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雨の色|散文

バケツをひっくり返したような雨を、篠突く雨と言うらしい。
窓のすきまから雨が入り、サッシに小さくはねているのが見える。

体に巻きついたシーツを蹴って、寝返りをうった。
雲に照らされた部屋を薄目で眺める。眩しく光る白い床、疲れた木目の本棚、脱ぎ捨て色彩を失った服。このマンションの一室以外全てが雨に溶かされたのかと思うくらい、雨音以外何も聞こえない。ベッドのはじに追いやられたスマホに手を伸ばしたが、気が変わって床へ払い落とす。ブルーライトなんてくそ。

このままずっと雨が降り、浸水して、ベッドごと流されたいとぼんやり思った。たくさんの本と実家の犬も乗せれば、私の小さな方舟。茶色く濁った波に揺られながら穏やかに餓死できたらいい、犬だけは都合よく助かって。絶滅の一途を走る地球の生命体として、何かを成し遂げるのではなく、自分の望む死に方を全うする方が、本当の正しい生き方なのではないかと最近よく考える。
世の中に死にたくないと思っている人はどれだけいるのだろうか。朽ちてゆく体へ文句を言わぬまま一生を終わらせてゆく覚悟は、どうやって育てるのだろうか。

私は、死にたい。けれど自分が失われる、知らないあの一瞬をとても恐れている。

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