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台湾のLGBTQドラマ「PAPA&DADDY」

台湾のLGBTQドラマとして話題になった「PAPA&DADDY」を見た。一話が20分〜30分で構成された全6話。
台湾では4月から5月に配信され、BLドラマとしても人気の高い「HIStory4〜隣のきみに恋して〜」の監督が撮ったと言うことで話題にも事欠かない。(楽天TVにて配信中)

主軸となるのは、息子を持つ同性婚カップルのダミアンとジェリー。一目惚れに近い状態で愛し合い、やがて夫婦となり、2人で育てることを決めた息子が成長するにつれて巻き起こる数々の問題と、それを乗り越える姿を描く。

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台湾では同性婚が認められていて、2人を取り巻く友人たちも同性婚ののちに子供をもうけているカップルが多い。そういった理解し合い、立場も似通った人たちに囲まれている間はいいのだけれど、息子が幼稚園に通い、それ以外の人と交わる中で起こる葛藤、家族の理解など同性婚が成立し得るからこそ起こる問題を、一つずつ描き出しているのが本作。

こうやって見てみると、かつての恋愛ドラマが、好きになり色々あって結局は結ばれてはい終わりと言う展開から、夫婦になった後の問題点や悩みをも語り始めたように、LBGTQジャンルのドラマも同性婚が成立した世の中では、結果的に異性愛者と同じような夫婦の姿や倦怠期の問題が描かれていくのかなと感じた。

人気を博しているBLドラマは、1人が好きになり振り向くまでの道のり(一方が異性愛者である場合など)が山あり谷ありで描かれ、好きだと告白し合ってハッピーエンド(バッドエンドもあり)、となる展開が多いものの、同性婚が認められれば当然、そこにプロポーズというプロセスが入り、やがては夫婦となった2人が描かれていくのは当然の流れと言える。

そう言う意味では、台湾はいち早くその段階に来ていると言うことだ。日本でこのドラマのリメイクをやろうとしても、結婚という事実からファンタジーになってしまう。その意味でも一歩先を行くドラマだと言うことは認識しておきたい。


台北に来て飲食店をオープンさせようと準備していたダミアン、そのダミアンのお店のPR担当として抜擢されたユーチューバーのジェリー。

2人は瞬く間に恋に落ち、周囲の勧めもあり結婚。ダミアンの希望通り、息子をもうけて育てている。

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ジェリーは子供を持つことはやや消極的だったが、飲食店を展開し日々忙しくしているダミアンの希望もあってしばらく子育てに専念していた。ただ息子が幼稚園に通える年齢となったことで、社会復帰を考えるようになり、そのことをダミアンに相談する、と言うのが第一話。

これは同性婚だろうが、異性婚だろうが変わりなく問題となる「夫婦」のエピソードであると感じる。

それ以外でも、ジェリーは厳格な両親には一人息子である自分の性的嗜好をなかなかカミングアウトできないでいて、当然ダミアンとのことも秘密にしている・・・と言う家族の理解を得るという問題。

そして息子であるカイが幼稚園に通い始めたことで、「パパとダディがいるのはおかしい。なぜ自分には母親がいないのか」と言う疑問にあたることになる。

これらは同性婚ならではの問題点のように感じるが、結婚相手について両親の意向にそぐえず恋人との結婚を許してもらえない、と言うことはままあることである。

そして、ママ友とうまくやっていけない、子供が幼稚園に馴染めない、などの問題はどの家庭にも起こり得ることと言える。何かが起こり子供が幼稚園に行きたがらなかったり、自分がどうしても会社に行きたいのに思うようにならない、など子供を持つ親ゆえの葛藤は同性でも異性でも同じようにあると思う。

ただし、本作では一話の長さも関係してか、それぞれがそこまで深刻にならないうちに解決策が提示されていたり、問題を先送りにしている。

実際彼らを取り巻く人たちはとても優しいし、理解に溢れている人が多く、そう言う意味ではそこまで神経質にならずともハッピーに見られる作品と思う。

パート2が恐らく作られるのだろうな、と思われる問題解決なしの衝撃的な結末(何かが露呈する)、恋愛中の2人の意見の相違をどう調整したのかが不明、と言うやや消化不良な終わり方になったのが残念。

単純に時間の差だとは思えど、HIStory4の方が丁寧に一つ一つ問題に向き合っていたことを思うと、こちらではその先に進み、同性婚の実態に踏み込んだ実験的な作品であると言う部分もあるのかなと思えた。

もし続編が決まっているのであれば、やや消化しきれなかったところを丁寧に描いてくれることを願う。

実際のところ日本において、恋愛はまだしも結婚という制度に夢の持てない若者たちがいる中で、結婚したくても制度に阻まれてできないと言うカップルの方が婚姻という制度に積極的、という逆転現象が起こるかも知れない。

そうすると、子供を持つことや長らく夫婦として暮らしていくことが単純にできないからこそ、その覚悟が異性愛者を上回る可能性を孕んでいる。今後ドラマや映画の恋愛ストーリーが変化を加えて、さまざまな展開が用意されていくような気がする。

パートナーの浮気相手が必ずしも異性者であるとは限らない。そして自分の性的嗜好が一生変わらないとも限らない。

可能性が無限であるからこそ、もっと良質で深みのある恋愛ストーリーが日本でもっと生まれるといいのに、と思う。


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