少子化は今さらどうしようもない.目指すべきは若者の負担減

医療介護業界では5年ほど前から懸念されてきた2025年問題や2040年問題.コロナ禍を経て過去最悪の出生数を記録して,ようやく政治も与野党を超えて少子高齢化の問題に本腰を入れ始めたようです.しかし評論家の荒川和久氏らが指摘するように,第三次ベビーブームが生じず,少母化となった日本にはもはや出生数の劇的な回復は期待できません.現実的に子供をインパクトをもたらす程度に増やすには,外国人を受け入れるぐらいしか解決策がないのが現実です(それもコロナや隣国に急成長している国ある中では難しい).

そんななかで問題は「少子化」なのか?という問いをもう一度考える必要があります.日本はそもそも狭い平地国土に多数の人間が住む人口過密の国だと社会科の授業でも教えられてきました.人が減ることは長期的に見れば居住環境の改善に繋がります.人口が減ればCO2の排出量も減少し,SDGs的には決して悪い話ではありません.

多くの人が忘れてしまっていますが,少子化問題の本質は「人口減少過程に伴う若者世代の負担増」にあるのです.つまり人口減少局面では,少数の若者で多数の高齢者を支えなければならない.金銭的にはもちろんですが,介護や世話のマンパワーという側面でも少数の若者が多数の親世代や高齢者を支える必要があり,結果的に自分たちが子供を作る金銭的・時間的余裕がなくなって,さらに少子化が進むという悪循環が起こるのです.そうすると人口減少局面が続きますから,さらに若い世代にも同じ苦しみを与えることになってしまいます.

この問題を解決するにはどうすればいいでしょうか?介護のAI化やロボット化の技術開発はもちろん有効だと思います.しかし,人間相手の仕事ではロボット化にも限界があります.また重要な意思決定はロボットにはできません.そのたびに関係する家族は事業者から呼び出されることになります.高齢者の面倒を見るためには,結局はある程度の人的リソースが必要であり,若い世代は人口減少局面が続く限り,このような負担から逃れることはできません.ではどうすればいいのか?

【解決策1】早く高齢者が死ぬように仕向ける

社会的人口移動が無視できるクローズドシステムを前提とすれば,少子化に伴う若者の負担問題の解決策は一つしかないと思われます.「早く高齢者世代が死ぬように仕向ければ良い」のです.もちろん倫理的問題や法的問題があるので積極的安楽死などは難しいでしょう.しかし消極的安楽死や尊厳死などを積極的に広めていくことで,「幸せに高齢者に早めに死んでいただく」ということは可能です.

そしてそれは一般の人々の努力よりも,医療介護業界の意識変革に大きく依存しています.

(1) 特に医療人には「患者を死なせると負け」とよく吟味せずに考えている人が未だにたくさんいます.その方が気が楽で,一人ひとりの人生やその後の予後などに思いを巡らせる必要もなく,処置の意義について真剣に悩む必要がないからです.

(2) 介護関係者の中にも利用者に何かあるとすぐに病院送りにしようとする人がたくさんいます.本来は要介護者の生活と表裏一体の「高齢者の生命」に責任を持ちたくないからです.

(3) 普段から面倒を見ていない遠方の親族も,自らが世話できなかったことの責任を負おうとせず,すぐに「とりあえずの」延命を求めようとします.

この部分に医療政策や法制度がしっかりとアプローチすることで,一時的に喪失感を味わうことはあるかもしれませんが,多くの若い世代が救われることになると思います.高齢者自身も老後資金をそこまで気にする必要がなくなり,不安材料が一つ減ることになるでしょう.

難しいことはありません.儒教的な考え方の呪縛から解放されていけば「要介護状態の人を何度も同じ病気で繰返し治療することは虐待だ」と思えるようになってきます.実は欧米ではそのような考え方も少なくないのです.欧米かぶれの「アップデート」を叫ぶ割に,そういう日本独特の感覚に対してはアップデートを拒否する勢力が「反延命主義」を批判したりしていますが,都合の良い切り貼りにしか過ぎません.そもそも延命をすれば高齢者の割合が増えて「アップデート」も遅れるというのに自己矛盾も良いところです.

そもそも高齢者の中で真に長生きを希望している人がどのくらいいるのでしょうか.短期間で質の高い老後を送り,最後はPPK(ピンピンコロリ)というのが多くの高齢者が望んでいることではないかと思うのです.もちろん個別で見ていけば,「ひ孫が生まれるまでは何が何でも生きたい」とか,例外はあるのでそれはきちっと対応する必要があります.しかし,全体の流れとして「太く短く」という「当たり前」を作っていくことは悪くないと思います.もちろんその流れは将来,自分たち自身も背負っていくことになります.

私の予想では多かれ少なかれ,好きか嫌いかに関わらず2030年代にはこのような考え方をせざるを得ない時代がやってくるのではないかと思います.退院してもヘルパーや訪問看護師は十分に来ない.「いま人手がないので家族に頼んで何とかして下さい」と電話で言われることもしばしば.家族は公的サービスがカバーできなくなった介護に疲弊して,急変してもすぐには来ない・消防に通報しない.特にお金のない高齢者はこのような状態になるのは間違いない.「ならば治療などせずに早く死ぬ方がまだマシだ」と考える人は増えるでしょう.否が応でも「高齢者に早く死んでいただく」時代は近々訪れると思います.それに備えるべき時がやってきます.

上記は,見方によれば闇の政策提言とも言えなくないですが,規模感は小さいものの光の政策も一つだけ提言しておきたいと思います.

【解決策2】医療代理人代行サービスと個人情報保護法制の規制緩和

介護保険の導入によって介護の社会化が進み,家族が実際に手をかけて介護をする必要性は今は少なくなりました.しかし,高齢者は病気がちであり,突然救急搬送されたり,手術同意書を書いてくれと病院に呼び出されたり,介護施設を探すにしても家族面談を求められたり,説明を聞いて意思決定を下すというかなり大変な負担が残っています.そのような負担が大変で,2人目の子供は諦めたというダブルケアの家族も少なからずいると思います.

そういう人たちを対象に「綿密な対話を通じて本人の性格や考えていることを熟知し,医療介護知識を持ち,いざという時は家族に代わって手術に同意したり,面談をしてくれ,遅滞なくネットやLINEなどで家族と共有したり関係機関と連携してくれる仕組み」があれば,多くの若い世代が助かるのではないかと思います.いわゆる有料の法的に担保された医療代理人サービスです.

しかし,このサービスが機能するには「本人の許可なく『家族』以外に医療情報は提供しない」とする医療機関の風習と,その根底にある個人情報保護法制の規制緩和が必要不可欠です.日本の個人情報保護は厳しすぎて新たなスキームや技術開発を阻害してしまっており,今や弊害しかありません.こういう法制度は根本的に見直していく必要があります.

医療代理人を予め決めておいて,その医療代理人に家族同様の扱いをする,そういう法律整備を行えば人口減少局面であっても若者の負担はそれほど増えないのではないかと思います.またLGBTが家族扱いされずに同意書に書けないという問題も,医療代理人というシステムがあれば簡単に解決できる話です

こういう改革に積極的に取り組んでくれる政党があればいいのですが・・・



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