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たんぼLOVE

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たんぼ観察記。
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たんぼLOVE「3月」ふたたび

河津桜も 木蓮の開花も いつもより早めの春でしたが 3月になると、季節はすこし足ぶみを。 一雨ごとに順調に 青い芽をのぞかせてきた田んぼでも、 ほとけのざ 花なずな レンゲに たんぽぽ いつものメンバーは 登場をためらいがちです。 でも、 もうじき いつもの棟梁さん達がやってきます。 のんびりと、にきにぎしく この場処を塗りかえるのです。 ことしの田んぼは どんな景色を見せてくれるのでしょう。 夕時の水ぎわに立ち、思ってみます。 そして。 明日という日を なんとなく待って

たんぼLOVE「2月」

この日の散歩は、なんとなく そわそわ、ふわふわしていました。 なぜでしょうか。 田んぼを見ると まいとし2月のこのころは 厳めしい顔つきなのに すこし、ゆるんでいませんか? あ、暖冬か。 気温のあたたかな日は 日ざしまで強く感じてしまうから 不思議です。 地球は、あたたかな年もそうでない年も 軌道のおなじところを通っているのに。 田んぼの顔がなごんで見えたのも 気温のせいでしょうか。 おっと。それだけではありません。 昨夜の雨があがった畦道から いっせいに顔をだした花。

たんぼLOVE「11月」

11月にもなると 天日に干していた稲はすっかり取り込まれ 稲架の組み木もかたづけられます。 田んぼに残るのは、実を取ったあとの藁ばかり。 一束ごとに藁でくくられた藁束が 刈田にじかに置かれています。 よく晴れた日には、いつもの棟梁さんと 昔のことなら何でも知っていそうなおじいさん達が 畔に腰かけ、藁束を作る仕事をしています。 藁をくくるのも藁だなんて 稲には無駄になるところがないのですね。 ある日曜日。 田んぼの中程に棒が「にょこ」っと立てられます。 5、6メートルはあり

たんぼLOVE「10月」その2

例年、この辺りの田んぼは 9月の終り頃から稲刈りが始まります。 10月ともなれば、農家の方の繁忙期。 けれど4月5月の田起しや田植の頃にくらべると 人数も少なめなのです。 春に手伝いに来ていた様々な方たちは、 もういません。 最近外に出るようになったニートの方かな? なんて勝手に思っていた人も(まあ失礼な)、 見かけなくなりました。 稲作を取りしきる棟梁のような方が その相棒さんと二人ばかりで、 稲を刈っては束ねて、稲架掛けにして、 といった仕事をくり返しています。 稲作

たんぼLOVE「10月」その1

10月が来ました。 田んぼの10月はとくべつな月。 それぞれ遅速はあるけれど、あちらこちらで 稲穂が黄金色へと変わります。 収穫の季節の到来で 農家さんは、大わらわです。 とはいえ。 ひんやりとした朝、 農家さんのいない田んぼを 守る誰かがいます。 そう、案山子です。 でも。 雀たちには、人形だってばればれですよ。 近よっても動きませんから。 ……なんて無粋を言うのはよしましょうか。 稲がいい具合に色づいてきたら、一仕事。 刈り入れの前の田んぼの水を 抜かなくてはなりま

たんぼLOVE「9月」

季節は白露をすぎて秋分へ。 今年はそれでも残暑が退いてくれないのですが 朝は草々に露がびっしり結ばれています。 どうしたものか、例年よりよほど多く 前の晩に雨でも降ったのかと思うほどなのです。 季節の名のとおり白い露の揺れる畦を行けば 稲穂が浅緑の葉のあいまより 重く実った顔をのぞかせます。 早くも曼殊沙華の芽が伸びています。 他より先に一本だけ伸びたその先は、堅い蕾。 蜻蛉が止まっています。 年に数回おこなわれる畦の草刈り。 この曼殊沙華は、花を咲かせる前に切られるので

たんぼLOVE「8月」

青い稲が風になびきます。 その青さは、季節によって変化します。 6月の、ようやく膝丈くらいになった青さ。 7月をすぎて、腰にとどくくらいの青さ。 丈が高くなるにつれ、色はうすくなります。 風がやめば、色薄い頃の田んぼは眠たげです。 ことしの8月はどうしたものか、 お盆をすぎても猛暑日がつづいています。 ふらりと田んぼに寄ってみると 7月よりもさらに青色が薄まって さっと黄色がさし込んですらいます。 近づいて見てみれば、 おっと。 はやくも稲から、穂が出ているではないですか。

たんぼLOVE「7月」

田んぼのむこうの空より、威勢のいい声がきこえてきます。 校舎を改築したばかりの、あの高校からでしょう。 梅雨のあい間を縫って、燕も人も、そして稲も前進中です。 「たんぼLOVE」に登場する田んぼは、一つではありません。 家を出て右手に行った田んぼと、左手にすすんだ処の田んぼ。 二つをまぜて書いています。 それぞれ「東のたんぼ」「西のたんぼ」と呼んでいますが それは僕しか知らない名前です。 今年はどういう訳か、なかなか「東の田んぼ」に 水が引かれませんでした。 辺りには、新興

おさんぽ俳句「夏は水辺を」

前回の「たんぼLOVE 6月」では、ずいぶん多くの生きものが 田んぼに集って来ると書きました。 今回は「たんぼLOVE」の番外編という気分で 生きものたちをゆっくり観察してみましょう。 俳句では蝶は春の季語ですが、夏も立派に存在しています。 数メートル先の紋白蝶に気を取られていると、 揚羽蝶の登場です。ちなみに揚羽蝶だと夏の季語。 足元へと目を向けると、おたまじゃくしが泳いでいます。 その中でもちょっと大きいのは、先に孵化した子。 目高も孵化したてなのか、極めて小さな子

たんぼLOVE「6月」

   泥なげて子等に田植の今盛ん   梨鱗   ゴールデンウィークに水を張った田んぼにも 田植の季節がやって来ました。 5月の末あたりから1週間ほどかけて 順々に早苗を植えていきます。 田植え機で苗を植えていくのですが 田んぼの端のあたりは人の手で植えています。 みなさんの顔立ちは似ていないので 農家のご一家という訳ではなさそうです。 稲作に関心のある人たちが集まり 田んぼの持ち主から、ここを借りているようです。 そういえば、 4月に見かけた新米さんらしい人は どうし

たんぼLOVE「5月」

  レバー引き泥きらきらと代掻機     梨鱗 冬のなごりのような寒い日も、4月まで。 5月になれば、さらりとした汗をかく季節です。 そんな変化に合わせるように、 田んぼもにわかに忙しくなりました。 田打ちの後、ずっとほうっておかれた田んぼに とうとう今月、水が引き込まれました。 代掻きの始まりです。 (きたー!) 代掻き機を進めて、水と土を混ぜ合わせます。 じつにのろのろとしたスピードですが、 よく混ぜ合わせることで良い稲が育つのだとか。 代掻き機は、田打ちで活躍した

たんぼLOVE「4月」

  風やめば天使のはしご春田打   梨鱗 4月ともなると町にも小川にも さまざまな花があふれ、おおにぎわいです。 桜を追って八重桜 薔薇にさきだって木香薔薇 その薔薇もつぼみをふくらませ、 水辺では菖蒲の葉が伸びやかに。 そんな中、田んぼでは丈の低い雑草が 先月とかわらず風にゆれるばかりです。 ある日の朝、オレンジ色のトラクターが 田んぼの端にぽつねんと置かれていました。 なんか出て来たなあ。 なんて思っても、忙しい朝ですから素通りです。 ところが。 翌日にはちゃんと

たんぼLOVE「3月」

  かけ出す子とまる子飛ぶ子春田の子    梨鱗 3月初めなら 田んぼはまだ冬の眺めです。 風に晒された土に、枯れた雑草。 去年の切株がほろほろに崩れています。 そこへ雨がやってきました。 二日ほどつづいた雨のあとの翌日か翌々日。 何気なく田んぼを眺めてみると、あっと驚きます。 あちこちに緑色の草の領域が生まれています。 すでに「下萌」という状態を数段とばしで 「草萌ゆ」という段階です。 春の息吹は、こんなにもしなやかに伸びやかでした。 冬とはちがう表情になった田んぼには