物資源の乏しい地味な国のひとつだ。近年、海外からの多額の援助もあり、高層ビルが次から次へと建設され急速に都市化が進んでいる。脚光を浴びたのは、残念ながらその悲惨な内戦によってだった。一九九四年に起きたフツ族とツチ族の民族抗争は、百万人もの残虐死者を生んだ。国連をはじめ世界各国は何の介入もせずにただ静観する態度を決め、その大量の虐殺を見守ったのだ。

 当時日本にもそのニュースは届けられた。内戦、民族抗争。多数の死者。要約するとそれだけのニュースだったように記憶している。私も含め日本の大多数の人は、どこか遠い場所で行われている内戦、また歴史が繰り返されているとしか認識していなかった。

 確かにフツ族とツチ族の抗争は歴史的に繰り返されてきたものだった。当時、その前の抗争で追いやられたフツ族の多くはルワンダの周辺国に移住しており少数派であったが、これで何度目かの抗争の機運が高まるとともに、そして虐殺の激化とともにルワンダに集結していってその悲劇は起こった。フツ族とツチ族は鼻の形が少し違うだけだ。肌の色も、髪の色も、瞳の色も同じ同胞だ。しかも年を追うごとに進む混血はその違いを、いまや見た目では判断できないようにしている。国民はIDの携帯を義務付けられ、持たないものはその場で射殺されたりもした。これではナチスによるユダヤ人虐殺と同じだ。

 ところで、全世界がこの事実にハッと目覚めたのはそのニュースによってではなかった。ある一本の映画(イギリス・イタリア・南アフリカ合作)によってだった。

 『ホテル・ルワンダ』

 二〇〇四年に制作されたその映画は、世界中にこの歴史的な大事件の真相を知らしめ、世界中で感動の涙を誘ったばかりではなく、我々に大切な真実を教えてくれた。まるできれいに皮をむいて種を取り除いたグレープフルーツのように赤裸々に、かつシンプルにわかりやすく、実際に手に取って見えるようにその真実を差し出して見せたのだ。それは、自分には関係がないからといって無関心でいることは、世界を不幸にするばかりでなく、自分の人生をも不毛なものするという真実だ。確かに重い、見終わった後にどこにも行きようのない無力感に捕らわれたまま動けないくらいぐったりとする映画だが、何日か後になって自分が生まれ変わったような気持ちになれる素晴らしい映画だ。是非ご覧になることをお薦めする。

 私が身をおいている靴、革製品の業界には、残念ながらいまだに残存する差別問題がある。もし、いつの世にも、どこの場所にもずっと差別はあり続けたし、これからも無くならないだろうと考えている人がいたら、是非考え直して欲しい。あきらめないで聞いて欲しい。革命はひとりの意志から実現してきたし、月面旅行もケネディーの一言から実現しようとしてる。ルワンダの大量虐殺もひとりの激情から起こったし、『ホテル・ルワンダ』の主人公モデルになったポール・ルセサバギナはひとりで必死に殺戮の大きな流れに逆らって千二百人もの命を匿ったし、シンドラーはナチスドイツにひとりで抵抗して何百人ものユダヤ人の命を救った。我々一人ひとりの意志力には無限の可能性があり、それは世界を暗黒の穴倉にもするし、世界を救うことだって出来るのだ。

 どうしたら差別が無くなるのか? 考えれば考えるほど、こうするしかないという結論に至る。

 まずこの馬鹿馬鹿しい、そしてだからこそ余計におぞましい部落差別問題について自分で調べる。そしてそこで得た知識、抱いた感想は一切口にしない。会社の同僚や家族の前でさえもその話題をおくびにも出さない。そして教育すべき子供が分別のつく年齢になったところで自分で調べさせる。そして同様に調べたことは友人や両親にも話さないことを約束させる。

 どうだろうか? 人から口頭で聞いた話は身にならず、話し手の偏見の影響を受けかねない。また、もしそれを軽く聞き流していて話のポイントを誤解していたら、それがまた第三者に偏見を植え付けることにもなりかねない。誰も差別を助長させようとしているわけではないはずだが、話の尾ひれ、面白おかしく会話をしたい気持ち、噂話、陰口といった他愛もない言葉のやり取りによって意図自身がスポイルされることは往々にしてあるものだ。この件に関しては、子供への教育は教師でさえ至難の業である。下手に口頭で伝えた情報が意図した方向と真逆に作用することを想定しなくてはならない。ただ、こう伝えればよい。誰かを批判したい気持ちになったときは、それを口にする前に、すべての人が自分と同じ環境で育ってきたわけではないことを思い出せ。フィッツジェラルドの言葉だ。

 もし皆でこれが徹底できれば理論的には差別は無くなる。現在の時代、調べることはそんなに難しくない。インターネットにつながれたコンピューターが一台あれば良いのだから。そして出来れば、テリー・ジョージの傑作映画『ホテル・ルワンダ』を観て欲しい。我々一人ひとりに出来ることが無限大であることを実感して欲しい。世界を嘆くよりは、世界をより良くするための行動を起こしたほうが、自分の人生は何倍にも豊かなものになるということを皆が共有できたら、きっとそこは素晴らしい世界になるはずだ。そしてそれは絶対に不可能ではないのだ。

 ルワンダをはじめとして、アフリカのビジネスマンたちはおしゃれな人が多い。褐色の肌に良く似合うカラフルなシャツやタイを身につけてダークスーツを着込む姿は清潔感に溢れ、暑い中でも涼しげに見える。靴に関しては文化が浅いためかどことなくちぐはぐな合わせ方をしていたり、つまらない黒いゴム底の靴を履いていたりする。少し前の日本がそうであったように。ただもともと自分を魅力的に見せるために着飾る文化はヨーロッパ以上に深いものがあるように思えてしまう。体型と肌の色のせいだろうか。パープルのタイを涼しげに、そして白のシャツはどこまでも白く見せ、金色のアクセサリーの使い方などは絶品である。きっとカラフルな靴もさらりと履きこなしてしまうのだろう。今から十年後が楽しみだ。

 十年後のルワンダが平和なものであることを切に願う。

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