見出し画像

甦る燃やした音楽と。

イヤフォンは外さない。
ずっと流れている僕だけの音楽を
今は拒絶してるのだ。

こんな線から流れた音楽に共鳴して、
僕も疲れているのだね。

なんて、ね。

何を聴いたって
心を震わす音は
今は何もないのだけど。

僕の心を震わせてほしいよ。

風が冷たくなって

身体の体温を奪う。

季節が変わった。

わっ、と吹いた風に

冬の香りがする。

恐る恐る、
イヤフォンを外した。

------

住宅街が喚いている。

あの時間に聴いた風の音も、
あの日に聴いた空の音も、

あの年月で毎日聴いた

優しい世界が聴こえてこなかった。

そうだ、

あのCDはもう

壊れたんだった。

もう戻ってこないんだった。

治すことのできないんだった。

僕だけの甘い大切な音楽はもう
ないのだ。

住宅街がまた喚く。

嗚呼、もう。

耳障りなんだ。

五月蝿い。

五月蝿いな。
五月蝿い。五月蝿い、煩い。

僕はイヤフォンをつけて耳を塞いだ。

その場に蹲って
僕を探そうとした。

-----

寒くて手が悴んで
動きが鈍くなっているけれど
僕は

文字にする。

こうしてなくちゃ僕を知ってもらえないのだから。

僕は独りでは生きられない。

ずっと独りでいるけれど。

「どうして僕には友達がいないんだ。」

そう泣いて布団を被っていたとき
母さんは言った。

「じゃあ、ママが友達になってあげるね。」

嘘で本当だったのを、
知っていた。

だから

五月蝿い。

-----

期待を込めて
またイヤフォンを外して歩き出す。

また新しいCDを
作らなくちゃいけないから。

#詩 #poem #小説 #ポエム #詩的散文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?