「3分に1回空気が入れ替わっています」は安全か?

第7波になってから,クラスターを起こした各所から「換気が重要だ」という声が聞こえてくる.かなり対策に気をつけていても感染するので,もう感染源はオフィスか電車しか考えられないというケースも多いようだ.

ところで,鉄道各社やバス各社は「換気装置や窓開けにより,車内は○分に1回換気されていて安心です」と謳っているが,本当に安心なのだろうか?厚労省などはビルの換気の目安として1人あたり30m2/時間という数値基準を提示している.それを元にざっくり計算してみたい.

①ロングシートの満員電車の場合

一般的な通勤車両は概ね20m×3m×2mのサイズが確保されている.つまり120m3の空間がある.座席の体積などを考えると100m3ぐらいかと思われる.空気の入れ替え実験は概ね人がいない環境で行われており,例えば「5分に1回入れ替わっています」ということであれば,20m3/分程度の換気能力があることになる.
さて,この電車に乗車率100%の乗客が乗ると200人ぐらい乗ることができる.200人に必要換気量の30m3/時間をかけると6000m3/時間,1分あたりに換算すると100m3/分程度の換気が必要である.つまり,理想的な換気の5分の1しか確保されていない.

厳密には人の体積や人がたくさんいることによる空気の淀みの影響を考えないといけないが,スーパーコンピュータの研究では人が増えても空間体積が少なくなるので,何分に1回程度入れ替わるという換気性能自体はあまり変化がないという話もある.満員電車はやっぱり危険である

②路線バスの場合

路線バスはサイズにもよるが中型バスの場合12m×2.5m×3mの大きさが多い.つまり90m3である.バスは後部の床が高くタイヤハウスの体積などもあるので実際には半分の45m3程度の空間しかないのではないかと思われる.上の窓を全開にして走行すると3分に1回入れ替わる事が多いらしいので,15m3/分程度の換気能力がある

混雑時の路線バスは50人程度が乗車しているので,30m3/時間×50人で1500m3/時間すなわち25m3/分の換気が必要である.

必要換気量の6割程度の換気しか確保できていない.しかも窓はだいたい全開にされることはなく,申し訳程度に3cmぐらいしか開けていないバスも多い.前後に換気扇がついているバスなら換気能力は高いと思うが,そうでないバスならば,かなり危険度は上がるだろう

③航空機の場合

航空機の体積や換気の計算は複雑な形や飛行高度が変わる影響で結構難しいのだが,良い記事があったのでこのエンブラエル機E170で考えてみたい.与圧高度が8000ft(2200m)としてE170には82m3/分の換気能力がある.

E170の座席数は76人なので,76×30m3/時間で2280m3/時間すなわち38m3/分の換気が必要である.

つまり必要な換気量の2倍程度の換気能力が確保されていることになる.航空機が定員オーバーすることはないので,基本的に換気としては安全と考えて良いだろう

どんぶり勘定の計算ではあったが,日常生活の中でも感染リスクは常にある.特に通勤はかなり危険だし,オフィスも窓開けを行っていない古い建物は換気が不足している可能性が高い.第7波ではピーク時には30人に1人が感染する状況であり,単純計算でバスの車内には2人,電車1両には5人ぐらいの感染者がいた可能性がある.

たとえ会話がなくてもエアロゾルは呼吸からでも発生している.特にサイズの小さい粒子に感染性を持ったウイルスがいるという研究もある.運動をしたり,70dB以上の大声を出すとエアロゾルは増える.しゃべらなくても遅刻だと言ってダッシュして電車に乗れば大量のエアロゾルが自覚のないまま車内に放出される.咳をすれば数百倍,くしゃみでは数万倍ののエアロゾルが放出される.

真のウィズコロナは感染対策をやめればいいという話ではない.会話を控えるとか,運動をしないでとかそういう問題ではなく,どんな状態の人が電車やバスに乗ってきても,感染が大きく広がらないように,数的なコントロールをしながら付き合っていくということだ.「ユビキタス」コロナをどうマネージするかという能力が問われている.その点で換気能力の確保は極めて重要である.日本の陸上公共交通機関の換気対策は,会社や国交省の宣伝に比して極めて不十分であることが今回の計算では分かった.各社には真のウィズコロナに向けて一層の努力を促したいと思う.

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