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永遠の命は神の采配なのか、映画「SEOBOK/ソボク」

話題になっていた映画「ソボク」。WOWOWで放映されていたのでようやく鑑賞できた。

主役2人の顔つきから察するに、ややブロマンス的要素を期待してしまったが、それよりも人間の永遠のテーマである「死」と言うものを挟んで真反対の位置にいる2人が、共に時間を過ごすうちに、人間とは何か、命とは何かを問うストーリーとなっていた。

【ストーリー】
元情報局のエージェントであるギホン(コン・ユ)は病に侵され、余命はわずかと宣告されていた。そんな彼の元に、元上司であるアン部長から命を伸ばす代わりに、秘密裏に研究が進められていたクローン実験体であるソボク(パク・ボゴム)の安全な移送を依頼される。
自分の命を左右する存在であるソボクの移送は、突然何者かに襲撃され、追手から逃れるために共に行動することになった2人。
人類の永遠の命を約束する鍵である存在ソボクと、過去に犯した過ちに苦しみ、病に怯えながら生きることに執着するギホンは、共に過ごす時間の中で、自分の存在意義について考え始めていた。

始皇帝の命で不老の薬を見つけたとされる人物が名前の由来であるソボク

移送されることになったソボクは、簡素な洋服にあまり変化のない表情。不測の事態が起こっても、動揺も恐怖も感じない、いかにもクローンという存在だった。ギホンが話しかけても、温度のない言葉を返すだけ。
ソボクは誕生してから10年間、実験室の中でのみ暮らし、自分がどういう存在で、なぜ生み出されたのかをしっかり把握していた。その上で、人間というものをどこか冷めた感覚で見ている。

自分は人間とは違い、トラブルがない限り永遠に自浄作用により体を健康に保つ能力が備わっている。その機能を使って、人が永遠の命という神の領域に足を踏み入れようとしていることも理解していた。

一見、自分の命など関係ないと言うような、どこか自堕落な生活を送るギホンだが、ソボクの移送を持ちかけたられたことで、自分の生きたいと言う渇望を自覚してしまう。

永遠の命を保持し、多くの命を永遠にする機能を備えた、死なないクローンと、病による痛みに苦しみもがきながらそれでももう少し生きたいと言う願いに抗えない、いずれは死ぬ人間ギホン。

相対する2人が過ごす時間の中で、表情の乏しかったソボクに感情が芽生え、人間や初めて触れる外界に興味を持ち始める。
一方、自分の運命を悟り、素直に人間の業に疑問を抱くソボクを兄弟のように思い始めるギホン。

お腹が空き、共にカップラーメンを食べる瞬間が唯一の穏やかな時間となった

クローンとして生み出された、人間の私欲の塊であるソボクの、本来の存在意義自体に疑問を持ち始めたギホンは、彼に独特の感情を抱くようになる。

ソボクは一見、平凡な青年のように見えるが、その脳波は特殊な波動を生み、自然界に竜巻のような圧力を起こすことが可能。この能力は、ストーリー上で何度も登場するのだが、それはソボクの感情ともリンクしている。

まるで念動力のようで、特殊能力を持ち合わせた超能力者のようにも見える。けれど、決定的に違うのは、彼は人間ではなく遺伝子操作された存在であると言うこと。
ソボクは研究をしているものにとっては、研究対象であるし、それを指示したものにとっては不老不死の薬、と言う程度の認識である。そして出生の秘密には、非常にパーソナルな感情も織り込まれていた。

彼をとりまく運命は過酷で、ラストに向かってそれは、切実にクローンと人間の在り方に迫ってくる。
ソボクを作り上げた者は、自分を神だと勘違いした。永遠の命を自分が手に入れたら、今度はそれを獲得する権利を自分が采配すると笑う。
永遠の命を得たら人間は生きる意味を見いだせなくなる、それが本当なのかどうかわからないけれど、永遠の命というカードは人を神にも悪魔にもする危険な切り札であることだけは確かだ。

鑑賞後、映画「劇場版SPEC 結(クローズ)」を思い出した。ラストシーンに大いに関係するのだけれど、わかる方、いるだろうか。

この映画のラストには泣けた。選択を迫られる人間の、弱さと強さが味わえる、秀逸なシーンだった。
主役2人の魅力が遺憾無く発揮された、素晴らしい作品。韓国の「人間」というものを描く力をまた、見せつけられた。



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