「噛み砕くこと」と「トーンを合わせること」

英語のリーディングを指導している。

TOEFL100点を目指している人から、IELTS5.0くらいの人まで対象のレベルは様々だ。壁にぶつかるポイントも違うので、「どうすればこの人にとってベストか」を考えながら試行錯誤をずっと繰り返している。

一般的にはリーディング力(読解力)は、「① 語彙力」と「② 精読力(文法力)」2つで成り立っていると考えられているらしい。

知っている語彙が多ければ内容がわからなくてもイメージがしやすいし、精読(文章構造を正しく理解すること)ができれば日本語として変換することができるからだ。

しかし、実際に指導をしていると、この2つの要素だけだとどうしても説明がつかない時がある。

そこで、実は他にも読解力を構成する隠れた因子があるのではないかと思ったのでここにメモとして残しておこうと思う。

噛み砕く力

まず、1つが「噛み砕く力」。書いてある内容を自分の知識と紐づける力で、 “咀嚼力” と考えてもいいと思う。

語彙力・文法力が高いけれども読解のスコアが伸びない人に多い特徴が、日本語には訳すことができるが、その内容を自分にわかる言葉として理解しきれていないということだ。

書いてある内容に関して「腑に落ちていない」のである。

結局、日本語っぽい言葉に置き換えたところで、その内容を頭の中でイメージできなければ、それは理解できていないことと同じようなものだと思う。

“何となく” わかった気がする情報は、イメージが曖昧すぎて記憶として頭に残らない。

その結果、リーディングで何度も同じ文章を繰り返し読んだり、学習を繰り返しても自分の糧にならないということが起きるのではないかと思う。

例えば、モザイクのかかった写真をイメージしてみるとわかりやすいかもしれない。モザイクのかかった情報は、思い出すためのキーポイントがないのですぐに忘れてしまう。 一方で、高画質のクリアな写真であれば、どんな写真だったかを思い出して描写することは比較的簡単になると思う。

「噛み砕く力」とは、そんな脳内にインプットされた情報のモザイク処理をして、クリアなイメージとして変換していく作業のことかもしれない。

昔、読んだ本で「自分の言葉で説明できない状態は、何も考えていないことと同じである」というような内容を読んだことを思い出した。(ロジカルシンキング関係の書籍だったと思います)

わかったつもりで何もわかっていないという状態で勉強を行っている可能性がある。だから、いくら勉強してもスコアが伸びないという現象が起きるのかもしれない、と思いました。

トーンを合わせる力

もう一つは「単語のトーンを合わせる力」。文脈に合わせて、その単語が持つ意味を合わせていくということが苦手な人が多い印象です。

最初の「噛み砕く力」と被っている部分も多いと思いますが、言語試験において重要な要素だと思ったのであえて2つ目として書いておきます。

精読ができているのにスコアが伸びない人をみていると、英語を訳すときに “和英辞書に載っている最初の意味だけ” を元に無理やり訳しているなぁと思うことがある。

淡い色合いの中に、一つだけ蛍光色が混じっている。又は、色それぞれがマッチしていないで配色されている感じ。

言葉とは “流れ” で、つまり文脈によってその意味や捉え方は変化する。

この文脈を無視して、単語だけを和訳していると、最初に挙げた「腑に落ちない」状態のまま読み進めてしまい、何となく文章内容をイメージしているのではないかと感じた。

我々が文章を読解するときに、感覚的に「つまり、こんなことを言っているんだろうな…」と、自分にイメージしやすい情報を頭の中に思い描いてしまう。

それが確証バイアスになり、自分の都合の良い情報として文章に書かれている内容を書き換えてしまっているのではないか。

頭の中で作った「自分にとって都合の良いイメージ」と「実際に書かれている情報」の間の乖離が大きいほど、内容理解が疎かになりスコアが伸びない。(逆にイメージと一致する場合があるので、トピックと相性によってはスコアが高くなり、スコアが安定しない)

偉そうなことを書いているが、私は元々リーディングがとても苦手である。大学時代あたりは難しい語彙をあまり知らなかった。

例えば "arbitrary"という単語。辞書では「任意(の)」という意味で紹介されている。

大学時代に辞書のままに内容を覚えていて、うまく理解ができない時期が何年も続いた。海外で働いている時に同僚が "arbitrary" と使うと、日本語にしてもどうしても意味が理解できないこともあった。

こうゆう時は、日本語の意味に引っ張られると良いことがない。類義表現などからイメージを掴んでいくと良い。

本当は "random" に近い「てきとう」「でたらめ」という意味で使われることが多い単語であることが分かってからは、妙にスッキリして苦手意識がなくなったのだ。

自分の理解の中で浮いていた "arbitrary" のトーンが、周りの文脈にマッチして理解できたのである。

シンプルな文章にパラフレーズする

これら2つの力を同時に伸ばす方法として、今のところ「シンプルな文章に書き換える」作業が一番効果的なのではないかと思っている。パラフレーズするのだ。

難しい文章があったら、その文章を「異なる語彙」又は「異なる文法」を用いて再構築する。

そうするためには、内容を正しく理解していないといけないし、適切な類義語(表現)で情報を置き換えなくてはいけない。

この「シンプルな表現に置き換える」というプロセスは、どの言語においても難しい言葉を理解するために求められるプロセスだと思う。

「パパ、自画自賛って何?」と子どもに聞かれたら「それは、自分で自分を褒めるってことだよ」と、できる限り簡単な表現に置き換えて説明する。

そうやって、徐々に難しい表現の意味を自分の理解できるフォーマットに落とし込んでいく。

言語テストも同じプロセスで作られていて、受験生が内容を正しく理解できているかどうかを本文と異なる表現を用いて問題文に載せる。(この場合シンプルとは逆に意図的に難しい表現に置き換える)

このように書き換える(パラフレーズする)ことに慣れていくことで、単語や表現に対するイメージがより柔軟になり、自分が納得できる状態でインプットすることができるのではと思っている。

これは要約と少し違っていて、情報をまとめるのではなくあくまで「書き換える」だけである。

要約して情報をまとめるという作業は、まとめた内容が正しいかどうかを判断することが難しい。

誰かフィードバックをくれればいいが、一人では難しい点。内容が抽象的であればあるほど、様々な解釈ができるのでフィードバックがしにくい点を考えると、独学で再現性を確保することが難しいだろう。

もう一つ効果的な学習方法について、「指導者の視座に立つ」ことも考えられる。

学習した内容を自分の中で消化するだけではなく、それを誰かに教えるためにインプットしていることをイメージすると、単に情報を処理するよりも精度が高くなりやすい。

自分よりも英語ができない他人(又は過去の自分)を想像して、「仮にこの人に教えるなら、こんな風に説明できるな」と自分なりに情報を咀嚼して、より伝わりやすい情報に変換してから再度アウトプットする。

指導者の立場から情報をみると、いままで見過ごしていた情報に関して「この部分を質問されたらマズイな…」と自分が苦手な部分が見えてくる。苦手部分を改善していく過程で、自然と基礎の英語力が伸びていくと考えています。

上記はまだ仮説の段階なのですが、個人的には結構しっくりくるのでメモとしてまとめておきます。

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