鏡の中は魔法の世界

あのさ、聞いてほしいんだ。

あのね、

昨日鏡を覗いたらさ

父さんと母さんに会ったんだよ。

最初は驚いた。

だけれど

偶に優しい顔をしたり

偶に見下した顔をしたり

悪戯に笑ったり

角度を変えると父さんになったり、
母さんにもなる。

手を

あわせて

「僕」と手をあわせて

やっぱり其れはひんやり冷たかった。

このガラスを通してしか逢えない。

「現実」

当たり前に突きつけられた
当たり前の事実と
逃避と
虚無感だけれども、

僕は嬉しかったのだ。

昨日鏡の中に
父さんと母さんを見つけたよ。

本当の父さんと母さんは

ずっとずっと遠くの旅に行ってしまったから

実はちょっとだけね、

ちょっとだよ。

ちょっと
寂しかったんだ。

なのに

こんなに近くにいた。

父さんも母さんも

僕の中に
ちゃんといたのだ。

変わらぬ優しい顔を
わけてくれていた。

鏡の中で

泣き崩れてぐちゃぐちゃな笑顔は

父さんと母さん

それから僕。

そうだ、
会いたくなったら鏡を覗こう。

父さんと母さんも

鏡を見てるだろうか。

僕は

ちゃんとそこに

居るよ。

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