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スピッツ歌詞考察(第42回)ヒビスクス


【基本情報】

ヒビスクス
作詞:草野正宗 作曲:草野正宗 編曲:スピッツ&亀田誠治
4分29秒

<リリース日>
2016年7月27日(15thオリジナルアルバム「醒めない」)

<収録アルバム>
醒めない(2016年7月27日リリース 15thオリジナルアルバム)

<タイアップ>
スバル『フォレスター「ナイトダイビング篇」』CMソング(2016年5月)

【MUSIC VIDEO】

【歌詞】

過ちだったのか あいつを裏切った 書き直せない思い出
幼さ言い訳に 泣きながら空飛んで クジラの群れ小さく見える
後ろめたいままの心が憧れた
約束の島で 再び白い花が

咲いた変わらずに 優しく微笑むような
なまぬるい風 しゃがれ声で囁く
「恐れるな 大丈夫 もう恐れるな」
武器も全部捨てて一人 着地した

悲しみかき混ぜて それでも引きずった 忘れられない手のひら
言葉にする何度も あきらめたはずなんだ
顔上げた道の 先にも白い花が

咲いた揺れながら 黒蜜の味を知って
あの岬まで セミに背中を押され
戻らない 僕はもう戻らない
時巡って違うモンスターに なれるなら

咲いた変わらずに 優しく微笑むような
なまぬるい風 しゃがれ声で囁く
「恐れるな 大丈夫 もう恐れるな」
武器も全部捨てて一人 着地した

ヒビスクス(作詞:草野正宗)

【考察①「生」と「死」】

過ちだったのか あいつを裏切った 書き直せない思い出
あいつを見殺しにしたのは過ちだったのかと自問自答しても、やり直すことはできない。

幼さ言い訳に 泣きながら空飛んで クジラの群れ小さく見える
若くして死にたくないことを言い訳に逃げ出し、泣きながら飛行機を操縦した。
クジラの群れが小さく見えた。

後ろめたいままの心が憧れた
後ろめたい気持ちを持ちつつも、強く心に願っていることがある。

約束の島で 再び白い花が
咲いた変わらずに 優しく微笑むような

あの島には、生きて還ってくると約束した女性がいる。
その女性はあでやかで美しく、今も変わらず優しく微笑みかけてくれる。

なまぬるい風 しゃがれ声で囁く
「恐れるな 大丈夫 もう恐れるな」
武器も全部捨てて一人 着地した
なまぬるい風が吹く中、しゃがれ声で「恐れるな 大丈夫 もう恐れるな」と囁く声が聞こえる。
“僕”は武器を全部捨てて還ってきた。

悲しみかき混ぜて それでも引きずった 忘れられない手のひら
悲しみも含めて全部忘れようとしたけれど、人を殺めてしまった手の感触が忘れられず引きずった。

言葉にする何度も あきらめたはずなんだ
「この戦争はもう終わるはずだ」と何度も言い聞かせる。

顔上げた道の 先にも白い花が
咲いた揺れながら 黒蜜の味を知って
顔を上げると、道の先からあでやかで美しい女性が駆け寄ってきた。
黒蜜をすすったような甘い感覚になった。

あの岬まで セミに背中を押され
セミの鳴き声に背中を押されるように、あの岬まで足を運んだ。

戻らない 僕はもう戻らない
時巡って違うモンスターに なれるなら

“僕”はもう戦地には戻らない。
時が経ち、犯罪者として裁かれることになったとしてもかまわない。

咲いた変わらずに 優しく微笑むような
なまぬるい風 しゃがれ声で囁く
「恐れるな 大丈夫 もう恐れるな」
武器も全部捨てて一人 着地した
あでやかで美しく、今も変わらず優しく微笑みかけてくれる女性がいる。
なまぬるい風が吹く中、しゃがれ声で「恐れるな 大丈夫 もう恐れるな」と囁く声が聞こえる。
“僕”は武器を全部捨てて還ってきた。

タイトルの「ヒビスクス」とは、ラテン語で「ハイビスカス」のことです。
歌詞に「ヒビスクス」や「ハイビスカス」という単語は登場しませんが、「白い花」がそのことでしょう。
「ハイビスカス」の花言葉は「繊細な美」「新しい恋」であり、「白いハイビスカス」の花言葉は「艶美(えんび)」(=あでやかで美しいこと。つややかでなまめかしいこと)です。

このことから、歌詞に登場する「白い花」は、あでやかで美しい女性のことと思われます。

また、ストーリーから「戦争」、そして白いハイビスカスが咲く島ということで「ハワイ」や「沖縄」を連想させます。
「なまぬるい風」は、同じく戦争がテーマであると考察した「愛のことば」でも使われています。
主人公の“僕”は仲間を裏切って逃げ出してきた脱走兵であり、「幼さ」とあるので10代の少年と思われます。
実際、旧日本軍によって沖縄特攻作戦に駆り出された兵士の中には、10代の若者たちも数多く含まれていたそうです。

「白い花」は白いハイビスカスのようにあでやかで美しい女性のことなので、“僕”の恋人であるとイメージしがちですが、「恐れるな 大丈夫 もう恐れるな」と囁いたのが“僕”ではなく、この女性でだとした場合、「白い花」の正体は“僕”の母親であることが考えられます。
まだ10代の少年である“僕”にとっては最愛の母親は、白いハイビスカスのような存在なのです。
生きて還って来た息子と再会し、むせび泣きながら囁いているので、しゃがれ声になっています。
「黒蜜の味を知って」も、母親に甘えている様子をあらわしています。

【考察②「性」】

過ちだったのか あいつを裏切った 書き直せない思い出
あいつを裏切ったことは過ちだったのかと自問自答しても、やり直すことはできない。

幼さ言い訳に 泣きながら空飛んで クジラの群れ小さく見える
幼稚なわがままを言い訳にして、泣きながら飛行機に乗った。
クジラの群れが小さく見えた。

後ろめたいままの心が憧れた
後ろめたい気持ちを持ちつつも、強く心に願っていることがある。

約束の島で 再び白い花が
咲いた変わらずに 優しく微笑むような
再会を約束した地には、あの頃と変わらずつややかでなまめかしい姿の女性が優しく微笑むように待っている。

なまぬるい風 しゃがれ声で囁く
「恐れるな 大丈夫 もう恐れるな」
武器も全部捨てて一人 着地した
なまぬるい風を感じながら、しゃがれ声で「恐れるな 大丈夫 もう恐れるな」と、自分に言い聞かせるように囁いた。
地位も名誉も財もプライドも全て捨ててやって来た。

悲しみかき混ぜて それでも引きずった
忘れられない手のひら
別れの悲しみも全部忘れようとしたけれど、手のひらの感触が忘れられず引きずっていた。

言葉にする何度も あきらめたはずなんだ
「もう終わったことだ」と何度も口にする。

顔上げた道の 先にも白い花が
咲いた揺れながら 黒蜜の味を知って
顔を上げると、つややかでなまめかしい姿の女性が道の先から駆け寄ってきた。
“僕”は黒蜜の味のような甘い感覚になった。

あの岬まで セミに背中を押され
セミの鳴き声に背中を押されるように、あの岬まで足を運んだ。

戻らない 僕はもう戻らない
時巡って違うモンスターに なれるなら
“僕”はもう“あいつ”のもとには戻らない。
新しい獣に生まれ変われるなら。
(=「白い花」と喩える女性を抱くことが許されるなら)

咲いた変わらずに 優しく微笑むような
なまぬるい風 しゃがれ声で囁く
「恐れるな 大丈夫 もう恐れるな」
武器も全部捨てて一人 着地した
あの頃と変わらずつややかでなまめかしい姿の女性が優しく微笑むように待っている。
なまぬるい風を感じながら、しゃがれ声で「恐れるな 大丈夫 もう恐れるな」と、自分に言い聞かせるように囁いた。
地位も名誉も財もプライドも全て捨ててやって来た。

“僕”は「白い花」に喩えているつややかでなまめかしい姿の女性に心を奪われました。
妻(あるいは恋人)に対して後ろめたい気持ちはあるものの、その女性との再会を約束し、もう後戻りはしないと決意しするストーリーです。

どちらの考察からも共通して言えることは、
「自分で選んだ道ならば、何もかも投げうつ覚悟で行け!」
ということでしょうか。

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