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同期、退職するってさ。

同期がこの秋に退職をすることになった。
「わたし、仕事辞めるよ」
相談じゃなくてきっぱりとそういった彼女に、わたしは「そっか」とあっけないような言葉しか吐けなかった。

4年前、わたしの会社では今まで新卒を取らず中途採用が中心だった。今わたしが所属している部署の上司が、1から人材を育てたいという希望をもとに、初めて新入社員の公募を始めたそうだ。

わたしはたまたま採用活動がうまくいかず希望職種を切り替えたところで、ちょうど採用を始めた会社に応募したのが、今の会社だ。とんとん、と進み選考は1か月で終わって苦戦していた半年間が嘘のようにあっという間にわたしの就職活動は終了した。


彼女に出会ったのは内定式の時だ。ちょうどわたしが確定したあとに数人確定したとのことで、内定式が取り行われるようになった。

当時内定式の待機室にいた人事担当者は新人さんで、内定者よりも緊張しており、ちょっと困惑をしていた。内定者はわたしを含めて4人、全員がそろった後に人事担当者が部屋を離れると、緊張して一言も話さなかった4人は誰からかわからないが思わず噴き出した。

「あの人、私たち以上に緊張していたね」

そんな話からわたしたち4人はすぐに意気投合した。

4人中1人は新卒入社だが第二新卒で、すでに仕事に携わっていたところだったらしい。わたし含めた他の3人はまだ大学生。それが始まりだった。


入社して4月は、いつも4人お昼ご飯を食べていた。

仕事がよくわからない、上司がいつも席にいない(これはわたしの話)、覚えることが多くて大変など、お昼休憩の1時間だけでは話が終わらないぐらい、ずっと話をしていた。

本社所属のため全員が裏方の業務になる。だけどそれぞれが違う部署に所属していたため、上司などの不満や大変さは共有できず、自分の中にとどめることが多かった。


最初は第二新卒で入社した子だった。

ある日突然、出社をしなくなった。

会社はざわつき、労務の方がその子のもとに何度も通って話をした。わたしたちも何か聞いているかと聞かれたが、みんな突然のことで困惑しており「何も知りません」としか答えられなかった。

彼女は部署移動を希望していたが、会社的にはうまく調整できなかったようだ。彼女はそのまま会社に出社することなく、退職をした。


2人目はおとなしい子だった。最初に希望していた部署で頑張っていたが、業務と力量がうまく合わずいつも困っていた。わたしもパソコンの操作方法など教えたり困ったときに付き添ったり、一番仲が良かったとわたしは思っていた。

結局彼女は部署移動になった。部署移動になりながらも前部署に人がいなくなってしまうと業務が急に滞ってしまうから、実質彼女は2つの部署を行き来しながら業務をしていた。

そんな彼女は部署移動の話が合ったぐらいから、わたしに「実はやりたいことがある」と話をすることが増えた。

もともと習い事をしていたが入社を機にやめることになった。
けれどもやっぱり夢は忘れられなかったという。

彼女は急に会社に来なくなる、ということはなかったが、退職の意思を決めてから退職までは非常に早かった。

最後の片づけは一緒に手伝ったのだが、そうかこの子もいなくなってしまうのかと、ぽっかり胸に穴が開いたような気持ちになった。

入社して2年目のことだった。



残ったのはわたしと、非常に活発な女の子の2人だった。

彼女はかなりきっぱりと話をする子で、上層部の人とも仲良くなるのが早く、さらに問題ごとが生じた時には適切な人に相談をして解決し、道を切り開くのが得意な子だった。

反対にわたしは自分と上司の関係がうまくいかず、業務の圧迫と自身の特性(一般就職だが発達障害持ち)に苦しんだ結果、うつ病の診断を受けた。

2年目の冬に、わたしと彼女の職場が離れた。

真向いのビルに移動したため、すぐに会いに行けるけれど、物理的に距離が離れると会うことも減り、当然会話も減った。

ただわたしが本社にいくことがあり機会があれば、話しかけてくれる子だった。

彼女がいることが、彼女が仕事をどんどんこなしていくのが、まぶしいようで羨ましくてそれでも同じ同期なんだよ、という誇りがあった。



そんな彼女が退職をする。

4年目の夏に告げられた言葉は、想像以上にあっさりわたしの胸に落ちた。

「入社して3年間は頑張る」

今のご時世この言葉はちょっと古いかもしれないけれど、わたしたちの時にも3年間は努めるのが推奨されていた。その3年が過ぎたあたりから、わたしも仕事・将来について考えることが増えていた。同じ時期に入った彼女が同じことを考えたのも、必然だったと思う。

2人で話をするのは久々だった。彼女はもうきっぱりと退職を決めていた。

上層部の方にずいぶん引き留められたと言っていた、彼女は仲が良かっただけではなく、仕事に関しても真摯に向き合っていたので引き留められないわけがないだろうと思っていた。直属の部長以上の人も出てきて、何度も面談の機会を設けられたらしい。

「新しく入った上層部の人と意見が合わなかった」

色々今まで考えることがあったのだろう。その最後の引き金を引いたのは、考え方の相違だった。

今まで部署のトップを引っ張っていた人が定年退職し、新しい人が部署の役職に就いたがその方は経営者であれど部署の業務の専任者ではない。だから方針をいきなり変える話になった時に、彼女は理由が欲しかったそうだ。

今までの方針のここがだめだから、こういう方針に切り替える。

そんな説明がなかったこと、他にもいろいろと気になる点があったとのこと、そして入社して3年が経過したこと、彼女の気持ちはもう固まっていた。

同じ立場ではないけれど、似たような境遇にいた自分もあーそうだな、わかるな、とぼんやりと感じ取ってしまった。

わたしの上司も突然経営者の方に切り替わり、今まで細々と確実に作り上げていた作業が、いきなり大きな範囲の話に切り替わった。間接部門には直接売り上げにかかわる業務は少ないのだが、業績を求められた。


上司が変われば方針が変わる、その方針についていけなくなった場合どうなるのか。

わたしの部署は少しずつ、少しずつ、疲弊をしている。

今までの業務で時間いっぱいだったのが他の業務が増えたことにより、業務内で零れてくる内容も増えた。時間内に終わらず後回しにすることも増えた。

まだわたしの部署はゆっくり疲弊をしたまま過ごしている。

だが彼女は一緒に疲弊をしていくのではなく、新しいステップに進むことを選んだのだ。

「わたし、1年前だと部署の人が何を話しているのかさっぱりわからなかった。だけどね、今は部長が話している内容を理解して、自分の意見を言えるの。ちょうど目指していた人もいなくなったから、ここじゃないところでもやっていこうと思った」

「でもLUYちゃんを置いていくことは気がかりだった。LUYちゃんが知らないところで、LUYちゃんの上司とはよく話していたよ、今日は調子が悪そうとか今日は比較的落ち着いているとか、だから負担をかけないようにLUYちゃんの調子が安定しているときに伝えようと思った」

結局上の人が口軽いから、すでに伝わっちゃってたけどね、と彼女は愚痴た。

そうか、わたしは彼女にとって気をかけてもらうような存在だったのか。置いていかれてさみしい、なんてとてもじゃないけれど言えなかった。

「でもまだこっちにはいるからさ、気軽に連絡してくれたらいつでも相談に乗るし時間取るよ」

彼女はそう言ってくれるけれどきっとその日は来ないんだろうなあ、と思った。

なぜなら2人目に辞めた彼女も同様のことを言っていたからだ。


彼女は秋に辞める、今は辞めるための手続きとして、業務の引継ぎを夜遅くまで行っているそうだ。

わたしはどうしようか、先週上司に雇用形態を変更してはどうかと伝えられたばかりだ。

うつ病、発達障害、それを抱えて働く中で、もうはたから見ても限界にみえると伝えられた。

でもまだ休めないし、辞められない。せめて彼女が気持ちよく会社を去るまでは頑張ろうかな、と思った。


それがわたしが彼女にできる、精いっぱいの送り出しだ。

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