CDSOが語る、LuupにおけるData Strategy部とは
「街じゅうを『駅前化』するインフラをつくる」というミッションを掲げ、電動マイクロモビリティのシェアリング事業を展開するLuup。将来的には電動・小型・一人乗りのマイクロモビリティを包括的に取り扱い、ファースト・ラストワンマイルの移動手段を確立し、全ての人が自由に移動できる未来を目指しています。現在は首都圏と関西圏を中心に、小型電動アシスト自転車と電動キックボードを展開しており、現在500ヶ所以上のポートが設置され、1000台以上の電動マイクロモビリティが街じゅうを走っています。
プロダクトの設計からオペレーションの構築まで、あらゆるチームと連携し、先を見据え重要な意思決定に深く関与するデータストラテジー部。データアナリストでも、データサイエンティストでもなく、データストラテジストである理由は?Luupならではのおもしろさとは?今回は、データストラテジー部を管掌する、株式会社Luup CDSOの松本崇宏さんにお話を伺います。
松本崇宏
株式会社Luup CDSO(チーフ・データストラテジー・オフィサー)
ロンドン大学(UCL)経済学修士課程修了。ペンシルベニア大学にて、コンピューターサイエンスの修士課程在籍中。新卒では東京海上日動火災保険株式会社で保険商品開発に従事した後、Uber Japan株式会社でマーケットローンチ&オぺレーションを統括。DataRobot Japan株式会社でのデータサイエンティストを経て、Luupにジョイン。現在はデータ戦略を管掌。
ー 松本さんは現在、ペンシルベニア大学の修士課程に在籍中なんですよね。
はい。3年前くらいからオンラインで、平日の夜や土日に少しずつ学んでいっています。分野はコンピュータサイエンスで、コンピュータやソフトウェアの仕組みに加えて、ビッグデータやAIなどデータにも関連することを学んでいます。大学院で学んだことが仕事に活かせたり、その逆も然りで、非常に充実した日々を送っています。
ー 新卒では保険商品開発をやられていたようですが。
新卒では、弊社と資本業務提携も結んでいる東京海上日動火災保険に入社し、私の担当は法人向け保険商品の開発でした。事故のデータなどを元に、利用者が支払う保険料と保険会社が支払う保険金のバランスがどうしたら取れるかなどを考えながら、保険を設計していました。特に、まさに今Luupが展開しているような新しいビジネス向けの保険を作る際には、そのよりどころとなるようなデータの蓄積がないので、似たような業種や参考にできそうなデータを探し、設計したりして。企業の新しい挑戦を支援するというところにおもしろさを感じていました。
LUUPは日本のインフラを変えると確信しジョイン
ー Uber Japanに入社したきっかけを教えてください。
保険会社を退職後、大学院で経済学および統計学を勉強・研究していました。ロンドン大学だったのですが、ニューヨークのタクシー市場を研究していて、料金が変わったらどれくらい需要が変動するのか?待ち時間と乗車率の関係は?などといったことを定量的に分析する研究していたのですが、当時、タクシー産業におけるUberの影響が無視できないほど大きくなっていたんです。ちょうど、イエローキャブの乗車数をUberが抜いたくらいのときです。それで、修士論文でもUberの影響について触れざるを得なくなり、それがきっかけでUberのサービスを日本にも広めたいと思い、Uber Japanに入社しました。
Uber Japanでの仕事は、海外のライドシェアを日本の規制やマーケットにあうようにローカライズしながら、日本で新しく市場を作る仕事をしていました。日々の仕事の中でデータを使って定量的にやろうという会社の文化があったので、データドリブンにプライシングやオペレーションの設計などを行っていました。
ーその後、DataRobot Japanに転職されたんですね。
DataRobot Japanでは、機械学習を簡単に扱えるようにするためのツールを提供しています。本来、機械学習を活用するには専門知識と経験が必要ですが、DataRobotは機械学習の民主化を掲げており、その思想に共感して転職しました。
DataRobotでは誰もが簡単に扱えるようなツールを開発していますが、現実問題としてツールを渡すだけでは使いこなすのが難しい部分もありました。データを使って分析するには、まず良質なインプットを取得して正しく料理することが大事です。いかに素晴らしい調理器具があっても、腐った食材を使ったり、正しい調理方法がわからなかったりすると、結局美味しい料理はできません。その素晴らしいツールを使って、実際にクライアントのAIプロジェクトを成功に導くためのお手伝いをしていました。
ーその後に、Luupに参画されたんですね!
2019年末なのですが、当時はステルスモードで自転車のシェアリングサービスを準備していたタイミングで、オペレーションやプロダクト設計を手伝って欲しい、と声をかけていただき、最初はパートタイムとして参画しました。
ーUberの経験が活きていそうですね!
Uberの経験はすごく活きていますね。LUUPと近い部分や、参考にしたい部分がたくさんあって。例えばUberの強みは社内ツールやアルゴリズムにあります。数分後を予測してドライバーとユーザーが全体最適にマッチするようなアルゴリズムだったり、スケーラビリティとローカリゼーションを兼ね備えた社内ツールがあったりと、成功のための基盤が整っていたんです。そういった強みはぜひLUUPにも取り入れたいと思っています。
ー最初はパートタイムでの参画とのことですが、Luupに本格的にジョインしたきっかけを教えてください。
2020年の5月に電動アシスト自転車のサービスをローンチしたのですが、その時サービスがどうしても気になって渋谷に繰り出しました。実際に人が乗り、実際に移動する、というのを見て、LUUPというプロダクトの手触り感をまざまざと感じたんです。ちょうどそのタイミングで、「経営メンバーとしてジョインしないか?」と打診され、このチャンスを逃すわけにはいかないと思って、2020年7月にジョインしました。そして2021年8月から現職のCDSOを務めています。
ー松本さんが特に惹かれたのはLuupのどんなところですか?
自分たちでプロダクトをつくっていくという実感と、それが日本のインフラを変えていくという確信がありました。ここまで強く感じたのは初めてで、理屈ではなく、人生を懸ける価値があると感じました。
入社してまず取り組んだデータ基盤設計
ー 実際、参画した当初のLuupはどのような状態だったんですか?
その頃は人数も少なくて、サービスも開始したばかりだったので、てんやわんやでした。Luupでは、開発にFirebaseを使っており、ユーザー行動や機体・ポート情報などはFirestoreからログが流れてくる状態です。BigQueryにログは溜まりますが、言ってしまえばただのログでしかないんです。そのままだと分析できないので、まずは分析できるようにテーブルを作り、整形するところから始めました。
▲Luupで使用している技術スタックの構成図。
それから現状把握をしやすくするために、売上やライド数、新規ユーザー数などといった経営に関わる数値を可視化したダッシュボードを作りました。
当時、フルタイムのソフトウェアエンジニアはCTOの岡田しかいなかったので、彼とどんなログをどうやって取るかなど相談しながら進めていきましたね。
やっぱりデータって、取ろうとしないと取れないんですよね。今は、プロダクト改善のために乗車後に乗り心地やユースケースを聞くアンケートの画面を挟んでいるのですが、こういった必要なものはソフトウェアチームと連携し、二人三脚で基盤を整えていきました。
ーそもそも、松本さんが思うデータとはどういったものなのでしょうか?
データそのものが、ただ存在するだけは意味はありません。文字列や画像は突き詰めたら0と1がただ並んでいるだけのものですから。全社的な課題からどのようなデータが必要かを戦略的に考え、意味のあるものとして資産として蓄積し、競争優位性になるように活用することが大事だと思っています。
ーちなみに、今のLuupはどれくらいデータを活用できているとお考えですか?
うーん…(笑)。現状は、正直に申し上げると理想の活用度合の30%くらいでしょうか…。必要なデータはかなり戦略的に取れていて、蓄積できたと思っています。あとの課題は活用ですね。もっともっと活用していきたいのですが、人数が少なく、やりきれていない部分があります。そう、圧倒的に足りないのは人です!
▲データ可視化の利用例
プロダクトの設計やオペレーションの基盤を作る
ー データチームはプロダクト設計にどれくらい関わるのですか?
かなり関わります。例えば、LUUPのアプリでは、乗車する前に目的地を選択するというステップがあります。
▲乗車する車体を選んだ後、目的地のポートを選択するステップが存在する。
この目的地ポートを選択するのは複数の意味があります。第一に、ポートが満車だったら返却できないことをユーザーに理解してもらうことで、ポートの溢れを防ぐことです。次に、ユーザーにどこのポートに返却したいか表明してもらうことで、例えばそのポートに返却したい人が多いことがわかれば、その周辺にポートを新たに増やす動きができます。更に、機体を返却したい場所の偏在により需給バランスもわかるので、オペレーションチームの動き方をより効率的にすることもできますし、ダイナミックプライシングを実施する場合にも重要なデータになっていきます。こういうところも勘案して必要なデータを集めるための機能仕様の策定などもするため、プロダクト設計に大きく関わっていきます。
ーダイナミックプライシングとは、ポートや行き先によって料金が変わるということでしょうか?
完全な実装には至っていませんが、その可能性も含め検討しプロトタイプを作っています。例えば、とあるポートに多くの人が行きたがるけれど、そのポートからライドする人が非常に少ないという状況であれば、オペレーションチームが車体の再配置をしてポートが満車にならないように動きますが、かなり人的コストがかかりますよね。例えば機体が溢れているようなポートで、そこにある機体に乗車したライドにはクーポンを発行するなど、料金を適正な価格に変動させることにより、オペレーションチームのコストダウンもはかることができます。
ー過去にクーポンを発行するのは実施したことがあるのでしょうか?
はい。この時間帯にこのポートを使えば安くなる!というのは過去やったことがあります。乗車時の目的地を設定するというステップを通してデータを取得し、それを活用した例になります。
ーすごい…たった一つのステップから、それだけのことをやれるんですね…!
そうなんです。他にも、乗車を終了して写真を撮るという、他社のサービスにはあまりないステップを入れています。それは、枠内に返却していただくことで、ポートオーナーや近隣の方々に迷惑をかけないようにしているのですが、写真のデータは、ちゃんと返してくれたかどうかの証跡になります。その写真も戦略的に蓄積しており、他のデータとも掛け合わせて、正しく返却されたかを判定する機械学習を使うための教師データとしても使うことができるんです。
ー戦略的にデータを溜めていることがわかる事例ですね。
まさに、データは勝手に溜まるものではなく、戦略的に資産化していくものです。だからこそ、データストラテジー部としては受動的でなく、積極的にプロダクト設計やオペレーション効率化にも関わっていきます。
車両は勝手に動かない、だから難しい
ー 他のモビリティサービスと比較した際の独自性はどんなところでしょうか?
LUUPの場合は車体が勝手に動かずポートにあるので、当初はライドシェアサービスの分析よりも簡単なんじゃないかなと思っていたんです。でも実際は逆だったんですよ。
Uberのようなライドシェアって、基本的に車が動いているから、ユーザーは乗りたいところから乗れるんです。更にドライバーはフィーがほしいので、需要の高いところへ勝手に動いてくれます。放っておいても基本的に回る仕組みになっているんですよ。
でもLUUPでは、機体が勝手に動いてくれないので、例えばオペレーションチームが再配置するなどの工夫の必要があります。それに、ポートモデルはポート間を移動するため、ユーザーが本当に行きたい場所が分からないという点も難しいポイントです。乗り降りしているポートは、真の出発地でもなく真の目的地でもないので、単純にポート間の移動だけを見ていても、ユーザーの真の移動は見えません。難しいところであり、おもしろいところでもありますね。
ーポートモデルのおもしろさはどんなところでしょうか?
グラフ理論というスキームが当てはまりやすいので、データサイエンティストにとってはおもしろいと思ってもらえると思います。
例えばハブとなるポートはどこになるのか、そのハブにオペレーションを集約して効率化できるか、などを分析したりできますね。
ー本当にいろんなチームに関わるんですね。
データはLuupの根幹と言っても過言ではありません。UX、オペレーション、機体を何台調達するのかを決めるにもデータが役立っているので、本当に全てに関わるんですよね。
当初、データストラテジーチームはプロダクト部の中にあるグループの1つだったのですが、2021年8月に全社横断的にカバーできるように部に昇格しました。データを重要視するという会社の判断です。この規模のスタートアップでここまでデータに力を入れているのは、なかなかないのではないでしょうか。
ー他のチームとの関わりは?
横断的に他のチームと関わりながらニーズを汲み上げ、全社的に重要な課題にデータストラテジー部としても取り組んでいます。
また、8月から部になったということで、リソースをつぎ込んでいく意思決定をしたということもあり、データ基盤を再構築している最中です。スケールしても信頼できるデータの分析をできるようにするために、会社の重要な意思決定時に安心して使えるデータの基盤を作っていきます。
ースケールしても信頼できるデータの分析とは?
ビジネスが拡大していくと、こんな分析をしたい、これも知りたい、というのが色々出てくるようになります。これまではどちらかというとアドホックにデータを取得してガチャガチャ組み合わせることでなんとか間に合わせていましたが、それだと毎回作らなきゃいけないですよね。そうならないように、ビジネスの拡大を想定しながら適切な形でデータを活用できるような基盤づくりに取り組んでいます。
データは過去に遡って取れません。未来を見据えながら、どういうデータをとるか、どういうかたちで資産としていくのかを考え、実行するというのが、データストラテジー部の役割の一つです。
まずはカジュアル面談でお話しませんか?
ー今後やっていきたいことはありますか?
今後は、機体から取得できるセンサーデータを増やして、その解析もやりたいですね。走行速度や走行場所のデータを取得して、ユーザーがよりスムーズに、安全で簡単に乗れるようにしていきたいと考えています。
今後やりたいことはもっと話したいのですが、ここでは言えないことがたくさんあるので(笑)、カジュアル面談でお話しましょう!
ーどんなチームにしていきたいですか?
Luupはミッションのとおり、街じゅうを駅前化し、インフラをつくっていく会社です。未来のモビリティをつくることにワクワクする方に、ぜひ入ってほしいと思います!Luupでは、データサイエンティストでもデータアナリストでもなく、意図してデータストラテジストとしています。今あるデータをどう分析するかだけではなく、戦略的にデータを資産化し活用していくことに重点を置いています。何もないところからデータを作って分析し、活用していくことは難易度が高い分、非常におもしろいと思います。
特にLuupはスタートアップなので、とあることを1%改善するのにはどうすればいいか?だけではなく、根本的なところに立ち返ってゼロベースでも進めていける方が向いていると思います。
ーどういうスキルが必要でしょうか?
ハードスキルでいうと、SQLとPythonを使えることが必要条件ですね。経験で言うと、データを切り口にプロダクトやビジネスを設計したり改善してきた方が向いていると思います。ミッションを達成するパッションと行動力をお持ちの方に、ぜひ来ていただきたいです!
Luupでは、更なる挑戦に向けて、採用を強化しています。
現在Luupでは、積極的に採用活動を行っております!Luupの採用に興味をお持ち頂いた方は、ぜひこちらの記事を御覧ください。
【業務内容】
Data Strategy部は、データを戦略的に資産化することで、有用な活用を可能にし、競争優位性とすることを目的としています。データの戦略・活用方法の設計から、データ抽出・分析、ビジネス・プロダクトへの応用まで、データを切り口に関連する幅広い業務を行います。
【必須経験】
・課題解決に必要となるデータを定義して取得の設計を行い、データに基づいて定量的にビジネスを分析・実行した経験2年以上。
・ダッシュボードの作成など、データのビジュアライズなどを行った経験。
【必須スキル】
・統計学の知識を用いた、仮説設定・検証スキル。ABテスト構築や、適切な指標設計など、論理的・定量的に仮設検証を進められること。
・プログラミング言語(特にPython)、統計分析ツール(e.g. SAS)を使いこなせること。
・データベース言語(SQL)を使いこなせること。RDBのみならず、NoSQLに関しての知識・経験があると尚可。
【歓迎経験】
・モビリティ分野での経験。IT・プラットフォーム系企業での経験。
・データサイエンティスト、機械学習などのソフトウェアエンジニア経験。
・データマネジメント(データパイプライン設計、 ER設計など)に携わった経験。
【歓迎スキル】
・機械学習の知識。
・データベースの知識。
・BigQueryを含むGCP全般の知識、スキル。
【求める人物像】
・Luupの事業・ミッションに共感できる方。
・不確定な状況で、自ら物事を進められる力をお持ちの方。
・マーケットを一番理解し、その理解・改善・最適化のために、具体的な施策に落として実行するまで、労を厭わずスピード感を持って動ける方。
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