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【小説】すぐトナリの境界〜ミントと恋4〜

連作小説「ミントと恋」のEP4。EP1は「ミントと毒薬」。
一週間の限定無料公開。一週間後に次のEPが発表になります。
※これまでのすべての作品は、マガジン「ミントと恋」にあります。

男子とオトコ

 前田哲也、テツくん、幼なじみ。
 母親同士が仲が良くて、家が隣同士。
 うちの両親とテツくんの両親はほぼ同時期に結婚し、畑を潰した宅地に建った、似たような外観の建売住宅に移り住んできた。

 幼稚園のお迎えバスには2人手を繋いで乗り込んだ。
 小学校では同じグループで登校した。

 虫が苦手で、小さくて細っちい男の子からは、小学校6年生で背を抜かれた。それから水泳を始めたテツくんはグングン肩幅が広くなって、日に焼けた真っ黒な顔にはうっすらヒゲも見えてきて、部活終わりにはレモンの制汗剤の匂いをぷんぷんさせるようになった。 

 テツくんは当たり前に「男」だった。

 私の後ろに隠れて、体育の時間に逆上がりができなくてメソメソしていた男の子はもういなくなって、テツくんはたちまち、そこらへんにいる男みたいに声が低くなって、力でも背でも到底かなわなくなった。
「テツくん、もっと背が伸びるわよねぇ。日焼けしてますます格好良くなったわ」
 ママはそんな風に時々うっとりとした顔で言ってくる。「赤ちゃんの頃から知ってるテツくんがあんな風に急に男っぽくなると、何か感動するわねぇ」ということらしいのだ。
「学校じゃバカみたいに友達とジャレてるけどね。いまだに」
 私がチャチャを入れても全く聞いていない。
「テツくん、モテるでしょうねぇ」
「ううん、全然。たまにそれっぽい子できるけど続かないし」
「あらぁ、やっぱりイケメンは違うわねぇ。選べるのよ」
 やっぱり全く聞いていない。
「そんなことよりミクは全然浮いた話ないじゃない。テツくんみたいな子が隣にいるとなかなか男子も告白しづらいんじゃないの?幼なじみだってちゃんと周りに言ってるの?」
「言ってて恥ずかしくない?」
 ママはパパと仲が良い。大学時代の先輩のパパをママが好きになって、追いかけて同じ会社に就職したのだそうだ。
「やっぱ女はいざという時は行動しなきゃダメよ。でもいざという時だけ。あんまりいつも行動し過ぎると信用されなくなるからダメよ」
 とたまたま一度くらいうまく行ったからって、全ての恋愛を手にしたみたいにうっとりと語っている。
「もう就職してからのママはすごかったのよ。パパの視界に入ろうと毎日必死だったもの」
 私にはママの血はあんまり入ってないみたいだな。私はこの話を聞くたびにそう思う。

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