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行動制限をしないための必要条件

もう市中はコロナなど関係ないという雰囲気は広がりつつあるし,それは重症化率などを踏まえれば妥当なことだと思うのだが,これだけ感染者が増えるとおそらく今年の夏も医療体制は逼迫するだろう.私の予想ではコロナよりもコロナ以外での病気への影響がかなり大きいかもしれない.

なぜ医療体制が逼迫するのか?もはや街の診療所もたくさん発熱外来を開設して診療しているし,「なにかの悪者」がいるせいで医療が逼迫すると考える者は陰謀論に騙されていると言わざるを得ない.

本質的にコロナによって医療逼迫を起こさず,市民の行動制限の必要性がなくなるには以下4点の意識改革と政治決断が必要だ.

1.医療機関や介護施設における職員も含めた濃厚接触者隔離の取りやめ


 医療機関内で一人感染者が出ると同室者や,食堂などで一緒食事を取った者を隔離しなければならないが,この措置を行うと明らかにベッドの利用率や回転が悪くなる.感染者がいなくてもいざという隔離のために余分な部屋をそこそこ準備しておかなければならないし,五月雨式に感染者が出た場合は,その数倍にも濃厚接触者が及び,病院や施設の回転は完全にストップしてしまう.そこで厚労省から,新型コロナについて濃厚接触者の隔離を完全に取りやめて良いことを通達する必要がある.職員についても同様で,感染者を出勤させるのは問題があるが,濃厚接触者であれば標準予防策を取れば検査なしで勤務してもよい体制とする.無論,このような医療介護施設での厳密隔離を取りやめれば,感染は広がり,一部で重症者や死者も出るだろう.しかし次のような考え方があればそれも問題にはならない.

2.高齢者のコロナ死は「その人の本来の寿命」であることを世間全体が受容する

コロナ以前にも肺炎などの感染症などで亡くなる高齢者は多かったが,実際のところはそういう人の少なからずが「風邪の」コロナウイルスとかアデノウイルスに感染したことをきっかけに,二次性に細菌性肺炎を起こしたものであることはよく知られている.ただ,インフルエンザと異なり,風邪コロナウイルスの検査は普通の医療機関では容易にできないので,今までその関与が可視化されることはなかった.「あの人は高齢で体力が落ちてきたから寿命で亡くなったんだね」と捉えられていたのだ.

一方で今や新型コロナは極めて容易に検査ができるので,ほぼ老衰因子による死亡であっても,検査陽性であればウイルスの関与が過剰に強調されてしまう.しかし,コロナウイルスをきっかけに死ぬ人は昔から数多くいたのであり,「コロナは死ぬ怖い病気だからとにかく対策しなければならない」という主張は,「そういうあなたは,風邪に対しても今まで同じ主張や行動をしてきたのですか?」と言いたくもなる突っ込みどころ満載な主張なのだ.

どちらの主張に合わせるか(風邪を今後新型コロナ同様の対策で扱っていきたいか,新型コロナを今後風邪と同様の対策で扱っていきたいか)は人の好みもあるだろうが,以前と同様の社会活動を取り戻したければ,新型コロナを風邪と同じ扱いにするしかないだろう.

どのような条件が満たされれば(2)が世間で受け入れられたと判断するかは難しいところだが,首相,知事会,医師会,経済界などが「新型コロナは風邪等と同じ扱いにすることに決めました」と共同でアナウンスすれば,受け入れられたと考えていいのではないだろうか.

3.院内感染や介護サービスにかかわる感染があっても過失を問わないように法律に明記する

仮に1,2の前提条件が政治決断で整ったとしても,医療機関は院内感染について訴訟を起こされることを心配して,濃厚接触者の隔離を自主的に続けてしまうことが予測される.それでは医療逼迫は解消されない.そこで法律に政府が指定した感染症については,医療提供体制の逼迫が予想される時は所定の感染対策を取らなくてもやむを得ないものとすることを明記しておく.例えば

感染症法
(医師等の責務)
第五条 医師その他の医療関係者は、感染症の予防に関し国及び地方公共団体が講ずる施策に協力し、その予防に寄与するよう努めるとともに、感染症の患者等が置かれている状況を深く認識し、良質かつ適切な医療を行うとともに、当該医療について適切な説明を行い、当該患者等の理解を得るよう努めなければならない。
 病院、診療所、病原体等の検査を行っている機関、老人福祉施設等の施設の開設者及び管理者は、当該施設において感染症が発生し、又はまん延しないように必要な措置を講ずるよう努めなければならない。

e-GOVより

この条文の最後に,「3 ただし前項の措置によって,円滑な医療や介護の提供が困難になる場合で,厚生労働省令で定める疾患についてはこの限りではない」と一文を追記しておく.さらに感染症法施行規則に「法第五条第三項の厚生労働省令で定める疾患は以下のものとする.新型コロナウイルス感染症」と書いておく.このようにすれば安心して医療機関は隔離体制を弱めることができる.

4.保育園休園中でも医療介護従事者の子供は預かるようにする.感染者は解熱した時点で出勤できるようにする

感染者は現在特別な事情がなければ発症後10日間は外に出ることができない.無症状であっても7日間は出られない.いくら病床が空いても職員が出勤できなければ病院や施設を円滑に稼働することができない.人手不足の解消を考える上では,インフルの際に多くの社会人が取っていたように(学校では発症5日かつ解熱後2日)解熱して激しい咳がなければすぐ出勤でもいいのではないかと思われる.当然拡散リスクは高まるが,これも風邪と同じ扱いならば問題なかろう.

上記のような対応がないといつまでたっても新型コロナは2類あるいは準2類のような扱いのままで,感染者が増えればすぐに医療が逼迫して行動制限を取らざるをえない事態となるだろう.それがいかに日本に大きな社会的損失となるか,よく考えるべき時期に来ている.


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