映画「街の上で」ぐるりと回って戻る、螺旋系物語
2024の春ドラマでの好演が界隈を賑わせていた「アンメット」の三瓶先生の若葉竜也。その影響もあっただろう、あちこちでリバイバル上映も決まったとSNSで見かけたのでようやく鑑賞。「街の上で」
全体を包むムードはカフェ、アングラなBar、ライブ、古着、そして舞台、ざらざらした世界観、そこに漂うまったりとした空気。映画が始まると同時にぼんやりと、シモキタの街をぶらぶらできるようなそんな空気があった。
ストーリー
と語るほどのことは特にないのだけれど、主演は若葉竜也。こちらは三瓶先生とは全然違う、平凡な古着屋のにいちゃん。彼女から別れ話を切り出され、それからの日々を淡々と綴る。舞台は下北沢、馴染みの街を若葉演じる荒川青とともに辿っていく。
ケーキに始まり、ケーキに終わる
物語の冒頭、荒川青のシーンがぽんぽんと続くのだけれどこれは最終的にはちゃんと回収される。回収、というとミステリーの伏線回収みたいな雰囲気が出てしまうけれどドラマティックというよりはやんわり、あぁこれだったのか、という程度のテンション。
その一つがチョコレートケーキ。ホールのチョコレートケーキが4分の1食べられたところで放置され、やがてそれは冷蔵庫に入れられる。そのケーキを再び冷蔵庫から取り出されるまでの、物語。
チョコレートケーキの次のチーズケーキ
荒川青は実は弾き語りのミュージシャンも経由している。いかにも下北の若者らしいエピソード。その時自作した曲は「チーズケーキ」。
ただし本人にとってはやや気まずい話題だったようで、その狼狽ぶりは古本屋の田辺に対する失言からもみてとれる。
このチーズケーキ、見つけた古いテープを再生できないとわかるや、古いギターを取り出してきて青が独唱するシーンがある。
若葉竜也の歌唱、なかなかです。
シモキタのカフェ
どこかの2階だろうか、古い家具にレコードがかかるカウンターとテーブル数席のカフェが青の馴染みの店の一つとして登場するのだけれど、これがすごいいい感じのカフェ。もうカフェブームの頃だったら完全に行きたいカフェに登録していたな、という。その中で、後から「南瓜とマヨネーズ」だと知るのだけれど魚喃キリコの漫画を手に、聖地巡礼らしき若者がいて店員に話しかけるというシーンが出てくる。
「南瓜とマヨネーズ」もいい映画だったな・・・また見よう。
ちょっとカッコわる
荒川青は力の抜けたいまどきの青年なのだけれど、ややかっこ悪い。別れた彼女が忘れられずにウジウジ連絡を取っているし、たまたま頼まれた学生映画への出演依頼も気乗りしないふりをしながら猛練習、挙句に全然出来ずに一人だけガッチガチに固まって監督を狼狽えさせる。
でも、いいよなぁ、友達にこういう人欲しいかも。わかるよ、城定イハちゃん。
映画人たる若葉竜也が存分に味わえる
若葉竜也さんが「アンメット」に出演した時、普段は映画の人というような紹介のされ方をしていた。あまり意識したことはなかったけれど、今回若葉さんの出演作を遡るとなるほど、出演は映画が圧倒的。
彼のフラットで飾らない演技は、ひところの浅野忠信や加瀬亮などと同じラインである印象、あくまでも個人的印象だけれど、濃ゆい日曜劇場っぽい演技の応酬に胃もたれした時にはすごくいい。
そう言えば今作を見る前に若葉さん出演の映画「神は見返りを求める」をみたけれど、ここではイマドキはイマドキだけれどいい加減で日和見的な青年を演じていて耳に痛いほど外野気質が最低です(笑)
若葉さんの魅力だけを浴びたいならば見ないほうがいいけれど、演技の幅を確認するためだけならアリと思います。
そっと存在してはみたい
もういい大人になってしまったけれど、学生時代とかにこういう文化に遭遇していたら、あぁ都会の一人暮らし一度でいいからやってみたい、と思っていただろう。こんなふうにフリーターでぼんやり食い繋いで、ダラダラと街を回遊する熱帯魚みたいな生活、してみたい。そしてちょっと苦手な飲み会にうっかり参加して隅っこで飲んでる荒川青に話しかけ、一晩中恋バナとかしてみたい。
さて、シモキタ回遊の旅に出てみましょうよ。