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さよなら秋 2023


 「確かに、人間は地球にとってはがん細胞みたいなものだった
  かもしれない」
                
               多和田葉子『動物たちのバベル』


幸せを求めすぎると幸せになれない、と言います。
足ることを知らず、今よりもなお満たされようとすれば
つねに精神が貧した状態になってしまうからでしょう。

このブログでは
今年の夏の尋常ではない暑さについて
何度か書きましたが、
初秋のおとずれを感じるのが遅かった分
その後の秋の深まりは急速だったように思えます。
晩秋の1か月の間に、秋の移ろいがギュッと
濃縮されていた気がしました。

風邪をひいて早引けをした日がありました。
熱も咳もたいしたことはないのですが、
人のなかにいたくない気分でした。
こういう時は平気でじぶんを甘やかします。
丘の中腹にあるバス停は、樹々にぐるりとかこまれた
ちいさなターミナルです。
どことなくだるい眼には、色づきはじめた樹々も
丘の先からのぞくもうちょっと高い丘も
あたりへ降りそそぐ真昼の日ざしも
どれもが黄金色に揺らいでいました。

気分もからだもダウンしているのに
なにか多くの存在に祝福されているかのような錯覚。
はからずも手に入れた、今秋のよろこび
と言いたい一時が、そこにありました。


   オリーブオイルいづみの色に今朝の秋

   秋霖や真つ黒なもの飲み残す

   金色のパイをさくりと秋高し

   錦秋の日のゆれてゐるバスの椅子

食べてばっかりの秋?


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