最果て前の日常

最果て前の日常

 あなたはどれだけ長い間あの本棚の中にいたのだ。
 330円の値札に隠された110円の数字。
 裏表紙も劣化が激しく、それでも私はシールをそっと剥がそうとする。しかし最後の最後で少し勢いをつけた時、その油断がバーコードのあたりを禿げさせてしまったのだ。
 私は今、今の私にぴたりと符合する本を読んでいる。ブックオフの100円コーナーは本当に素晴らしい。ほとんど値段が付かない棚に並べられた本。社会的な価値がほとんどない私。私はあなたを抱きしめて眠る。長い間貼り付けられていたシールくらい隙間なく抱きしめて眠る。命と共に少しずつ離れていくあなたたちの中でも、私には予め託す人を決めているあなたがいたりする。しかしあなたは最後まで私の元にいてほしい。たとえ私を離れてあなたがまたあの棚に戻ることになろうとも、私は最後まであなたを抱きしめていることだろう。
 そしていつかまた私たちの中の"私"があなたの元に現れるのだ。

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