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4. 岡山の「マチナカギカイ」は、いまどんなかな?

「公務員とミーティング文化」のつづき)映画づくりでも社会運動でも、活動に対する注目は、リーダーシップをとったプレイヤーに集まることが多い。でもその背後には、プレイヤーの働きを「可能にする働き」をしている人が必ずいる。

NPOにおける事務局の重要性を論じたのはドラッカーだっけ。部活でいえばマネージャー。企業でいえば総務課。

実務能力もさることながら、そのポジションにいる人の〝物事に対する姿勢〟が全体の空気を変える。彼らが基本的にポジティブで、面白がる能力が高く、好奇心が豊かで心が開かれていると、活動全体にいい空気が広がってゆく。その影響力は大きくて、プレイヤーも伸び伸びと力を発揮出来るようになる。これはみんなよく知っていると思う。

で、この〝事務局〟にあたる存在は、地域でいえば市町村役場だろう。まちの人々が「する」ことを「より可能にする」ポジション。

そのポジションにいるのに、職員さんが、住民とのミーティングで形式的なことしか口にしなかったり。意図せず抑制的で、いまここで自分が感じたことや思ったことを素直に表現するのが得意でなかったり。最初はまだ見えていなかった場所に、話し合いながら一緒に辿り着いてゆく時間の面白さをあまり知らないようだと、地域で起こることも起こりにくくなるし、育つものも育ちにくくなってしまう。

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岡山の市議会議員・森山幸治さんと出会ったのは2013年頃だと思う。彼はカフェや洋服屋をいくつか経営する街場の若手で、民主党に担ぎ出されて議員選に出た。

 中心市街地の商店街はまぁすごく寂しい感じになっていて。(中略)しかしお店を頑張ってもなかなかこう芽が出ないというか。

 商店主の努力が足りないんだろうと僕らは自分を責めるのだけど、でも「それだけじゃないんじゃないか?」という想いが5年ぐらい前からすごくあった。

 お客さんをこれ以上増やしてゆくことに限界を感じていたんです。僕たちは種をまいて水をあげて、肥料をあげて、芽が出て収穫できるのを楽しみにしているのだけど、「ひょっとしたらこれは土が悪いんじゃない?」 ということを考え始めていた。いわゆる行政のことを。

『一緒に冒険をする』(弘文堂・2018)より

議員に当選して彼がまず最初に始めたのは、マチナカギカイという取り組みだったと聞いた。

当時各地がざわついていた「瓦礫の広域処理」を手始めに、「子育て」「都市交通」「観光政策」など、毎回テーマを決めて、大学の先生、カフェの経営者、編集者、NPOで頑張っている人、主婦、建築家、整体師、いろんな人々がカフェに集まり、議員さんや市の担当職員さんにも来てもらってみんなでワイワイ話し合う空間をつくってきたと。それ、いいじゃないですか。

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最初、役場の人は参加すること自体に躊躇していたが、クレーム電話をかけてくるたぐいの人々とは違う住民さんたちに会って、直接話を交わす機会を得て、つながりが出来て。そこから生まれた施策もあってねと聞かせてくれた。


「ミーティング」は会議や打合せの意味で使われることが多い。英単語のmeetingも会議や会合を指す。
けど、meeting は meet の現在分詞で、meet には「会う」「出会う」「出くわす」など、想定をこえた出来事、偶発性のニュアンスがある。Nice to meet you も、その次からは Good to see you や Longtime no see you に変わる。

meet は一回性を捉えている。以後一会というか。この目線で見直すと「ミーティング」が輝いてくるというか、本当にいい言葉だなと思う。


神山の町職員に話を戻すと、私がミーティングのたびに凹んで帰宅していた頃から6年経った近年の風景はだいぶ違う。途中から「役所には〝シナリオ会議〟も多くて」と笑いながら聞かせてくれるようになった彼らは、ミーティングの席で屈託なく言葉を発するし、100名以上が集まる場でも丸腰でマイクを握りながらバンバン話していて、かなり格好いい。

この6年の間に業務量が減ったわけじゃないと思う。追って2015年に始まってゆく神山町の創生戦略「まちを将来世代につなぐプロジェクト」は、むしろ仕事を増やした。

職員さんたちの変わりようを思い出していたら、「役場庁舎」について少し書きたくなった。(つづく)


*『一緒に冒険をする』(弘文堂・2018)
森山幸治さんのインタビューが収録されています
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