ぼくのポーランド語入門 1 文字と発音

2年前のクリスマスに「ぼくのオランダ語入門 1 文字と発音」という記事を書きました。
オランダ語の文字と発音をぼくが勉強してまとめて、最後にオランダ語版の「きよしこの夜」を発音してみるというものです。

残念ながらその後オランダ語の勉強は続きませんでしたが、いつか勉強したくなったときのために、発音だけでもできるようになっておくのは悪くないものです。

最近ショパンの評伝を読んでいて、発音できないポーランド語の地名や人名がたくさん出てきて、ポーランド語もとりあえず発音できるようになっておきたいと思いました。そこで今年はポーランド語で同じことをやってみることにします。文字と発音の仕組みだけを学んで、最後に「きよしこの夜」を発音記号にしてみます。

適宜ほかの言語、特に同じスラヴ系の言語ということでロシア語と比較していますが、馴染みのない言語についての記述は読み飛ばしていただいても問題ないように書いているつもりです。

これを書いているぼく自身が入門者なので、記述に不正確なところもあるかもしれません。なにかお気づきのことがありましたら、どんなに細かいことでもかまいませんので、コメントいただければさいわいです。

それでは始めましょう!

母音

ポーランド語には /a, i, u, e, o, ɨ/ の6つの母音があります。

a, i, u, e, o と書いてそれぞれ /a, i, u, e, o/ と発音します。簡単ですね。
ó と書いても u と同じく /u/ と発音します。
y と書いて /ɨ/ と発音します。これはロシア語の ы に近い音です。

mój /muj/ 私の
bóg /buk/ 神
Kraków /ˈkrakuf/ クラクフ(ポーランド南部の都市)
ty /tɨ/ きみ 
syn /sɨn/ 息子
stary /ˈstarɨ/ 古い

なお、このほかにもっぱら借用語で使われる二重母音 au, eu /aw, ew/ があります。

アクセント

ポーランド語のアクセントは強弱アクセントで、ほとんどの場合、語末から2つ目の音節にアクセントが来ます。

numer /ˈnumer/ 番号
problem /ˈproblem/ 問題
telefon /teˈlefon/ 電話
daleko /daˈleko/ 遠い

ただし外来語では語末から3つ目の音節にアクセントが来ることもあります。

muzyka /ˈmuzɨka/ 音楽
uniwersytet /uɲiˈversɨtet/ 大学

子音① /t, d, r/

t, d と書いてそれぞれ /t, d/ と発音します。(正確には歯茎音ではなく歯音の [t̪, d̪] です。)

r と書いて /r/ と発音します。実際には語頭を含めてほとんどの場合、ふるえ音ではなくはじき音の [ɾ] で発音されるようです。

tam /tam/ あそこに
matka /ˈmatka/ 母
dom /dom/ 家
adres /ˈadres/ 住所

rok /rok/ 年
który /ˈkturɨ/ どの
super /ˈsuper/ すごい
doktor /ˈdoktor/ 医者

子音② /p, b, k, g, f, v, x, m, l/ と /pʲ, bʲ, kʲ, gʲ, fʲ, vʲ, xʲ, mʲ, lʲ/

これらの子音には硬子音(/p/ など)と軟子音(/pʲ/ など)の対立があります。日本語の パ /pa/ と ピャ /pʲa/ などの違いとほぼ同じです。

ロシア語の場合、例えば /pa/ と /pʲa/ はそれぞれ па と пя と書き、母音字の違いで硬子音と軟子音の違いを表現しますが、ポーランド語では /pa/ と /pʲa/ はそれぞれ pa と pia と書きます。i の文字が軟子音のしるしになっているというわけです。ただし /pʲi/ は単に pi と書きます。

ポーランド語とロシア語を比べてみましょう。ロシア語では /pʲ/ などが母音の前以外でも使われる(例:цепь /t͡sepʲ/)のに対して、ポーランド語の /pʲ, bʲ, kʲ, gʲ, fʲ, vʲ, xʲ, mʲ, lʲ/ は母音の前でのみ使われます。

ポーランド語
硬子音 pa, py, pu (pó), pe, po /pa, pɨ, pu, pe, po/; p /p/
軟子音 pia, pi, piu (pió), pie, pio /pʲa, pʲi, pʲu, pʲe, pʲo/

ロシア語
硬子音 па, пы, пу, пэ, по /pa, pɨ, pu, pe, po/; п /p/
軟子音 пя, пи, пю, пе, пё /pʲa, pʲi, pʲu, pʲe, pʲo/; пь /pʲ/

このような仕組みで、p, b, k, g, f, m, l と書いて /p(ʲ), b(ʲ), k(ʲ), g(ʲ), f(ʲ), m(ʲ), l(ʲ)/ と発音します。これは期待通りですね。
w は /w/ ではなく /v(ʲ)/ と発音します。
h と ch はともに /x(ʲ)/ と発音します。この2つにだけ注意しましょう。

potem /ˈpotem/ 後で
albo /ˈalbo/ または
tylko /ˈtɨlko/ 〜だけ

dopiero /doˈpʲero/ ようやく
kobieta /koˈbʲeta/ 女性
kiedy /ˈkʲedɨ/ いつ
miasto /ˈmʲasto/ 都市
list /lʲist/ 手紙
kilka /ˈkʲilka/ いくつかの
minuta /mʲiˈnuta/ 分

hej /xej/ やあ
historia /xʲisˈtorʲja/ 歴史、物語
ich /ix/ 彼らの
Chrystus /ˈxrɨstus/ キリスト

dwa /dva/ 2
prawda /ˈpravda/ 真実
wiele /ˈvʲele/ 多数
wino /ˈvʲino/ ワイン

子音③ /j, w/

半母音と呼ばれる2つの子音です。
/j/(ヤ行の子音)は j と書きます。
/w/(ワ行の子音)は ł と書きます。これは元は英語で dark l と呼ばれるものに近い音だったのですが、現代ポーランド語では /w/ に変化しました。

ja /ja/ 私
jego /ˈjego/ 彼の、それの
jej /jej/ 彼女の
lepiej /ˈlepʲej/ より良い

mały /ˈmawɨ/ 小さい
długo /ˈdwuɡo/ 長く
był /bɨw/ 〜だった
pomysł /ˈpomɨsw/ 考え

子音④ /n, ɲ/

/ɲ/ という発音記号は見慣れない方もいらっしゃるかと思いますが、日本語の「に」が [ɲi] なので特に恐れることはありません。

ここで特筆すべきは、ポーランド語では /ɲ/ が母音の前以外でも登場するという点です。この場合にのみ ń という文字が使われます。

ポーランド語
硬子音 na, ny, nu (nó), ne, no /na, nɨ, nu, ne, no/; n /n/
軟子音 nia, ni, niu (nió), nie, nio /ɲa, ɲi, ɲu, ɲe, ɲo/; ń /ɲ/
ロシア語
硬子音 на, ны, ну, нэ, но /na, nɨ, nu, ne, no/; н /n/
軟子音 ня, ни, ню, не, нё /nʲa, nʲi, nʲu, nʲe, nʲo/; нь /nʲ/

ona /ˈona/ 彼女
nowy /ˈnovɨ/ 新しい
plan /plan/ 計画
inny /ˈinnɨ/ 他の

nikt /ɲikt/ 誰も〜ない
pewnie /ˈpevɲe/ おそらく
ostatnio /oˈstatɲo/ 最近
pytanie /pɨˈtaɲe/ 質問

broń /broɲ/ 武器
ogień /ˈoɡʲeɲ/ 火
Gdańsk /ɡdaɲsk/ グダニスク(ポーランド北部の都市)
słońce /ˈswoɲt͡se/ 太陽

子音⑤ /s, ʃ,ɕ, z, ʒ, ʑ/

ここが最大の難所です。

まず /ʃ/ と /ɕ/ を区別することから始めましょう。英語の sh、フランス語の ch、ドイツ語の sch が /ʃ/ です。日本語の「し」や韓国語の「시」が [ɕi] です。中国語ではピンインの sh が /ʃ/、 x(i) が /ɕ/ です。ロシア語では ш が /ʃ/、 щ が /ɕː/ です。(中国語やロシア語やポーランド語の /ʃ/ は /ʂ/ と表記されることもありますが、インドの言語に見られるような本格的(?)なそり舌音ではありません。)

次にポーランド語の綴り字です。
sz と書いて /ʃ/ と発音します。これは一対一の対応です。
s と書いて、i の前以外では /s/ と発音します。si は、母音字の前では /ɕ/、それ以外では /ɕi/ と発音します。まるで日本語の訓令式ローマ字のように sa は /sa/ なのに si は /ɕi/ であることに注意しましょう。
母音の前以外の /ɕ/ は ś と表記されます。

ポーランド語
硬子音 sa, sy, su (só), se, so /sa, sɨ, su, se, so/; s /s/
硬子音 sza, szy, szu (szó), sze, szo /ʃa, ʃɨ, ʃu, ʃe, ʃo/; sz /ʃ/
軟子音 sia, si, siu (sió), sie, sio /ɕa, ɕi, ɕu, ɕe, ɕo/; ś /ɕ/

ロシア語
硬子音 са, сы, су, сэ, со /sa, sɨ, su, se, so/; с /s/
軟子音 ся, си, сю, се, сё /sʲa, sʲi, sʲu, sʲe, sʲo/; сь /sʲ/
硬子音 ша, ши, шу, ше, шо (шё) /ʃa, ʃɨ, ʃu, ʃe, ʃo/; ш /ʃ/
軟子音 ща, щи, щу, ще, що /ɕːa, ɕːi, ɕːu, ɕːe, ɕːo/; щ /ɕː/

sam /sam/ 一人で
sekunda /seˈkunda/ 秒
system /ˈsɨstem/ システム
pies /pʲes/ 犬

nasz /naʃ/ 私たちの
szybki /ˈʃɨpkʲi/ 速い
szkoła /ˈʃkowa/ 学校
najlepszy /najˈlepʃɨ/ 最高の

osiem /ˈoɕem/ 8
siostra /ˈɕostra/ 姉妹
siła /ˈɕiwa/ 力
silny /ˈɕilnɨ/ 強い

ślub /ɕlup/ 結婚
jeśli /ˈjeɕlʲi/ もし
kiedyś /ˈkʲedɨɕ/ かつて
właśnie /ˈvwaɕɲe/ ちょうど

無声子音 /s, ʃ, ɕ/ にそれぞれ対応する有声子音が /z, ʒ, ʑ/ です。
ż または rz と書いて /ʒ/ と発音します。
z と書いて、i の前以外では /z/ と発音します。zi は、母音字の前では /ʑ/、それ以外では /ʑi/ と発音します。
母音の前以外の /ʑ/ は ź と表記されます。

ポーランド語
硬子音 za, zy, zu (só), ze, zo /za, zɨ, zu, ze, zo/; z /z/
硬子音 ża, ży, żu (żó), że, żo /ʒa, ʒɨ, ʒu, ʒe, ʒo/; ż /ʒ/
硬子音 rza, rzy, rzu (rzó), rze, rzo /ʒa, ʒɨ, ʒu, ʒe, ʒo/; rz /ʒ/
軟子音 zia, zi, ziu (zió), zie, zio /ʑa, ʑi, ʑu, ʑe, ʑo/; ź /ʑ/

ロシア語
硬子音 за, зы, зу, зэ, зо /za, zɨ, zu, ze, zo/; з /z/
軟子音 зя, зи, зю, зе, зё /zʲa, zʲi, zʲu, zʲe, zʲo/; зь /zʲ/
硬子音 жа, жи, жу, же, жо (жё) /ʒa, ʒɨ, ʒu, ʒe, ʒo/; ж /ʒ/

zły /zwɨ/ 悪い
razem /ˈrazem/ 一緒に
prezent /ˈprezent/ 贈り物
jazda /ˈjazda/ 運転

dużo /ˈduʒo/ 多数
jeżeli /jeˈʒelʲi/ もし
każdy /ˈkaʒdɨ/ 各々の
ważny /ˈvaʒnɨ/ 重要な

morze /ˈmoʒe/ 海
dobrze /ˈdobʒe/ 良く
olbrzym /ˈolbʒɨm/ 巨人
marzenie /maˈʒeɲe/ 夢

ziemia /ˈʑemʲa/ 地球
poziom /ˈpoʑom/ レベル
zima /ˈʑima/ 冬
guzik /ˈɡuʑik/ ボタン

źle /ʑle/ 悪く
późny /ˈpuʑnɨ/ 遅い
wyraźny /vɨˈraʑnɨ/ 明確な
wyobraźnia /vɨobˈraʑɲa/ 想像

子音⑥ /t͡s, t͡ʃ, t͡ɕ, d͡z, d͡ʒ, d͡ʑ/

摩擦音 /s, ʃ,ɕ, z, ʒ, ʑ/ にそれぞれ対応する破擦音が /t͡s, t͡ʃ, t͡ɕ, d͡z, d͡ʒ, d͡ʑ/ です。

cz と書いて /t͡ʃ/ と発音します。
c と書いて、i の前以外では /t͡s/ と発音します。zi は、母音字の前では /t͡ɕ/、それ以外では /t͡ɕi/ と発音します。
母音の前以外の /t͡ɕ/ は ć と表記されます。

ポーランド語
硬子音 ca, cy, cu (có), ce, co /t͡sa, t͡sɨ, t͡su, t͡se, t͡so/; c /t͡s/
硬子音 cza, czy, czu (czó), cze, czo /t͡ʃa, t͡ʃɨ, t͡ʃu, t͡ʃe, t͡ʃo/; cz /t͡ʃ/
軟子音 cia, ci, ciu (ció), cie, cio /t͡ɕa, t͡ɕi, t͡ɕu, t͡ɕe, t͡ɕo/; ć /t͡ɕ/

ロシア語
硬子音 ца, ци, цу, це, цо /t͡sa, t͡sɨ, t͡su, t͡se, t͡so/; ц /t͡s/
硬子音 тша, тши, тшу, тше, тшо /t͡ʃːa, t͡ʃːɨ, t͡ʃːu, t͡ʃːe, t͡ʃːo/; тш /t͡ʃː/
軟子音 ча, чи, чу, че, чо (чё) /t͡ɕa, t͡ɕi, t͡ɕu, t͡ɕe, t͡ɕo/; ч /t͡ɕ/

(ロシア語の /t͡ʃː/ は、отшить, младший, лучше などの тш, дш, чш に表れます。)

co /t͡so/ 何
miejsce /ˈmʲejst͡se/ 場所
noc /not͡s/ 夜
koniec /ˈkoɲet͡s/ 終わり

czas /t͡ʃas/ 時間
znaczenie /znaˈt͡ʃeɲe/ 意味
cztery /ˈt͡ʃterɨ/ 4
rzecz /ʒet͡ʃ/ もの

życie /ˈʒɨt͡ɕe/ 人生
ojciec /ˈojt͡ɕet͡s/ 父
ciało /ˈt͡ɕawo/ 身体
cichy /ˈt͡ɕixɨ/ 静かな

być /bɨt͡ɕ/ 〜である
spać /spat͡ɕ/ 眠る
choć /xot͡ɕ/ 〜だが
dość /doɕt͡ɕ/ 十分に

ポーランド語
硬子音 dza, dzy, dzu (dzó), dze, dzo /d͡za, d͡zɨ, d͡zu, d͡ze, d͡zo/; dz /d͡z/
硬音 dża, dży, dżu (dżó), dże, dżo /d͡ʒa, d͡ʒɨ, d͡ʒu, d͡ʒe, d͡ʒo/; dż /d͡ʒ/
軟子音 dzia, dzi, dziu (dzió), dzie, dzio /d͡ʑa, d͡ʑi, d͡ʑu, d͡ʑe, d͡ʑo/; dź /d͡ʑ/

ロシア語
硬子音 дза, дзы, дзу, дзе, дзо /d͡za, d͡zɨ, d͡zu, d͡ze, d͡zo/; дз /d͡z/
硬子音 джа, джи, джу, дже, джо (джё) /d͡ʒːa, d͡ʒːɨ, d͡ʒːu, d͡ʒːe, d͡ʒːo/; дж /d͡ʒː/

bardzo /ˈbard͡zo/ 非常に
rodzaj /ˈrod͡zaj/ 種類
dzwonić /ˈd͡zvoɲit͡ɕ/ 電話する
dzbanek /ˈd͡zbanek/ 水差し

dżem /d͡ʒem/ ジャム
menedżer /meˈned͡ʒer/ マネージャー
dżentelmen /d͡ʒenˈtelmen/ 紳士
wyjeżdżać /vɨˈjeʒd͡ʒat͡ɕ/ (乗り物で)出発する

gdzie /ɡd͡ʑe/ どこ
dziadek /ˈd͡ʑadek/ 祖父
godzina /ɡoˈd͡ʑina/ 1時間
jeździć /ˈjeʑd͡ʑit͡ɕ/ 乗り物で行く

wiedźma /ˈvʲed͡ʑma/ 魔女
dźwigać /ˈd͡ʑvʲiɡat͡ɕ/ 運ぶ
dźwięk /d͡ʑvʲeŋk/ 音
niedźwiedź /ˈɲed͡ʑvʲet͡ɕ/ 熊

なお、ポーランド語には破擦音 /t͡s, t͡ʃ, d͡z, d͡ʒ/ とは別に、「破裂音+摩擦音」/ts, tʃ, dz, dʒ/ という組み合わせがあります。
/tʃ, dʒ/([t͡ʃʃ, d͡ʒʒ] とも発音されます)が特によく登場します。綴りは破擦音 /t͡ʃ, d͡ʒ/ を表す cz, dż と区別して、trz, drz と書きます。

trzy /tʃɨ/ 3
patrzeć /ˈpatʃet͡ɕ/ 見る
zatrzymać /zaˈtʃɨmat͡ɕ/ 止める
zewnątrz /ˈzevnontʃ/ 外で

drzwi /dʒvʲi/ ドア
drzewo /ˈdʒevo/ 木
mądrze /ˈmondʒe/ 賢く
odrzucić /odˈʒut͡ɕit͡ɕ/ 拒否する

przedstawić /pʃetˈstavʲit͡ɕ/ 紹介する
podsłuch /ˈpotswux/ 盗聴
odzew /ˈodzef/ 反応
odzyskać /odˈzɨskat͡ɕ/ 回復する

子音の同化

語中の位置や前後の音によって、子音が変化することがあります。

まず、語末の有声子音は無声子音に変化します。

obiad /ˈobʲat/ 昼食
klub /klup/ クラブ
bóg /buk/ 神
krew /kref/ 血
obraz /ˈobras/ 絵
pieprz /pʲepʃ/ 胡椒
już /juʃ/ すでに
więź /vʲeɲɕ/ 紐
ksiądz /kɕont͡s/ キリスト教の聖職者
koledż /ˈkolet͡ʃ/ 単科大学(college とも綴る)
łódź /wut͡ɕ/ ボート

子音が連続する場合、ほとんどの場合、前の音が後の音の影響を受けます。
つまり、「有声子音+無声子音」は「声子音+無声子音」に変化し、「無声子音+有声子音」は「声子音+有声子音」に変化します。

słodki /ˈswotkʲi/ 甘い
〔…〕(例はのちほど追加します)

ただし、「無声子音+/v/」「無声子音+/ʃ/」に限り、逆に後の音が前の音の影響を受けて無声化し、「無声子音+/f/」「無声子音+/ʒ/」になります。

〔…〕(例はのちほど追加します)

「鼻母音」 ą, ę

ポーランド語には2つの「鼻母音」ą, ę がある、と言われることがありますが、現代ポーランド語にはフランス語のような純粋な鼻母音はありません。

ą, ę と書いて /oŋ, eŋ/ と発音する、とまずは覚えておきましょう。

zresztą /ˈzreʃtoŋ/ そのうえ
mówią /ˈmuvʲoŋ/ 彼らは言う
mąż /moŋʃ/ 夫
język /ˈjeŋzɨk/ 言語

dzięki /ˈd͡ʑeŋkʲi/ 感謝
ciągle /ˈt͡ɕoŋɡle/ まだ

ただし、語末の ę は単に /e/ と発音されることもあります。また /l/ と /w/ の前の ą, ę は単に /o, e/ と発音されます。

naprawdę /naˈpravde(ŋ)/ 本当に
trochę /ˈtroxe(ŋ)/ 少し
zaczął /ˈzat͡ʃow/ 彼は始めた
wzięli /ˈvʑelʲi/ 彼らは取った

この /ŋ/ は、後の子音の調音位置に合わせて変化することがあります。日本語の「ン」のようなものだと思えば、あまり気にしなくてもいいかもしれません。

początek /poˈt͡ʃontek/ 始まり
tędy /ˈtendɨ/ ここを通って
miesiąc /ˈmʲeɕont͡s/ (暦の)月
między /ˈmʲend͡zɨ/ 〜の間に

głęboki /ɡwemˈboki/ 深い
kąpiel /ˈkompʲel/ 風呂

wziąć /vʑoɲt͡ɕ/ 取る
spędzić /ˈspeɲd͡ʑit͡ɕ/ 過ごす

ポーランド語で「きよしこの夜」

これでポーランド語の文字と発音の基本はおさえることができました。
最後にポーランド語版の「きよしこの夜」を発音してみましょう。

Cicha noc, święta noc,
Pokój niesie ludziom wszem,
A u żłóbka Matka Święta
Czuwa sama uśmiechnięta*¹,
Nad*² Dzieciątka snem,
Nad Dzieciątka snem.

/ˈt͡ɕixa ˈnot͡s ˈɕfʲenta ˈnot͡s
ˈpokuj ˈɲeɕe ˈlud͡ʑom ˈfʃem
ˈa u ˈʒwupka ˈmatka ˈɕfʲenta
ˈt͡ʃuva ˈsama ˌuɕmʲexʲˈɲenta*¹
ˈnad*² d͡ʑeˈt͡ɕontka ˈsnem
ˈnad d͡ʑeˈt͡ɕontka ˈsnem/

*1 後ろの軟子音 /ɲ/ の影響で /x/ も軟子音 /xʲ/ に変化しています。
*2 nad 単独では /nat/ ですが、ここでは後ろに有声子音 /d͡ʑ/ があるので無声化しません。

Cicha noc, święta noc,
Pastuszkowie od swych trzód
Biegną wielce zadziwieni,
Za anielskim głosem pieni,
Gdzie się spełnił cud,
Gdzie się spełnił cud.

/ˈt͡ɕixa ˈnot͡s ˈɕfʲenta ˈnot͡s
ˌpastuˈʃkovʲe ˈot sfɨx ˈtʃut
ˈbʲeɡnoŋ ˈvʲelt͡se ˌzad͡ʑiˈvʲeɲi
ˈza aˈɲelskʲim ˈɡwosem ˈpʲeɲi
ˈɡd͡ʑe ɕe ˈspewɲiw ˈt͡sut
ˈɡd͡ʑe ɕe ˈspewɲiw ˈt͡sut/

Cicha noc, święta noc,
Narodzony Boży Syn,
Pan wielkiego majestatu,
Niesie dziś całemu światu
Odkupienie win,
Odkupienie win.

/ˈt͡ɕixa ˈnot͡s ˈɕfʲenta ˈnot͡s
ˌnaroˈd͡zonɨ ˈboʒɨ sɨn
ˈpan vʲelˈkʲeɡo ˌmajesˈtatu
ˈɲeɕe ˈd͡ʑiɕ t͡saˈwemu ˈɕfʲatu
otkuˈpʲeɲe vʲin
otkuˈpʲeɲe vʲin/

ここまでお読みくださった方、ありがとうございました!

ややこしいところはありますが、アクセントの位置がほぼ固定されているおかげで、フランス語などと同じように、綴りの仕組みさえ覚えてしまえば意味が分からなくてもかなり正確に発音できるようにはなりそうですね。

個人的にはすでに少し知っているロシア語と似ているところや、似ていそうで違うところにも興味を惹かれました。

いつか文法や語彙もちゃんと勉強して、ショパンの書簡などをポーランド語で読めるようになったら楽しそうだなと思います。

それではみなさま、メリークリスマス! Wesołych Świąt!

参考文献

石井哲士朗『明解ポーランド語文法』白水社、2016年。
石井哲士朗、三井レナータ、阿部優子『ニューエクスプレスプラス ポーランド語』白水社、2019年。
神山孝夫『ロシア語音声概説』研究社、2012年。
木村彰一、吉上昭三『ポーランド語の入門』白水社、1973年。

Canepari, Luciano. A Handbook of Pronunciation. München: Lincom Europa, 2007.
Canepari, Luciano. Natural Phonetics and Tonetics. München: Lincom Europa, 2007.
Jassem,Wiktor. “Polish.” Journal of the International Phonetic Association 33, no. 1 (2003): 103–107.

“Wikipedia: Ą.”
“Wikipedia: Ę.”
“Wikipedia: Polish phonology.”
“Wiktionary.”

他の記事も読んでみていただけるとうれしいです! 訳詩目録 https://note.com/lulu_hiyokono/n/n448d96b9ac9c つながる英単語ノート 目次 https://note.com/lulu_hiyokono/n/nf79e157224a5