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三島由紀夫の命日なれば

1970年の11月25日。
三島由紀夫は、市ヶ谷の自衛隊駐屯地で割腹自殺しました。
その命日は「憂国忌」と呼ばれています。

彼が小説内で表現したものは、しかし
政治的なメッセージばかりではありませんでした。

三島の作風を端的にいえば、絢爛豪華。
紙の上に印刷された活字だけで
黄金の煌めきも月光の静謐も立ち現れます。

その小説はさながら劇場のよう。
第一級の芸術しか上演しないという矜持に満ちた殿堂です。
とはいえ。
時折感じてしまうのは、舞台に立つのは三島由紀夫本人、
彼自身が「作家・三島由紀夫」を演じようとしていた。
そんな自意識の高さです。


    劇場のに雪はなし三島の忌     梨鱗


飾らずにはいられないのは、孤独の証しでしょうか。
この時季、劇場があるほどの繁華街はかえって殺伐としています。


   三島逝く仮名序の雲母きらをみな率ゐ


仮名序とは、真名序と対になる序文です。
雲母きら刷りの仮名序なら、第一級の芸術品。
偉大な芸術家、三島の死に際し
仮名序の雲母が一瞬にして褪せてしまった、という程度の句です。

(詞書が必要かな?〝憂国忌なれば詠める〟とか)

句の巧拙はともかく、これくらいの心尽くしをすれば
泉下の三島もよろこんでくれるでしょうか。


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つけたし。
今回は、1句目が有季俳句で季語は「三島忌」(冬)。
字数の関係で「三島の忌」と五音にしています。
2句目は無季の句です。


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