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あの日の景色。あの日の味。|エッセイ

 あんこぼーろさんがまたまた企画をされたよう。是非乗っからせていただきますよやっほい!


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 思い出って、なんでなのか分からないけれど、夏の匂いがいちばん強い気がする。いや、大人になってからの思い出は四季それぞれにあるのだけれど、心底懐かしく思うような、郷愁を誘うような幼い記憶って、どうも夏が多いんだよなあ。なんでかおもたら、夏休みあるからかな、そうかも。

 夏休みと言えば、幼いころから仕事ばかりで一緒に過ごす時間のなかった父と、日中に関わる機会があった貴重な日々のような気がする。
 昔から手先が器用で、こまごましたものをちまちま作る父。デザイナーだから? クリエイティブな人ってそうなのかな?
 そんな父であるので、憚りながら料理もだいたい父の方が母よりうまかった。と、言っても幼いころに父の料理を食べた記憶はほとんどない。私が覚えているのは、父のバナナジュースである。


 使った後に洗うのが面倒、というしごく合理的且つ怠惰な理由で使用を避けられていたミキサー。マメな父はその面倒を感じないのかミキサーを使ってバナナジュースを作ってくれた。
 台所に立って、少し背中を丸めながらいそいそと作業する姿。その景色を見ると、ああなにか出てくるんだな、と思って内心わくわくしながら待機した。ちなみに手伝いはしない。やろうとしても「邪魔や! ちゃいっ!」とどけられるのがオチだからである。
 初めてそれを飲んだときの喜びと衝撃は忘れられない。
 果肉が残ってこそいないけれど、どろどろとした(良い意味で)口当たりの濃厚な、少し牛乳味のあるジュース。優しくてまろやかな甘さ。氷を入れて飲んでもちっとも薄くない、濃厚さ。

 
 レトロでオーセンティックな喫茶店で、たまにバナナジュースを見かける。夏の暑い日には、頼んでみることもある。その中には、どろどろと濃厚で、優しくてまろやかな味のものもある。
 けれどどこか、父のそれとは違う。私はどうしても、父のそれしか『バナナジュース』と認定できないようだ。どんなバナナジュースと銘打たれたものを飲んでも、夏の暑い日に飲みたくなるバナナジュースは、何の変哲もない家庭用ミキサーで作られたスーパーの安いバナナを使って作られた、父のバナナジュースである。尤も、私はそのバナナジュースのレシピを知らない。そしてその一度限りしか飲んでいないので、記憶を美化しているだけかもしれないけれども。



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 あんこぼーろさん! いつも企画ありがとうございまっす!!

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