プラーテン「ブゼント川の墓」(ドイツ詩100選を訳してみる 7)

これまでにnoteで訳した詩の中で、唯一満足のいく出来にならなかったのがこの詩でした。

仕方なくしばらく寝かせていたのですが、一つアイデアが浮かんだので再挑戦してみました。

3ヶ月前に訳したときの違和感は、形式的に厳格な詩を意味だけ写していることの物足りなさでした。すべての行で厳密に「強弱」を8回繰り返し、脚韻も後ろから2番めの母音から完璧に踏んでいます(Doppelreim、二重韻)。これを日本語に写そうとして、音数を合わせたり韻を踏んだりしても、滑稽な効果しか得られないような気がしました。

そんな中、ずっと前にどこかのアンソロジーで読んだ笹沢美明(1898-1984)の『形体詩集 おるがん調』という詩集のことを思い出しました。

強者を私は憎む
権力や傲慢には
そして軽侮には
呪ひでむくいる
モルグに行けと
静かな森や林に
私を譬へる人も
烈しい私の風や
荒々しい熔岩に
驚いて見なほす
その時私は獣だ
森のどこに獣が
隠れてゐたかと
人は不審に思ふ
私が求めて月の
帷や星の天幕や
花の寝床の傍を
彷徨して見たり
窪みや蔭を好み
純粋や美を探り
過去を慕ふのは
私の獣を宥めて
ひそかに調和を
作るだめだから
その調和の中で
私の詩は生れる
(第二部 続おるがん調 19)

詩集全体は初めて読みましたが、こんな感じで文字数の揃った詩行がずらりと並んでいくさまは圧巻でした。

同じように、プラーテンの詩を、1行12字+12字の24字縛りで訳してみました。与える印象はいくらか似せることができたのではないかと思います。文字数のために無理をせざるをえなかった箇所もありますが、下書き版と読み比べてみていただければうれしいです。

Das Grab im Busento

Nächtlich am Busento lispeln, bey Cosenza, dumpfe Lieder,
Aus den Wassern schallt es Antwort, und in Wirbeln klingt es wieder!

Und den Fluß hinauf, hinunter, zieh’n die Schatten tapfrer Gothen,
Die den Alarich beweinen, ihres Volkes besten Todten.

Allzufrüh und fern der Heimath mußten hier sie ihn begraben,
Während noch die Jugendlocken seine Schulter blond umgaben.

Und am Ufer des Busento reihten sie sich um die Wette,
Um die Strömung abzuleiten, gruben sie ein frisches Bette.

In der wogenleeren Höhlung wühlten sie empor die Erde,
Senkten tief hinein den Leichnam, mit der Rüstung, auf dem Pferde.

Deckten dann mit Erde wieder ihn und seine stolze Habe,
Daß die hohen Stromgewächse wüchsen aus dem Heldengrabe.

Abgelenkt zum zweyten Male, ward der Fluß herbeygezogen:
Mächtig in ihr altes Bette schäumten die Busentowogen.

Und es sang ein Chor von Männern: Schlaf’ in deinen Heldenehren!
Keines Römers schnöde Habsucht soll dir je dein Grab versehren!

Sangen’s, und die Lobgesänge tönten fort im Gothenheere;
Wälze sie, Busentowelle, wälze sie von Meer zu Meere!
コゼンツァのブゼント川に 夜ごとくぐもった歌が響く。
水の中から声がそれに答え 渦巻の中で声がこだまする。

勇敢なゴート人の霊たちが 川上へ川下へと隊列を組み
部族一の男アラリック王の 死を悼みむせび泣いている。

故郷を遠く離れたこの地で 王は早すぎる急死を遂げた、
まだ若々しい金色の巻毛が 肩を覆っていたというのに。

そしてブゼント川の川岸に ゴート人が競うように並び
新しい川床を掘り起こして 川の流れを変えてしまった。

からからに水の干上がった 古い川床に大きな穴を開け
王の亡骸を馬にまたがらせ 甲冑をつけてそこに埋めた。

亡骸と見事な宝を納めると ふたたびそれを土で覆った、
英雄が眠るこの墓の上から 植物が大きく育つようにと。

そうして今一度川の流れを もとの流れの通りに戻すと
ブゼント川は本来の川床で また力強く泡を立て始めた。

そして男たちの合唱が響く 「眠れ、英雄の誉れの中で。
ローマ人の卑しい強欲とて 汝の墓を暴くには至るまい」

王を称える男たちの歌声は ゴート人の列一面に響いた。
願わくは、ブゼントの波よ、この声を運べ、海から海へ!

 *

もし気が向いたら、前回挙げたカッジャーノの「ブゼント川の墓」の標題も訳してみようと思います。


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