見出し画像

中国のオンラインサービスと身分証

 ご存知の方も多いかもしれませんが、中国は身分証社会です。国民一人一人に身分証が発行されており、これが自分の身分を証明する大事なものとなっております。今回は、この身分証がある暮らしについて紹介したいと思います。

 ただ、私自身が中国では外国人で、実際に身分証を所有しているわけでも、利用しているわけでもないので、もし不正確な点などございましたら、是非ともご指摘お願いします。


●中国の身分証とは

 中国でも、子供が生まれると戸籍を登録します。そして、その子供が16歳になると、身分証の発行が可能になります。身分証は、基本的にカード形式で、財布やポケットに収まるようになっています。今はオンライン上の身分証もあります。有効期限は、年齢によって3段階に分かれています。16歳〜25歳までは10年間、26歳〜45歳までは20年間、そして46歳以上は永久になります。

 身分証に記載されている情報は、表面に発行機関の名称、有効期限、そして、裏面に、名前、性別、民族、生年月日、住所、顔写真、そして最も大事なのが「公民身分番号」と呼ばれる番号です。これが所謂I D番号にあたり、日本だとマイナンバーにあたるものになります。

 番号は18桁の数字からなっています。1〜6桁までの数字が場所を表す番号になります。省市区というレベルまでをこの数字で表します。7〜14桁までが生年月日、そして、15〜16桁が同じエリアの同じ生年月日の順番で振られる番号、17桁目が性別で、18桁目が確認コードという組み合わせになっています。

 また、こうした身分証のカードの発行が始まったのは1984年ですが、当初は比較的簡単な構造になっていたこともあり、身分証の偽造も発生していました。闇で身分を売買するといったことまで行われていました。そこで、2004年以降は「第2代居民身分証」と呼ばれる身分証に移行しました。これは、顔写真をカラーにして鮮明にし、カード自体も複数層構造や特殊な印刷技術などを用いることで高度な偽造防止を行い、カードの中にチップを埋め込むことで、非接触式でカード内の身分情報をやり取りできるようにしています。

 このように、中国では、国民一人一人の身分証をベースに行政サービスの提供などを行っており、生活に欠かすことのできないものになっています。政府の側でも、集められた情報を、それぞれの身分証の番号に紐付けて管理しており、最近では道路に設置されたカメラに顔認識機能が設置され、例えば赤信号で横断したら、すぐに身分情報が特定される…、といったことも行われるようになっています。

 中国では、かつてスリや強盗、子供の誘拐、ひき逃げなど凶悪な犯罪も起こっていましたが、近年では、随分治安が良くなったと感じます。行動がカメラで監視され、それが全部管理されている…などと聞くと、日本では不安の方が先に立ってしまうと思いますが、中国の場合、これで安心して暮らせるようになった、ということでメリットを感じている人も多いようです。


●身分証のある暮らし

 さて、このように行政上の管理目的で発行されていた身分証ですが、近年ではスマホのアプリ上で運用されているほぼ全てのサービスの基礎になっており、中国のデジタル化の発展を促す大きなベースになっていると感じます。

 アリペイやWeChatペイなどのお金を取り扱うアプリはもちろんの事、飛行機・鉄道・ホテルなどの予約ができる旅行アプリ、シェアバイクなどのアプリ、最近では新型コロナウイルス対策として登場した健康コードアプリも全て身分証との紐付けが求められるのです。利用者としては、自分の個人情報を提供することに躊躇いはあったとしても、企業としては、これにより本人確認を担保することができるため、不正な利用をされることを防ぎ、オンラインを通したサービスを確実に提供することが可能になるのです。

 そして、こうした傾向は、社会のデジタル化が進むことで、益々強まっているような傾向があります。これは直接身分証とは関係ありませんが、例えば、現在中国の多くの飲食店では、Q Rコードを活用した注文会計が始まっています。利用者は、それぞれのテーブルの上に貼られたQ Rコードをスキャンします。すると、大抵はWeChat上で運営されているミニプログラムというミニアプリに飛びます。そこには、店舗内のメニューが出てくるため、客は注文を選んで先に電子決済で会計を済ませます。もはや現金を使わないどころか、店員さんとコミュニケーションを取る必要さえないのです。

 店舗側は、注文がオンラインで入ってくるので、料理を作って提供。客が帰った後にテーブルを片付けたら終わりです。こうなると、店員の役割は、配膳と片付けがメインになります。人数が削減できて、接客スキルを教育するコストが不要となります。フランチャイズ形式で多店舗展開を行っている飲食店では、ほとんど採用されているシステムになっています。こうしたサービスが発展していく背景には、身分証で担保されたオンライン上の信用保証システムが整っているから、ということは言えると思います。

画像1


●外国人と身分証

 では、身分証がない人はどうするのか?中国で暮らす外国人には、当然、中国の身分証はありません。それぞれの国のパスポートが自らを証明する手段になります。従って、外国人がこうした中国のサービスを利用しようと思ったら、パスポート番号を利用して登録を進める事になります。

 ところが、これが結構不便なのです。外国人は、中国では圧倒的なマイノリティになります。外務省の統計によると中国に在留する日本人は、令和元年で約11万5千人。半分以上の少数民族の人口の方が多いというレベルです。したがって、こうした外国人の利用を想定せずにアプリを開発しているようなサービスも数多く見受けられます。アプリをダウンロードしてみて、いざ利用しようと思ったら、利用の前に18桁の身分証の入力を求められ、パスポート番号では入力不可…なんて経験をする事になります。

 特に感じるのが、高速鉄道。最近では、高速鉄道に乗車する際に、アプリでチケットの予約ができるので便利です。身分証があると、改札で身分証をかざすだけでデータが予約したチケットの情報と連動しゲートを通ることができます。ピッピッピと流れていく様子は実にスムーズ。毎日膨大な数の利用者を捌くのに画期的なサービスです。

 しかし、外国人だと、これが使えません。そのため、予約した時間よりもかなり早い時間に駅に行き、チケットの取消や変更のために設けられた窓口の行列に並び、紙のチケットを発行してもらう必要があります。更に、パスポートでは自動改札は通れないので、いちいち駅員がいるところに行き、改札を通してもらう必要があります。自分が外国人であることを強く意識する瞬間です。最近では、空港でのチェックインも同じような状況になってきました。

 中国は現在、内需の拡大に力を入れています。中国人の消費によって中国経済を支えていくという事になると、中国の身分証制度に紐づいて最適化されたサービスが増えてくることでしょう。しかし、こうしたサービスが便利になればなるほど、身分証制度から外れた外国人居住者や海外からの旅行者などのマイノリティにどのようにサービスを提供するのか…、そんなことが課題になってくるのかもしれないと思うのです。

画像2

《 ライチ局長の勝手にチャイナ!vol.11 》

【 福岡広州ライチ倶楽部HP 】
 ※福岡広州ライチ倶楽部に関する情報や、入会等のお問い合わせはこちらから
  http://lychee-club.jp
【 福岡広州ライチ倶楽部Facebook 】
 ※広州に関するコラムや福岡広州ライチ倶楽部の活動内容の情報はこちらから
  https://www.facebook.com/fukuoka.guangzhou.lychee.club

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?