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lumikka original|フィンランドコラム

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lumikkaがお届けするコラムシリーズ。雪の結晶のような小さな視点から日常を見つめ、そこで発見した美しき風景や思考をお届けします。
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記事一覧

旅をするということ

lumikka shop及びlumikkaとしての活動は、4月15日に2周年を迎えました。ここまで様々なかたちで活動を支えてくださった皆さまへ、心より感謝を申し上げます。 「2周年」と言いつつも、活動のはじまりをどこまで遡ればよいのか、実際のところ定かではありません。それは、フィンランドとの関わりや、写真、執筆、企画、デザインなど一連の活動が予定調和にはじめられたわけではなく、いくつもの予期せぬ出会いや偶発性を含んでいるためです。 ただ、活動の大きなきっかけは旅の中にあっ

手仕事がつくる風景

以前のコラム「光のかたち」でもご紹介した、フィンランドの古都トゥルク。今回は、市街地に残された古い美術館を巡りながら、かつての手仕事の痕跡を辿ります。 まずは、薬局美術館。 当時、この家には貴族が住んでおり、ある時期においては街の薬局でもありました。 家の中には18-19世紀のロココ様式やスウェーデンのグスタビアン様式のインテリアがいまだに現存しており、当時の生活を記録する場所として非常に歴史的価値が高いです。 薬局だった頃のノートや薬瓶。ひとつひとつに個性があり、「

羊の島の夏

すべり込みの夏コラムです。夏至祭の記事と合わせてぜひご覧ください。 羊の島、ランマサーリ島の夏のこと。 旧アラビアファクトリーの裏の海辺に、Lammassaari/ランマサーリという島があります。日本語では「羊の島」。その名前からも、のどかな雰囲気が溢れ出ていますが実際はもっともっとのどかな島です。 島への橋。ここは観光客よりも、地元の人たちが多い印象です。 この島は夏の時期にだけ、どこからか羊がやってきます。それだけでなく、島全体は湿地帯のようになっていて野生の鳥を

セウラサーリ島の夏至祭

秋の風がそよぐ美しい季節がはじまろうとしています。フィンランドはもうすっかり夏が終わり、ひんやりとした空気に包まれている頃でしょうか。 少し季節外れになってしまうかもしれませんが、今年の夏に訪れたフィンランドの夏至祭のことを書こうと思います。すべり込みで2つの夏コラムを書きましたので、よければ合わせてご覧くださいませ。 ヘルシンキの西側の海に、セウラサーリ / Seurasaariという島があります。ここはフィンランドの伝統的な建築物が集合して(移築されて)おり、島全体が

屋根の上、空の下

ヘルシンキの中心部に、街を見下ろすことのできるルーフトップバーがあります。見晴らしの良い丘や山、高いビルのないこの街で、街の全貌を見ることのできる数少ない場所です。 ホテルのエントランスを抜け、エレベーターで12階まで。その後、とても狭い螺旋階段をぐるりと一周かけて登るとその場所へと辿り着きます。 よく行くおすすめスポット…と言いたいところですが、ここを知ったのは最近のこと。今年の夏の滞在中、偶然出会った日本好きのフィンランド人の方に教えてもらいました。 「高い」と言え

ヘルシンキの壁と窓

中と外、家と街。 それらに境界線を引く「壁」と、繋ぐ「窓」。 相反するような「壁と窓」ですが、街側から見ればそれらはひとつの平面で、街の生活の背景として日常に溶け込みます。 街の風景は壁と窓がつくる。と言っても過言ではないかもしれません。 今回は、ヘルシンキで壁と窓を探す旅に出かけます。 西の港の方の壁と窓。この地区は、ヘルシンキの中心部と違って新しい建物が多く、どれも似たような雰囲気をしています。 軒がなく、全体的にすっきりとしているところも特徴的。 続いて、

光のかたち

フィンランド最古の街、そして旧首都のトゥルク。 ローマ教皇の命によって発展したと言われるこの街には、いくつもの宗教建築が点在しておりヘルシンキとはまた少し違った街の空気を感じることができます。 中心地から少し離れたところに、復活礼拝堂と呼ばれる教会があります。自然光による美しいインテリアが特徴的で、観光ガイドにも掲載される人気の建築なのですが、今回の訪問では入ることができず。 ならば、と周辺の緑の中を歩いてみることにしました。 しばらく歩いていると偶然にも別の教会の看

ヒエタニエミの空に

黄昏の時間はゆっくりと流れる。 まるで、その美しい光のなかで囚われているように。 揺れる波、唄う鳥、ヒエタニエミの水平線。 夜の10時30分ころ。ヘルシンキの街から西に向かって——夕日の方へと歩き始めました。ビルの窓ガラスは斜めの光を鋭く反射して、低い空に浮かぶ白い月はちょうど半円を描いています。 大きな墓地の横を通り抜け、さらにしばらく歩くと穏やかな水の平面が見えてきます。 おだやかな。それはそれは、おだやかな。 まっさらな新雪の上を歩くかのように、鴨たちは、少し

夏至の夜散歩

沈まない太陽、北欧の夏。 午後10時に家を出て、ぼんやりとしたオレンジのなかメトロに乗って近くの島へ。その夕暮れは、永遠に終わりがこないのではないかと思えるほどに穏やかで、静かなものでした。 2023年6月21日のこと。 夏至の夜、ヘルシンキの島への散歩で見た/見つけた風景を今回はお届けします。 . . . 家を出たのはちょうど夜の10時ころ。夜を時間で定義するのならばそれは確かに夜でしたが、人の感覚に委ねるのであれば、それはまだ遅すぎる昼のようでした。 少し

lumikka 1st Anniversary

一年前の春、2022年4月15日のこと。 かつてフィンランドのアアルト大学へ留学をしていた私たちは、滞在中に見つけた美しいヴィンテージアイテムたちを携えて、lumikka online shopをオープンしました。 "過去に視点を、未来へかたちを与えること" 私たちの活動は、つねに過去と未来の双方へと向かっています。新しい何かを創り出すことと、歴史に視点を与えること。そのどちらも等しく価値があると考えており、ヴィンテージ品の販売から、撮影や執筆、リサーチやビジュアライズ

風景から写真、手紙へ

たとえば、いま、世界のどこかでなにか美しい風景が存在しているとして。 その美しさを遠く離れた場所から感じることは、そう簡単なことではありません。私たちには、土地を実際に歩くことでしか得られない感覚が少なからずあるためです。 たとえば、いま、 どこか遠くの孤島に、虹色の光が降り注ぎ、 北の夜空が、みどりのカーテンに包まれて、 横断歩道で人々が信号を待っていたとして。 そういう風景が世界のどこかにあるのかもしれない。 きっと、そういう可能性が、私たちの日常にはたくさん

アラビアで輝く宝物

TRANSIT58号 フィンランド特集。私たちlumikkaは、取材記事「北の地に生るデザイン」を担当しています。本記事には美術館や工房への訪問、建築家やデザイナーへのインタビューなど、デザインをめぐる旅の様子が綴られています。 前回のコラムから引き続き、記事に掲載しきれなかった取材の溢れ話や旅の記録をじっくりとご紹介していこうと思います。ぜひ、TRANSITの記事と合わせてご覧ください。 今回は、イッタラ&アラビア デザインセンターへの旅を。 イッタラ&アラビア 19

Nomen Nescioを訪ねて

TRANSIT58号 フィンランド特集。私たちlumikkaは、取材記事「北の地に生るデザイン」を担当しています。本記事には美術館や工房への訪問、建築家やデザイナーへのインタビューなど、デザインをめぐる旅の様子が綴られています。 前回のコラムから引き続き、記事に掲載しきれなかった取材の溢れ話や旅の記録をじっくりとご紹介していこうと思います。ぜひ、TRANSITの記事と合わせてご覧ください。 今回は、記事にも登場しているヘルシンキの現代的なファッションブランド Nomen N

イッタラ村に輝く宝石

TRANSIT58号 フィンランド特集。私たちlumikkaは、取材記事「北の地に生るデザイン」を担当しています。本記事には美術館や工房への訪問、建築家やデザイナーへのインタビューなど、デザインをめぐる旅の様子が綴られています。 今回のコラムからは、記事に掲載しきれなかった取材の溢れ話や旅の記録をじっくりとご紹介していこうと思います。ぜひ、TRANSITの記事と合わせてご覧ください。 今回は、フィンランドを代表するデザインブランドIittala / イッタラのはじまりの場