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【ぼくの思い出#03】ぼくとベトナム、日本とバオ君3

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ぼくが高校2年生のとき、クラスにベトナムからの留学生がやってきた。

名前はバオ君といった。

バオ君はぼくに色んなものを残していってくれた。これはそんな思い出話#03だ。これまでの話を読んでいなくても分かるように書いてあるので、まぁ気軽に読んでいって欲しい。


ー 3 ー

バオ君はものの数ヶ月で日本語力をメキメキと上げていった。夏休み前には日常会話はほとんどオーケーだったし、ちょっと難しい熟語を会話に入れてもなんとなく意味を理解してくれるようになっていた。

ただ、この熟語というのがなかなか厄介なようで、日本語には似たような意味の熟語(類義語)がやたらとたくさんある。それを一つ一つ覚えていくのは大変そうだった。

たとえば、バオ君はこういう風にぼくを誘ってくれる時があった。

「ぢぇぃ、ぼくと先週遊ぼう!」

え?⚫︎週?うーんと…⚫︎週じゃなくて?みたいなね。

こういう間違いは漢字の意味から熟語を理解しようとすると起きるらしい。つまり、「先」という漢字は「前方⚫︎ ⚫︎という意味を持つ」という理解から入ると、「先週」がこの⚫︎の週という解釈になるようである。
これを聞いた時に、ぼくは妙な納得と驚きを感じたのを覚えている。そして漢字辞典で「先」を調べてみると、この字は「未来も過去も両方を指す」ということを知ってさらに驚いた。
だって、そんなこと考えたこともなかったからね。

勉強家のバオ君はことあるごとに「これ、なに読む?(これはなんて読む?)」とぼくやクラスメイトに聞きまくり、そして覚えた言葉をすぐに使うことで語彙力を半端ない勢いで高めていった。

そんなある日のことだ。
その日もバオ君は、ぼくにトイレの標識を指して「これ、なに読む?」と聞いてきた。そこには「男子便所」と書いてあったのだが、ちょうどそのとき居合わせた男仲間数人とぼくは、何を思ったか面白半分でバオ君にウソの読み方を教えたのだった。

そしてこれが後に大変な事態を招くことになる。

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それはたしか数学の授業だった気がする。
気難しい数学の先生が何やら謎の暗号を黒板に書いている。カツカツいうチョークの音、ちょうど良い周波数の先生の声。まぁ正直に言うと、ぼくは最高に眠かった。

授業を熱心に聞いているのは、一部の生徒とバオ君くらいのようだ。ぼくはなんとか意識を現世に保ちつつ、ただぼんやりと数式を眺めていた。そんな授業も終盤に差し掛かった頃だ。本当にふとした拍子のことだった。
バオ君がおもむろに立ち上がり、先生に向かって手を挙げながらこう訴えたのだ。

「先生!私はエンジョコウサイ行きます!」

ヤベェ…これは明らかにヤベェぞ。。
ぼくの心の中でエマージェンシー警報がウヮンウヮン鳴り響く。そう。もちろんバオ君は援助交際に行きたいはずもなく、これはつまり「男子便所」と言っているのだが、バカがアホなことを教えたのでこうなってしまったのだ。
完全にやらかした瞬間だった。

ぼくをはじめとした男数名は、このあと先生にアホほど怒られ、バオ君にはウソを教えてごめんなさいとみんなで謝った。

バオ君はそんなバカなぼくらを笑顔ですぐに許してれた。
むしろ先生に対してそんなに怒らないでくれと、ぼくたちを擁護することを言ってくれたほどだ。そして反省しまくるぼくらに、彼は屈託のない笑顔をむけてこう聞くのだった。

「ところで援助交際って何?」と。


【ぼくの思い出#04】へ続く。


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