見出し画像

スタジオ一灯ライティングで表現を変えるポートレート術|Keng Chi Yang

クリエイターが一つの作品を制作する姿にフォーカスし、そのオリジナリティを5つの要素に分類して紐解いていく「Creators Perspective」。今回、制作工程に密着するのはフォトグラファーのKeng Chi Yangさんです。

Keng Chi Yangさんには今回「スタジオ一灯ライティングで表現を変えるポートレート術」について、その作品と共に制作背景や実際の撮影方法を披露いただきました。

Keng Chi Yangさんのように、光と影を活かした幅広い表現を身につけたい方は必見です!

今回撮影された作品

Keng Chi Yangさんが今回撮影された作品はこちら。今回はモノクロとカラーで2パターン撮影していただきました。

こちらの作品を軸に、普段どのように制作活動をされているかについてお話しいただきます。


(1)今回のアイデア

今回は「平成の音楽シーンを席巻したミュージシャンのアー写」をイメージして撮影していきます。具体的には、モノクロは「ロックバンド」で硬い光を使って重ために、カラーは「ポップミュージック」で柔らかい光を使って躍動感のあるイメージです。

(2)使用機材について

カメラはLUMIX S5II、レンズはLUMIX S PRO 50mm F1.4LUMIX S PRO 24-70mm F2.8を使用しました。モノクロでは50mmをメインに使用し、カラーでは動きを出すためにズームレンズで24mm付近を使用して撮影しています。

ストロボはスタジオに常設されているものを使用することが多いですが、今回はGODOX AD300にJINBEIのアンブレラ(150cmディープ)を装着して使用しました。

傘の深さで光の硬さが変わるので、ここは好き嫌いですね。僕の感覚的には「浅いと光が硬くなる」「深いと光が柔らかくなる(コクが出る)」ような印象です。

(3)撮影場所の選び方

一灯での表現の違いをわかりやすくご覧いただくために、今回は白ホリのスタジオにしました。

白ホリは「白ホリゾント」の略で、撮影用語の一つです。白い壁や背景に囲まれた空間のことを白ホリと言います。ハウススタジオのように家具や小道具が無く全体が白に囲まれているので、光が回りやすいことが特徴です。

(4)撮影風景

それでは実際に撮影を進めていきましょう。

今回はモノクロとカラーで撮り分けたので、それぞれ簡単に説明していきます。それぞれの設定についてもお話ししますが、スタジオ撮影は基本的に絞って(F値は高めで)ISO感度は低めです。

光の決め方【モノクロ編】

強い光を上から当て、コクのある深い影を作るために近距離で、背景へは光を回さないために逆光向きでモデルさんの上にストロボを設置しました。また、背景を落としながら(暗くしながら)髪の毛や肌のハイライトを綺麗に浮かび上がらせるために、アンブレラの淵ギリギリのところでモデルさんに立ってもらいます。

光源の真下だと顔にかかる影が濃くなりすぎるので、今回は好ましくないと判断したからです。

光が回りやすい白ホリですが、部分的に光を抑えたい時はこのように暗い色の板を置いて光の反射を抑えます。今回は背景を暗くするために、モデルさんの後ろに黒い板を置きました。設置場所は都度ですが、背景に写り込まない位置を意識しましょう。

カメラの設定【モノクロ編】

F8.0、 シャッタースピードは1/125、ISO感度は200で撮影しました。ストロボの強さは1/4です。背景をボカすような撮影ではないので絞り、モデルさんがブレないように1/125に設定しています。

今回のモノクロはフォトスタイルの「L.モノクロームD」を使っています。モニターで仕上がりがわかるので、目で見て良い感じに見える明るさを決定します。

ポージングについて【モノクロ編】

ここはあまり難しく考えすぎず、自分が目指すイメージに近づくようにモデルさんと息を合わせながら色々と動いてもらうのが良いでしょう。僕も今回は「正面も良いけど横からもかっこいいな」と現場で感じたので、最終的には横から斜めくらいを多めに撮影しています。

続いて、カラーでの撮影について解説します。


光の決め方【カラー編】

カラー撮影ではモノクロ撮影とは反対に、背景をメインに光を当てています。背景からのバウンスでモデルさんにエッジライトがあたり、背景を飛ばしながらモデルさんが強調される光の使い方です。こうすることで、一つの光源で二つの光源(今回で言うとストロボ光とバウンス光)を作ることができます。

ストロボを背景に向けているので強い光が背景にあたり、モデルさんにはアンブレラから漏れた柔らかい光を回すことができます。

また、今回はカメラマンの僕の後ろにレフ板を設置しました。これもより光を回してモデルさんの正面を少し明るくするためです。

カメラの設定【カラー編】

F8.0、シャッタースピードは1/10、ISO感度は400で撮影しました。ストロボの強さはモノクロと同様で1/4です。今回は躍動感を出すためにモデルさんをブレさせる撮影がしたかったので、シャッタースピードを低くしました。

シャッタースピードを下げてISO感度を上げることで、蛍光灯の光を取り入れることもできます。「ストロボの光った一瞬で被写体を止めて、残りの時間で蛍光灯の光でブレを撮る」ようなイメージです。

フォトスタイルは「ヴィヴィッド」を使用しています。

ポージングについて【カラー編】

こちらはモノクロと同様フィーリングが大きくなります。ただ、カラーでは「ブレ」を意図的に出すために、モデルさんに動いてもらったり僕自身が動くことが比較的多かったように思います。

今回の撮影で気をつけておくべきポイント

今回は初めから2種類のイメージを撮影する予定でした。大きくイメージを変えたかったので、カラーとモノクロで背景と被写体に当たる光の質を、同じモディファイヤー(今回はアンブレラ)でどれだけ大きな差を付けるかを考えています。

【モノクロ】
・トップライト
・背景を落とす
・濃い影
・静止
・50mm

【カラー】
・逆光
・背景飛ばす
・高彩度
・動き
・広角

このように、同じモデル、同じ機材、同じスタジオで撮影する場合は要素を箇条書きにして対になるセッティングにすることで、わかりやすく大きくイメージを変える事ができます。

(5)編集工程

今回はLUMIX S5Ⅱのフォトスタイルで撮影したjpgをそのままLuminarへ読み込んで編集しています。大体いつも3つぐらいのレイヤーに分けて、効果を確認しながらの編集です。

普段のRAW現像はCapture Oneを使用していますが、今回jpgでLuminarを使用した理由は、LUMIXの色やトーンを活かしつつオートン効果での演出をしたかったからです。それ以外に特別なことはしていません。

オートン効果(Orton Effect)とは:
1980年代にカナダの風景写真家マイケル・オートン氏によって考案された、水彩画の様に柔らかでありながら輪郭はハッキリしている、幻想的な雰囲気の写真に仕上げる現像テクニックのこと。

オートン効果レイヤーがカラーとモノクロで逆になっている理由ですが、カラーはオートン効果を特に強く意識しているので、最初から強めに効果を掛けていますが、モノクロはトーンを決めた上で軽くオートン効果を乗せたいので、逆になっています。これは最終イメージの気分によって変わります。

私にとって撮影とは

スタジオから旅、学校写真から広告まで様々な撮影をしていますが、そんなに大した矜持は特に持っていません。自分がやりたいことをする為だけに生きていて、たまたま手に持っているものがカメラでした。

そう考えると、小さな夢をいくつも叶えてくれるものが、私にとっての撮影行為なのかもしれません。


今回の「Creators Perspective」は以上です。

LUMIX Magazineでは「Creators Perspective」の他に、メーカーの中の人がブランド思想や本音を話す「LUMIX is」、基礎的な撮影スキルやLUMIXの機能をレクチャーする「LUMIX Ability」など、様々なコンテンツを発信しています。

是非フォローやスキをよろしくお願いします!

【今回の使用機材】

LUMIX S5II

LUMIX S PRO 50mm F1.4

LUMIX S PRO 24-70mm F2.8

【LUMIX S5II】LUMIX初、像面位相差AFを搭載。L2 Technologyによって刷新されたエンジンが生み出す高品質な写真・映像の評価も高く、新しい時代のスタンダードモデルとして人気を集めている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?