書籍『星をつなぐ手:桜風堂ものがたり』

村山早紀 2018 PHP研究所

世界を見守る優しい精霊が紡いだような物語だ。
老いと死を見つめる人だけが持つ、どこか現世を遠くから見つめるような気配。
精霊は時々、猫の形をしているのだと思う。

主人公の一整は、働きなれた職場を離れざるを得なくなった後、桜風堂書店という小さな田舎町の古い書店に出会い、その書店と共に息を吹き返した。
そんな「桜風堂ものがたり」の幸せなその後を描く。

私は『桜風堂ものがたり』と『星をつなぐ手』のどちらも、単なる職業小説、お仕事小説のくくりに入れることはできない。
書店や出版の業界は、移り変わる時世の影響を厳しく受けている。
その業界にあって、本という星の光を守っている人たちが各地にいる。
大都市だけの特権にならないように、地方の小さな町で頑張っている人たちがいる。

言葉こそ、世界の闇を照らす星だ。
その文字に込められた想いが輝く星になる。
人から人へ、人の手を経て届けられ繋がる星の光。
いつか自分が死んだ後までも輝き続ける星になる。

頑張るものには、もっともっと幸せになってもらいたい。
昔ながらのよきものが消えずに残り、弱いものは守られ、若い者は育ち、傷ついた者は癒され、年を取る者は賢く敬われ、得るべきもの手に入れ、あるべきところに収まるように。
そんな当たり前にあってほしいことが、今はとても難しい時代に生きているから、切なくも幸せな気持ちになった。

『桜風堂ものがたり』『コンビニたそがれ堂:祝福の庭』『百貨の魔法』『コンビニたそがれ堂:小鳥の手紙』と本作とを通じて、私が強く感じていることがある。
それは、作者が「終わりを見据えている感覚」だ。

『星をつなぐ手』は、主人公の成長物語であるのだが、その主人公を見守り、手助けする年長者たちの物語である。
自分の人生のピークは過ぎたかもしれないが、まだ少しだけ、誰かのために何かできる幸せがそこにすくいあげられているのだ。
私のように自分の子どもを持つことはなかった登場人物たちも、誰かに何を残し、教え、育て、守ることができる。
そこに、私はとても救いを感じた。自分自身が救われるような気持ちになった。
そういう意味で、これは若い人のみならず、人生の午後3時を過ぎた人間の物語だ。

物語というものは、古来、魔法を持ち合わせていた。
傷つき弱り迷った人の心に寄り添い、いたわり、慰め、励まし、力づける、物語の原初の魔法を感じてもらいたい。
ティッシュは箱で用意することをおすすめする。

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書籍の出版に先駆けて、#NetGalleyJP で原稿を読む機会を得た。
この本が数多くの人の心に魔法をかけてほしいことを願い、もともとの自分のブログ『香桑の読書室』に書いたものをこちらでも共有する。
ネタバレにはなってないはず。ネタバレありバージョンは、本書を手に入れてから後日、書きたいと思っている。

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