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日本が舞台の大ヒット新春映画「唐人街探案3」を見る!

2月12日は、春節(旧正月)を迎え、中国は1年で最も大きなイベントを迎えました。
春節の過ごし方はそれぞれですが、その中でも新春映画を見るというのも楽しみの一つです。大型映画が次々に封切りされる中、今年は「唐人街探案3」という映画がとりわけ注目を集めています。実はこの映画、日本を舞台にしているのです。

今回は、この映画について話をしたいと思います。

◉大ヒット映画「唐人街探案3」

今年の春節は、コロナの影響で、居住地で春節を過ごすことが求められました。
移動制限という程の強制力はありませんでしたが、結果的には省を超えた里帰りや旅行は控えられ、近所で過ごすという春節でした。

その結果、記録的な興行収入を叩き出しているのが映画産業です。
2月11日〜18日までの1週間あまりで興行収入は既に80億元(約1,300億円)を突破し、歴代の記録を更新しています。2020年の日本全体の興行収入が1,432億円ということを考えたら、この数字のすごさが伝わると思います。

中でも、一番のヒット作が「唐人街探案3」という映画です。18日までで36億元(約600億円)の興行収入を売り上げています。実はこの映画、昨年の春節時に公開を予定されていた映画で、昨年も鳴り物入りで大々的に宣伝していたのですが公開延期になっていました。その後、中国でのコロナは落ち着いてきましたが、公開を先延ばし、今年の春節の公開に合わせてきたというわけです。

そして、この「唐人街探案3」の、もう一つの注目ポイントが、舞台が東京であるということです。そもそもこの映画は、王宝強と劉昊然が演じる探偵コンビが事件を解決していくというシリーズで、1作目の舞台がバンコク、2作目がニューヨークときて、今回は日本の探偵(妻夫木聡)の招待を受けて、東京で起こったヤクザ同士の抗争による密室殺人事件の謎を解くという流れになっています。

したがって、シリーズを通して出演しているレギュラー俳優以外は、ほとんどが日本の俳優で固められています。メインの妻夫木聡をはじめ、長澤まさみ、三浦友和、染谷将太、浅野忠信、鈴木保奈美、橋本マナミ、奥田瑛二など、大物の方々ばかりです。中国と関わりのある役柄の俳優さんは中国語を使いこなして演技しています。

◉日本人として見る日本

なるほど…。そんな前評判を聞いたら、日本人として見に行かないわけにはいかない!

ということで、早速、見に行ってみました。

…が、結論から言うと、個人的には「うーーーむ」でした。
(この映画を楽しみにしている人は、この先は見ないでくださいね。)

やはり、なんでしょう…。

よく見知った東京で、素晴らしい俳優ばかりだし、セリフもほとんどが日本語で、とても素晴らしい演技をしているのですが、不思議なことに、どこまでいっても全く感情移入できないのですよ。精巧に作られたパラレルワールドを見せられているようで、ずっと違和感しかないのです。博多弁で演技している東京の俳優さんを見て「大体合っているんだけど、なんか違うんだよねー」という感じに近いかもしれません。

というのも、映画に登場する日本は、中国人がイメージしている日本そのもの。冒頭では、大きな浴場に連れて行かれ、入れ墨だらけのヤクザ達に囲まれながら組の大親分(三浦友和)に事件の解決を依頼されるところから始まり…。和服美人、忍者、相撲取り、剣道、コスプレ、聖闘士星矢、ちびまる子ちゃん、オタク、猟奇殺人…などなど、これでもかという程に日本っぽい要素が盛り込まれています。ストーリー展開も、「いやいや、それはないでしょう」というツッコミどころばかりで、むしろ苦笑いの連続です。

しかし、よく考えたらこれって当たり前で、想定している観客が春節の娯楽映画を楽しみにしている14億人の中国人である以上、中国人が持っている日本のイメージを最大公約数で盛り込んで、思いっきり強調した方がウケるはずです。そして、往々にしてそれは元々のセルフイメージとはズレが生じます。中国で、ラーメン大好きな弁髪の超人にも、一見うだつの上がらないカンフーの達人にも、「アルよ、アルよ」と話す中国人にも会ったこともありませんが、きっとそんなものです。

だから、この映画は「中国人の目に日本がどう映っているか」ということを学ぶには良い教材なのかなと感じています。スタート地点を自分たちのセルフイメージから出発して考えると、相手との認識に大きな隔たりができるものです。ですが、相手の視線に合わせてやると、そこから見えてくる違う景色もあるはずです。そういう意味では、相手の視線の先にあるものを知り、そこをスタート地点にするための出発地点のような映画だと感じています。

◉外注を受ける時代へ

そして、その象徴であったのが、この映画に出演している三浦友和さんと鈴木保奈美さんの2人の俳優だと思っています。

三浦友和さんが出演した「赤いシリーズ」は80年代に中国のテレビでも一世風靡しました。その際、山口百恵さんと共演し、その後、実生活でも2人が夫婦になった話は、中国でもとても有名です。

また、鈴木保奈美さんが主演した「東京ラブストーリー」も、90年代を過ごした中国の若者に絶大な人気を誇りました。これを見て、日本へ憧れを抱いた中国人も少なくありません。

その2人の俳優が「唐人街探案3」に出演していることで、年代が高い層から低い層まで、日本に行った経験がある人から経験がない人まで、自分の思い出と日本をつなぐ引っ掛かりができ、結果的に家族が一緒に楽しめる娯楽映画に仕上がっているのです。実際、40代の友人に映画の話を聞くと、映画の感想はそっちのけで三浦友和と鈴木保奈美にまつわる思い出話ばかり返ってきます。

ただ、ここでしっかりと考えておかなければならないのは、「なぜ80年代、90年代に日本のコンテンツが中国で一世風靡したのか」というと「当時中国が豊かでなかったから」で、「なぜ今、日本の人気俳優が中国の映画に出演しているのか」というと「今中国が豊かになったから」だということだと思います。

産業が貧弱な時には成熟した市場の作品を買ってくる他に方法がないのですが、産業が発展してくるとお金をかけて自分好みのものを作れるようになる。実は、これは中国の経済発展に伴い、どこの分野でも進んでいる現象だと思います。自分の痒いところには、自分の手が一番届く。冒頭でも言いましたが、たった1週間で日本の1年分の興行収入を叩き出せる市場の大きさが、今の中国の内需の力なのです。

そうなると、日本の俳優も、中国人にとってはもはや日本の映画だけで見るものではなく、中国映画を彩る要素の一つとして単体でのブッキングが進みます。中国人の目に映る日本的なものを背負わされ、違和感のある役柄を与えられることも増えるかもしれません。それは本人にとってもチャレンジであることは確かでしょう。

ただ、今回、「唐人街探案3」に出演している日本の俳優は皆さん鬼気迫る素晴らしい演技をしていて、中国の映画サイトにも「中国の俳優と雲泥の差だった!」といった賞賛のコメントが溢れています。

そうそう、元々、無理難題を押し付けられても、それに必死に取り組んで改善策を編み出すところに日本人の長所があったよな…、とそんな事を考えた新春なのでした。


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《 ライチ局長の勝手にチャイナ!vol.6 》

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