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【対談】vol.1「中」を見ているだけでは変わらない——学校の「外」から持ち込む、試行錯誤の楽しさと学ぶ意味

みなさん、こんにちは。
LX DESIGN公式note担当者です。

LX DESIGN 代表取締役社長の金谷が、「少し先の教育業界を創る」をテーマに様々な方と対談する、この企画。第一回目は、富山県立富山北部高校で生徒の進路や就職指導にも携わる、小柴憲一先生との対談です。外部のライターさんに協力をいただきました。
『複業先生』が生まれる前から、LX DESIGNの活動を応援してくださっている小柴先生。企業を絡めた取り組みにも積極的に取り組んでいらっしゃる背景には、どんな思いがあるのでしょうか。いま学校現場が抱える課題、そして学校の「外」にいるからこそできることとは?

学校の中しか知らない者が「社会で生き抜く力」を教えられるか?と自問

――お二人はどんな経緯でお知り合いになったのですか?

小柴:もう何年前になるかな。前任の富山県立滑川高校で、薬業科の生徒たちが医薬品メーカーと一緒にスキンケア商品を開発する取り組みを行ったんです。それで出来たのが、富山県産の材料を用いたスキンケア商品「美絹(うつくしるく)」。商品を砺波チューリップ公園のイベントで販売していたときに、突然金髪のお兄さんが「すごいですね、高校生が企業と一緒につくったんですか?」と話しかけてきて。

金谷:あははは(笑)。そうでした。高校生が主体となって地域のイベントに出店し、自分たちが手がけた商品を売っている場面に出くわすことなんて、なかなか無いじゃないですか。「この取り組みを主導された先生って、一体どんな方なんだろう」と興味が湧いて、ご挨拶をしたんです。

小柴:私は生徒に企業と関わる機会をつくることをライフワークにしていたから、何かご縁があったら、と名刺交換をしてね。

金谷:当時、僕は富山県内の学童保育と連携してIT教室を開いていました。「学校の外にいる人だからできることを、学校の中に提供したい」という思いはあれど、まだその頃は『複業先生』の思想やサービスもなくて、ほんと何者かわからない“怪しい金髪のお兄さん”だったと思います。でも、企業と協力して、生徒たちに新しい体験をもたらしている小柴先生なら、僕の思いにも耳を傾けてくださり、アドバイスをいただけるのではないかと思って。イベントの後しばらくしてから、改めてご挨拶に伺いました。以降、僕からアイデアをぶつけては先生からフィードバックをいただいています。そして2020年の秋には『複業先生』で滑川高校に授業提供をさせていただきました。

――小柴先生はどうして生徒さんに対して、企業と関わる機会を与えたいと思ったのですか?

小柴:教員になって今年で31年目になるのですが…。

金谷:えっ、すごい。僕、いま31です。

小柴:そうか、31年なんてあっという間だったよ。その間、私が課題として感じていたのは、高校を卒業してすぐに就職する生徒たちが、アルバイト経験も十分にないまま急に学校から社会に放り出されることでした。私を含めて教員の多くが、学校の外で働いた経験がありません。その教員が教える学校の勉強は、果たして社会で生きていくための実践的なカリキュラムになっているのか。たとえば富山県は「くすりの富山」と言われるほど製薬事業がさかんで、私が教えていた薬業科では7〜8割の生徒が県内の製薬メーカーに就職します。それならば実際に製薬メーカーで働く人たちのもとで、仕事の現場を体験させてあげたいと思いました。
実際に企業と活動してみたら学ぶことばかりで、大きな刺激を受けました。化粧品の成分の配合も、研究所に行って生徒たちと試してね。商品をつくるだけでは売れないから、パッケージやネーミングはどうしよう?と悩んだり、コロナ禍以前だったので海外からの観光客に向けてPOPをどう書こう、と苦戦したり。

――さまざまな試行錯誤が、学校現場の外の人たちと携わることによって生まれたのですね。学校の中だけでは、その試行錯誤そのものがなかなか生じないのでしょうか。

小柴:そうですね。実際に商品になり、いろんな人に手に取ってもらえたらやっぱり生徒たちも嬉しいし、だから頑張れる。それでも思い通りにいかない状況が、さまざまな試行錯誤を生むんだと思います。「いいものができた」と思っても売れない、ということがある。その壁にぶつかって初めて「なんでだろう?」「何をどう考えればいんだろう?」「学んだことをどう生かせるだろう?」と思考するわけです。これは就職する生徒だけではなく、進学する生徒たちにも、良い経験になったのではないでしょうか。

――小柴先生は、高校時点から社会の“擬似体験”の機会をつくることで、正解のない問いに対して思考する力を身に付けさせようとされているのですね。

「入試に出るから勉強しなさい」が通じない生徒に、何を言う?

――学校の中から「企業との接点」をつくってきた小柴先生と、学校の外から「学校に関わる人を増やす」活動をしている金谷さん。お立場は違いますが、現在の学校現場にどのような課題を感じられているのでしょうか。

小柴:当たり前ですが、学校にはさまざまな生徒がいて、それぞれ異なる人生を歩みますよね。学校によっても、生徒や保護者が求めるものは違う。すべての生徒のゴールが、有名大学に進学すること、名前のある企業の就職試験を突破することではありません。それでも教員がよく言いがちなのは「これテストに出るから」「入試に出るから覚えなさい」といった言葉です。もし、大学受験という文脈でしか学ぶ意味を語れないのなら、受験に臨まない生徒たちには何も教えられないことになります。

でも実際は、高校を卒業してすぐ就職する生徒たちが「入試を受けないから、国語を勉強する必要はない」なんてことはないでしょう。社会に出て、たとえば自分の企画をプレゼンするとなったときに、思いを伝える力が必要だったと気づくはずです。

学校で特に勉強という側面でうまくいった人が教員になることが多いから、「テストの点数を伸ばすことが、良いこと」「生徒をいい大学に送り出してあげたい」という気持ちが芽生えがちなのかもしれない。でも私は「自分は就職するから、学校の点数や大学名は関係ない」と思っている生徒たちにこそ、社会で生きていくために必要なことを高校の段階で教えたい。生徒たちの知らない発想に触れさせたり、試行錯誤の楽しさを体験させたりするためには、教員自身が学校の外の社会を知ることを怠り、学校の中だけに閉じてしまいがちな状態は課題だと考えています。

金谷:なるほど…。僕、高校のとき進学校に通っていたんですが、自分が一番志望した大学には受からなかったんです。今、小柴先生の話を聞いていて「もし自分が大学受験に成功していたら、教員になって受験を煽る立場になっていたかもしれない」と思いました。

小柴:社会って本当に変わりましたよね。金谷さんのように会社を興す人も増えて、自分の思うことを世の中に問うことができるようになった。インターネットやITを活用した仕事はどんどん増えていく。それにあわせて学校現場も変わらないといけません。もちろん自分たちだけではできないことがたくさんあるから、LX DESIGNさんのような外部のサービスをうまく活用していけたらいい。

ただし、お金をかけて外部のサービスを利用することに消極的な学校もまだまだ多いと思います。本来は教員多忙化の問題を解決するためにも、生徒たちにとって有意義なサービスは利用して、きちんと対価を払うべき。学校の外の力を借りることの価値を理解してもらい、きちんと予算化していくというのは、自分にとって最大の壁だと考えています。共感してくれる仲間が増えてきているので、何とか突破したい。

金谷:小柴先生は、新しいことや一見変わっているもの、これまでの学校現場になかったことを面白がりながら、学校現場に取り入れていく変革者。こうした新しい取り組みが学校現場に次々と生まれていくために、僕ら外の立場からも、もっと仲間を増やす活動をしていきたいです。おそらく小柴先生のような変革の担い手の先生方がやっていらっしゃることを見て「学校にいても、こんなふうに企業と関わる方法があるんだ!」と気づく若い先生方も多いんじゃないでしょうか。

僕自身も、社会が変化しているからこそ、学校がこれまで以上に多様性を持ち、子どもたちに新しい体験をもたらしていく場であってほしいと考えています。もちろんこれまでもスローガン的に「多様性を認めよう」と伝えていると思うんです。でも本当に認めていたか。これは僕自身の反省なのですが、僕が小学校の教員だったとき、児童に向けて「人を見かけで判断してはいけません」って言っていました。でも自分が金髪にしてわかったのは、人は見かけで判断しますよ(笑)。世の中ってそういうものだった。建前抜きの世の中をちゃんと見つめながら、それぞれ異なる生徒と向き合っていくためには、さまざまな個性を持った人たちが積極的に学校に関わっていく必要があるんじゃないかと思っているんです。

「働くことが楽しい」多様なキャリアを歩む大人に出会える場を

――小柴先生は金谷さんに期待していることはありますか?

小柴:金谷さんにいつも期待しているのは、私の知らない人を知っている、つまり学校の中では通常出会えない人や体験を生徒たちにもたらしてくれるところ。金谷さんが紹介してくださる方や、LX DESIGNに関わっている方は、社会人になってもさまざまな興味関心を抱いていて、会社内で起業したとか、複業をしているとか、魅力的な方ばかりですよね。

前任校で『複業先生』に授業提供していただいたのですが、看護系や工学系など、そのときの生徒たちが希望する進路に合う方をご紹介くださいました。素晴らしい人選で、その時授業をしてくださった方たちはみんな仕事を楽しんでいた。その様子が伝わったのか、生徒たちの反応はとてもよかったです。そのとき『複業先生』の授業を受けた生徒たちが今年卒業だったのですが、例年18人くらい国公立大学に進学するところが、今年は32人合格しました。もちろんいろんな要因があるでしょうが、やはり『複業先生』を通じて学ぶ動機を見つけたとか、何かが変わった生徒がいたんじゃないかと思います。

金谷:えっ、そうなんですか。すごい。初めて知りました。

小柴:そうなんです。やってよかったよね。今後、より期待することとしては、『複業先生』で授業を受けた後、生徒たちが個別に興味を持ったことに対してどのように学んでいけばいいのか、実際に学校の外にいる先生たちのもとで次の学びや体験ができる場をぜひつくってほしい。

金谷:頑張ります。今日、僕がすごく嬉しかったのは、小柴先生が『複業先生』(として登壇する先生)や、LX DESIGNのメンバーのことを魅力的と言ってくれたことです。

小柴:LX DESIGNに関わる人たちって、本当に素敵な人ばかり。みなさんどうして、金谷さんのもとに集まってくるんでしょう? 一度、会社訪問に行きたいくらい。きっと、何か金谷さんに魅力を感じて、集まってくるんだよね。

金谷:嬉しいです。僕は小学校の教員を志したとき「子どもたちに、いろんな魅力的な大人を会わせてあげられる先生になりたい」と思っていたんです。その夢が今、違う形で叶っているのかなと思いました。これからもLX DESIGNが、子どもたち、そして学校現場で日々奮闘されている先生方にとって「出会えてよかった」と思える集団であり続けたいと思います。


取材・文/塚田智恵美

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