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蒔岡家のある日の夏 小説『細雪』より

今回は趣向を変えて、
谷崎潤一郎の小説『細雪』に触発された拙句を掲載します。

『細雪』の隠れたテーマは、
「貞之助の秘めたる恋心」だとも言われています。
その恋の向かう先は、義理の妹の雪子です。

大阪の名家、蒔岡まきおか家に生まれた三女・雪子は婚期を逃していました。
次女の幸子と夫の貞之助は、彼女を彼らの家に住まわせ面倒をみています。
薄幸の雰囲気のただよう義理の妹に、
貞之助は哀れみ以上の感情を抱いたのかもしれません。


    花茣蓙にをみなの生えて日暮なり    梨鱗


上掲の句は夏の夕刻、僕のイメージ上の雪子です。

小説の舞台は昭和初期。
当時の女性、ましてや内気な雪子は手に職をもつ訳もなく
日暮れ時には手持無沙汰でいたと推察します。
つくねんとした彼女の姿を、仕事から帰った貞之助が見たら
どう思ったでしょう。

雪子は盛夏の時でも、着物姿で通しました。
彼女がワンピースを着るのは、とりわけ暑い日のみです。
その洋装姿を目にした貞之助の印象が、こう述べられています。

「…濃い紺色のジョウゼットのしたに肩甲骨の透いている、痛々しいほど痩せた、骨細な肩や腕の、ぞうっと寒気を催させる肌の色の白さを見ると、俄に汗が引っ込むような心地もして、当人は知らぬことだけれども、端の者には確かに一種の清涼剤になる眺めだとも、思い思いした。」
(細雪・上巻 二十二)

貞之助の視線には、性的な願望が潜んでいるのでしょう。
しかしそれは、手放さなければならない思慕でもありました。


    陽のふれぬそこに静脈夏終る   




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※なお以下の記事で、貞之助の秘めたる恋についての考察をしました。
俳句と関係なし、2000文字以上の長文です。
興味とお時間がございましたら、ご一読を。



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