「女の子」で在りたくなかった7歳の自分に言葉を贈るとしたら、私は「馬鹿だな、おまえ」と言う
もし、「女の子」で在りたくなかった7歳の自分に言葉を贈るとしたら、私はこう言う。
「馬鹿だな」
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幼少期、だいたい5~10歳ごろか。私はいわゆる「女の子」的な行動様式に反発していた。
スカートは履きたがらなかった、ピンク色を嫌がった、あえて言葉遣いを汚くした、男子といっしょに遊んで女子の友人を拒んだ。
私は男の子っぽい自分に誇りを感じていた。少女らしさを拒否する自分に快感を抱いていた。
男になりたかったわけではない。物心ついてから現在まで、私は自分の肉体と戸籍に登録された性別に十分満足している。
女性としての自分に不満がないとはいえ、他人に女性性を押し付けられるのは不快だった。だから私は抵抗した。
それだけならいい。しかし、私の行動は単なる既存のジェンダー規範への反発ではなく、同時に「男世界」へのあこがれだった
ミソジニーという言葉をご存じだろうか。または、ホモソーシャルという概念を。詳しくは自分で調べていただきたいが、前者は「女性嫌悪」であり、後者は「同性間での連帯、特に男性で構成された男性以外を排除する社会」のことである。
「女の子らしくなりたくない」だけならいい。それは立派なジェンダー規範への反抗だ。
しかし、私は女性性を嫌った。女性らしい女に対してマウントを取りたがった。それは悪だ。男性的な自分に誇りを持つこと=女性らしさを許容しないこと、それどころか女性性を馬鹿にすることは、いわゆる「名誉男性」をひとり増やし、過去の私が嫌がっていたジェンダー規範を推進することだ。
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ホモソーシャル社会にあこがれる一方で、私は女性的な欲望を抱えていた。
母の意向で長らくショートカットだったのだが、ひそかに長い髪にあこがれていた。記念写真の撮影でスタジオに行くと、パンツスタイルではなく愛らしいドレスを着たがった。プラスチック製の子どもイヤリング、サンリオピューロランドで買ってもらったティアラをつけておしゃれごっこをしていた──ただし、誰にも見られないように。
私は長らく矛盾していた。女性性を嫌っておきながら、女性性にあこがれ続けた。自身の女性的な欲望には目を背け、抑圧することで対応していた。
馬鹿だな、と今なら思う。女性性を忌避することで、楽しみすら遠ざけていたのだ。
制服以外のスカートを買うようになったのはいつからだろうか。たぶん中学くらいだろう。少女漫画を読むようになったのはもっと最近で、それこそ高校に入ってからだった気がする。
スカートを履いた自分は愛らしかった。高野苺の「ORANGE」は面白かった。
もう一度いう。馬鹿だ、私は。こんなに面白い世界を自ら閉ざしていたのだから。つまらない意地とどうしようもない蔑視を捨てて、さっさと素敵な世界へ飛び込めば、どれだけ楽しかったことだろう。
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肉体的特徴で判断される性別と、己の精神の性別、そして自分が好む・表現する性別は完全に別個として存在すべきだ。
女の子の夢が仮面ライダーになることだっていいし、男の子の夢が白馬の王子様に迎えに来てもらうことでもいい。トランス男性(元の肉体がどうあれ男性として生きている人)がプリキュアにあこがれたって、ノンバイナリー(性別を決めない人)がトミカにはまったっていい。もちろん女の子が白馬の王子様を夢見て、男の子が仮面ライダーを目指すのだってかまわない。
そもそも精神的であれ肉体的であれ性別を理由に好みを選別するのはナンセンス極まりないのだから。
私はスカートを履いてよかった。髪を伸ばしてよかった。それでもって、誰かを傷つける意図でない限りは汚い言葉遣いをしてよかった。一人称を「俺」にしたってかまわなかった。
そして、少女漫画を馬鹿にすべきでなかった。おまえが手塚治虫を愛したように、友人たちはちゃおやりぼんを愛していたのだ。
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20歳のいま、私の髪は肩下10㎝ほどの長さもある。スカートも履けばパンツも履く。化粧もするしすっぴんのときもある。言葉遣いも友人相手には男子じみたまま。女性向けゲームにハマったこともあれば、少年漫画の更新を待ちわびてもいる。
ある意味、私は解放された。
しかし長年の癖とはなかなか抜けないもので、現在も娯楽としてホモソーシャル的なノリが色濃かったり同性愛蔑視の展開がある作品を好きになってしまう側面はあるし、ラブリーな表紙の女性向け漫画は食わず嫌いをしがちである。
とはいえ、もうなるべくジェンダーに縛られたくはない。なるべくなら面白いことをできるだけ楽しんでから死にたい。
馬鹿だった、あるいは馬鹿である私のような人がひとりでも減り、素敵な作品に出会えることを願っている。
※文章内で使ったジェンダー用語(ミソジニー、ホモソーシャル、トランス、ノンバイナリー)は読みやすさの優先と、筆者の知識不足を考慮し、あえて簡素な説明にとどめている。詳細は各自で調べてほしい
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