メーリケ「捨てられた娘」(ドイツ詩100選を訳してみる 3)
前回は語りすぎてしまったが、今回はあくまで詩の翻訳メインで、ちょっとだけコメントをつけるくらいにしてみようと思う。
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メーリケという詩人の名前は知っていたけれど、それほど有名人だとは思っていなかったし、作品を読んだこともなかった。
けれど、統計的に選ばれたというドイツ詩100選の中に、メーリケの詩はなんと8編も収録されている。ゲーテの13編に次いで2位だ。
エドゥアルト・メーリケ(1804-1875)。文学史的にはロマン主義の後の時代で、ビーダーマイアー (Biedermeier) と呼ばれたりする。調べたらゲーテ以降の最大の抒情詩人という評も出てくる。ヘルマン・ヘッセが絶賛したらしい。
今日の詩「捨てられた娘」は1829年に書かれ、1832年の小説『画家ノルテン』(Maler Nolten) に登場する詩として発表された。(ゲーテの『ヴィルヘルム・マイスター』をはじめとして、このころのドイツの小説にはよく詩が挿入される。)
(手塚富雄訳を参考にした。)
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この詩には、シューマンが1847年に曲をつけている(Op.64-2)が、フーゴー・ヴォルフ(1860-1903)の1888年の歌曲の方が人気のようだ。
ヴォルフというひとの作品も、たぶんいくつか聞いてみたことはある、というくらいだったが、この曲は一度聞いて好きになってしまった。ちょっと異様な緊張感の中に、少女の無邪気さを感じさせる部分もある。
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小説『画家ノルテン』はAmazon.deで見ても一つもレビューがついていなかった。日本には手塚富雄の訳があり、筑摩書房の世界文学大系第79巻(メーリケとゴットフリート・ケラーといういかにも売れなさそうな巻)に収められている。
ぱらぱらとめくってみると、プルーストのようなちょっと退屈で上品な美しさの気配がして、メーリケは好きになれそうな気がした。思っていたよりずっと長い小説だったから全部読み通せるかというのは別の話になってくるけれど、年末の帰省のお伴にするのもいいかもしれない。
こういうものを読むのはすごく贅沢な時間だと思う。そういう贅沢を自分に許してあげてもきっといいはず。
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