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夢日記 吟遊詩人、ぼくの手紙を運んで西へ

ぼくの愛した女性の心を盗んだ吟遊詩人。
ぼくが、いつか話した故郷へ、ぼくの手紙を届けてくれた親友。
ぼくの愛した女性を遠くまで連れて行ってしまったけれど
ぼくは彼を憎めない。どうしても。

遠く遠く海を超えて
遠く遠くローマを超えて
遠く遠くアルプスを越えて
遠く遠く西の果てへ

彼は明るく愛すべき親友。
歌もそこまでうまくないが、その歌は皆を元気にさせた。
彼はいつも嘘のような話をしていたし、昼は働かずに眠り、夜は酒場でおごってもらい。女性から金をもらって生きていたけど、
ぼくの愛した女性の心を盗んだ吟遊詩人。
ぼくの愛した女性が、ぼくではなく吟遊詩人を愛したけれど、彼は誰も愛することができず、ぼくはでも彼を許せず、だけど、自分では殺すこともできず、彼が領主の娘をかどわかしたことを密告した。
ぼくは親友を、この国から追い出そうとしただけだった。
ぼくの愛した女性が、ぼくを見てくれると思ったのか?
いや、ぼくの愛した女性が振り向いてくれるわけはないと分かっていた。

ぼくの愛する吟遊詩人。
領主は吟遊詩人を捕らえ、明日、処刑すると言った。
その時、ぼくは気づいたのだ。ぼくは吟遊詩人を、ぼくの親友を独り占めしたかった。
ぼくの愛した女性ではなく、ぼくの愛した吟遊詩人。
ぼくの親友を逃がし、代わりに死んだ。

死んだぼくの手紙を持って、昔話したぼくの故郷へ。
遺跡の残るエーゲ海の港町から、地中海やアルプスを越えて、遠い遠い西のぼくの故郷へ。
ぼくの出せなかった両親への手紙。
流れるように旅してきた吟遊詩人の親友に。
もし、ぼくの故郷へ行くことがあれば、この手紙を渡してくれと頼んだのだった。
吟遊詩人の親友は、彼を裏切ったぼくのために、手紙を運んでいく。

ぼくが裏切りを告白した時も、彼は明るく笑って言った。
気にするな。ぼくの親友じゃないか。

旅人の吟遊詩人が、ずっとこの地に居てくれたのは、ぼくの愛した女性のためだと思ったけれど。ぼくのためも少しはあったのか。

ぼくは死んでしまったけれど、ぼくの手紙は、ぼくの愛する吟遊詩人と一緒に旅をしている。

吟遊詩人は今日もくったくなく笑い、下手くそな歌を歌って酒をおごってもらっている。
ぼくの歌を歌っている。
ぼくが書いた手紙を歌にしていることは許してあげるよ。
ぼくがいかに生き、どうやって死んだか、人々は知ることになる。

吟遊詩人が故郷までたどりつかなくても、ぼくの歌が両親へ届くだろう。
ぼくの歌は遠くまで届き、ぼくの歌は時を超えて行くだろう。

なんて幸せなんだ。
明るい彼の下手くそな愛すべき歌声を聞きながら目が覚めた。

なんて日だ!


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