【短編】回帰

  灰が舞ったセピアに、墨を引いたような地平線。たった4時間の冷たい夜がまた、その気配を届かせる。貪り尽くした地球を乗り捨て、数ある太陽系コロニーに離散、疎開した人類は、とうとう宇宙人というわけだ。22世紀中葉、米中の熾烈な宇宙開発競争が先導の旗印となり、科学や理工学はその体系の毛細血管まで爆発的な急成長を遂げた。生活や社会はその過程、目紛しく変貌を重ねた。ついに旧時代の痕跡ごと置き去りにした今、ここにある景色は違和感を丸ごと塗り隠すように整然と横たわっている。画一化された管理体制。統一された言語。歯車という言葉が良く似合う。かつて持て囃された帰属的アイデンティティ云々はもはや淘汰され、旧来の共同体文化の足跡はどこにも残っていない。皮肉な話だ。生態系から逸脱し、惑星を搾取し、種としての運命を潜り抜けたその先で人類は、数多存在するどんな他種よりも生命にしがみついている。連綿と続く種の保存の軌道を未だ、本能のままに追いかけているのだ。遠い昔に肥大化させた筈の脳は、すっかり埃を被っている。目的と手段は鶏と卵だ。深い闇に落ちた惑星を一望していると、次第に我が本能もまた安息を欲した。

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