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Pentas(non-no渡辺)③

好きかもしれない、とは思っていた。もう随分前から。まだ彼のことは何も知らない。彼も私のことは何も知らない。私にはここから先に踏み込む勇気はなかった。

また、変わらず店の前を通る。すると作業台には先日見た大きな花器に、美しい花たちが輝いていた。うわぁ、と思わず声が漏れた。その大きなアレンジメントの前にいた彼は、難しい表情をしていた。思わず声をかけてしまった。

「凄いです」

うわっ!と彼は大きな声を出した。

「ごめんなさい、驚かせてしまって」

「ああ、いえ・・・」と彼は自分の胸をさすった。

「本当に華やかで、きれいですね。凄いです。」

私の言葉に彼は「うーん・・・」と腕を組んだ。

「そう見えますか?」

「え?見えますよ?」

そうなんだ・・・とまた彼は腕を組んだ。私から見ると本当に華やかで鮮やかで美しい。そして、優しい雰囲気がある。何よりも、これを渡辺さんが作ったという事実に、勝手に感動した。

「・・・僕はこれ、納得してないんですよ。」とポツリと漏らした。私は静かに彼の表情を見ていた。悩んでいる、揺らいでいる、不安げな表情だった。毎朝挨拶している彼や白いガーベラを包んでくれた彼とは全く違う表情だった。

「どこが、と言われると説明しづらいんですけど・・・なんか違うんですよね。創立記念日っていうテーマと色指定があって、選んだ花たちに間違いはないんです。でも、心に響かない。」

じっと自分で作ったアレンジを見つめながらそう言う渡辺さんの横顔は、どこか儚げで見惚れてしまった。

「私は・・・すごいと思いますよ。鮮やかで繊細で。」

渡辺さんの横顔から目を離し、私も花を見つめた。私の拙い言葉は、彼に届くのだろうか。


「私は、渡辺さんから頂いた白いガーベラにずっと力を貰っていました。・・・自分では気づいてなかったけど、下を向いていたことに気づかせてくれた渡辺さんがくれた「希望の花」は、私を変えてくれました。渡辺さんのお花は、暖かくて穏やかで優しい。このお花たちからも、それを感じます。少なくとも、心に響く人はいます。」

花から目を離し、彼を見る。先程の不安げな表情ではなく、穏やかで優しい表情がそこにはあった。

「あ、ごめんなさい、お花のことなんて何も知らないのにこんなこと言われても困りますよね!失礼しました。」

「いえ・・・ありがとう。そう言ってくれる人がいるんだって分かるだけで救われるし、報われます。」

「あの、渡辺さん・・・」

そこまで言って、言葉を飲んだ。

「ん?なんですか?」

先を促す彼の声は本当に優しくて、ついうっかり喋ってしまいそうになるのを抑えた。

「いえ、きっと、喜んで頂けると思いますよ。・・・では、私はこれで失礼します。お邪魔しました。」

それから次に渡辺さんにあったのは3日後だった。私の姿を見つけた彼は、弾けるような笑顔になった。その笑顔に私の心も弾けそうだった。

「おはようございます!先日はありがとうございました!あの、昨日が例の創立記念のイベントだったんですけど、クライアントから大好評でした!あなたに言われて、本当に自信が持てました。」

「良かったです!でも私ではなく渡辺さんの力ですよ!本当に素敵でしたから。」

彼は少し下を向いて笑った。

「あの、また、来てくれますか?」

「え?」

「また、店に来て、僕の作品を見てくれますか?」

その声は暖かくて優しい、安心する、大好きな渡辺さんの声。ああ、やっぱり、渡辺さんのことが好きだ。

「もちろんです。」

自覚した私の心臓は、うるさい・・・。





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