【長命夫を暗殺しよう!!】 #逆噴射小説大賞2024
雷岬イナが最後に夫のライゴンとセックスしたのは確か、ローマ皇帝ジュリアスシーザーがブルータスに暗殺される少し前のことだ。激動の時代真っ只中だったが、夫婦関係の方は冷え込みの様相をみせていた。ような記憶がある。結構昔のことなので、細かいことは覚えていない。日本に引っ越した後、徳川家光が参勤交代制をローンチしたあたりでも気まぐれに一回やったかもしれないが、それも随分前のことなので、いまひとつ判然としない。とにかくこの2000年で1回か2回きりということだ。雷岬夫妻はかなりの期間に及ぶセックスレスにあった。
どれほど仲の良いカップルだろうが、結婚して夫婦となり、生活し、眷属を増やし、ともに時間を重ねていくうちに、どうしてもすれ違いが出てくる。冷蔵庫にあった輸血パックを勝手に飲んだ飲まないとか、小さなところから亀裂が発生、じわりじわりと広がっていく。人でも長命種でも、そのあたりは変わりない。
およそ数千年も吸血鬼二人で一緒に暮らすと、いいところ悪いところ、血液の好き嫌い、ほくろの数と位置から、狼男との戦いで後頭部を噛みつかれたときのリアクション、お互いのことはなにからなにまで知り尽くした関係になる。長い間一緒に暮らしたパートナーにこんな意外な一面が! みたいな新たな発見にはもう期待できない。
ライゴンは結婚当初から吸血鬼夫婦としては特に問題のない夫だったとイナは思う。眷属の掟を遵守し、一族を導いてきた。だが8000年も一緒に暮らすと、問題がない事それ自体がすでに重大な問題であった。だからといって離婚することも殺すこともできない。吸血鬼の婚姻の契にはそういう効果があるのだ。かくして就寝用棺桶を別々の部屋に置くようになり、2000年以上が経過していた。
そしてマンネリの生活に、ついに劇的な変化が訪れた。隣家に有名なヴァンパイアハンティングyoutuberが引っ越してきたのである。
【続く】