#75 住宅ローンと担保とか-②

昨日のブログ(リンクはこちら)の続きです。

昨日は,住宅ローンで土地や建物の購入代金を用意すると,購入した土地や建物に「抵当権」という担保が設定されるということを説明しました。

住宅ローンは,お金を借りることではあるのですが,借りたお金は,借主の手元には入ることなく,土地や建物の売主に直接支払われることも説明しました。

この直接支払いというものは,銀行が,購入された土地や建物に確実に抵当権を設定するための方策であることも説明しました。

今日は,まず,もう少し「抵当権」について説明しますね。

「抵当権」は,返済できなくなったら土地や建物を売却して,その売却代金を返済にあてることができるというものだと説明しました。

ここについて,3つ補足説明があります。

1つめは,抵当権は,全額返済するまで消えないということです。

これはつまり,一部は住宅ローンを返済していたとしても,土地や建物の全部を売却できるということです。

仮に,住宅ローンを半額返済していたとしても,売却できるのは土地や建物の「半分」とはならないんですね。

例えば,土地建物あわせて3000万円の購入代金全額を住宅ローンで工面した場合に,頑張って1500万円返済したとしても,そこで返済が滞った場合は,3000万円の土地建物全部が売却され,その売却代金を返済に充てられてしまうというわけです。その土地建物に住んでいる買主=住宅ローン借主としては,せっかく半分も返済したのに,土地建物の全部が売られてしまうということですね。

これとセットで知っておかなければいけないのが「期限の利益喪失約款」というものです。

これが2つめです。

あ!難しい言葉で拒絶反応しませんでしたか?

「期限の利益喪失約款」とは,難しそうな漢字が並んでいるだけで,内容は全然難しくありません。説明しますね。

住宅ローンって,当たり前ですが,分割払いで返済しますよね?

そもそも,お金を借りた場合って,一括で返済する方法と分割払いで返済する方法の2つがありますよね。

一括で返済するというのは,簡単な話ですが,ある期限までに,元金と利息を1回で全額支払うということです。返済が1回しかないということです。

これに対して,分割払いは,そうじゃなくて,返済が何度もあるものです。

住宅ローンの場合は,だいたい,毎月1回,20年とか30年にわたって払いますよね。だから,返済が何度もあるので,「分割払い」です。

なんか,とても当たり前の話をしていますが,よくよく考えてみると,分割払いって,銀行から見れば,「本当はもっとたくさんお金を請求したいのに請求できない!」というもので,逆に借主から見たら,「本当はもっと大きな金額を借りているのに,少ししか返済しなくていい!」,というものにも見えます。こんな見方もできるわけです。

例えば,3000万円の住宅ローンを,毎月5万円ずつ返済するという住宅ローンを考えてみましょう。この場合,銀行は,すぐにでも3000万円全額を返してほしいわけです。本音を言えば。でも,毎月5万円ずつしか請求できないんですね。なぜなら,住宅ローンの契約で,毎月5万円ずつという分割払いの約束をしているからです。逆に,借主の方から見たら,3000万円というめちゃくちゃ高額の借金をしてはいるのですが,毎月5万円ずつしか銀行から請求されないので,安心していいわけです。なぜなら,毎月5万円ずつの分割払いであると,住宅ローンの契約書に書いてあるからです。

ここで書いた「安心」というのが「期限の利益」というやつです。毎月毎月,住宅ローンの契約書で決められた金額を返済していれば,それ以上の金額を銀行から請求されることはない。この安心感(もちろん,これは契約書で決められているので,法的な根拠があります。)が,「期限の利益」です。

じゃあ,「期限の利益喪失約款」とは何でしょうか。

「期限の利益」が「喪失」と書かれていますよね。

つまり,↑の安心感が「喪失」するということです。安心感がなくなる=毎月毎月返済していればよかったという安心感がなくなるということですから,どうなるでしょうか?

なんと,一括返済になります。

そうなんです。「期限の利益」が「喪失」すると,残っている住宅ローン全部を一括返済しなければならなくなるんですね。

どういう場合に「期限の利益」が「喪失」するかは,各住宅ローン契約で違うっちゃ違うのですが,一番注目するべきは,滞納ですね。返済が遅れると,「期限の利益」が「喪失」すると書かれている住宅ローンがほとんどです。

たった1度の滞納で期限の利益が喪失すると書いてあるものもありますが,2度や3度で喪失するものが多いかもしれません。

なお,「約款」というのは,「約束事」という意味です。

銀行は,いろんな人と住宅ローンの契約を結んでいますから,いちいちオーダーメイドで契約の条項を作成していたら手間がかかりますよね。そこで,どの住宅ローンにも適用される,定型的な契約条項を作っておくのです。これが「約款」です。

別に約款は,住宅ローンに限らず,鉄道や保険にもあります。たくさんの人と毎日いくつも取引するというビジネスであれば,いちいち契約書なんて作れませんから,「約款」を作っておいて,全部それを適用させるわけです。

で,この「期限の利益喪失約款」がどういう意味を持つかと言うと,住宅ローンというのは,毎月毎月,少額ずつしか銀行は請求できないわけですね,本来は。「期限の利益」があるからです。借主も,「期限の利益」という安心感があって,毎月毎月少額ずつ返していればよいわけです。

これって,担保を売却して,それを返済に充てるという場合にも大事なことなんです。

あのー,当たり前ですが,まだ返済期限が到来していない借金の返済に担保をあてることはできないわけです。だって,返済期限が到来していないということは,まだ返済しなくていいからです。

例えば,3月31日を返済期限として100万円を貸し付け,担保として壺を預かった場合,返済期限前の3月20日に,預かった壺を売ることはできないわけです。だって,3月20日時点では,まだ返済しなくていいからです。返済できない場合に担保の出番が出てくるわけですから,返済できないかどうかまだわからない,返済期限前の時点では,担保に手を出すことはできない。

もう少し進んで,100万円を貸し付けたんだけれども,返済期限を,3月10日に40万円,3月31日60万円としたとしましょう。3月20日時点で,借主が40万円を返さない場合,担保に預かっていた壺を売ることはできます。で,ちょうど100万円で壺が売れたとしましょう。でも,壺の売却代金から返済に充てられるのは,40万円だけなんですね。だって,残りの60万円は,まだ返済しなくていいからです。60万円は,3月31日までに返済すればいいわけだから,3月20日時点で返済しなければならないわけではないので,貸主が返済期限の過ぎた40万円と一緒に60万円も手に入れることはできないのです。

これって,住宅ローンの場合も同じで,さっきの「期限の利益」があるというのは,毎月毎月返済期限がやってくるということなんですね。

毎月毎月,少額ずつの返済期限がやってきて,銀行は,それだけしか請求できない。例えば,1か月分の滞納があったので,担保(抵当権)にとっていた土地や建物を売却したとしても,返済期限が到来しているのは1か月分のみなら,1か月分しか銀行は手に入れられない。だって,残りは返済期限がまだ先だから,銀行に返さなくていいからです。返さなくていい分についても,銀行が手に入れることはできない。

期限の利益喪失約款がないと,こうなっちゃうんですね。銀行として,非常に困ってしまう。

住宅ローンなんて,何十年にもわたって返済するわけですから,返済期限が何年も先になるのなんて,ザラです。そういった,ずーっと先に返済期限が到来する分について,担保を売却したお金を返済に充てられないのは,非常に困る。

だから,「期限の利益喪失約款」があるんです。

「期限の利益喪失約款」があると,1か月とか2か月の滞納によって,残り全部が一括返済になる=残り全部の返済期限が到来したことになるのです。

その結果,担保(抵当権)にしておいた,土地や建物を売却した場合に,その売却代金を,本来はまだまだ返済期限がこない分も含め,貸した金額全部(もちろん,利息も含めます)の返済に充てられるというわけです。

そして3つめが「担保不動産競売」というやつですね。

また難しい言葉ですが,これはそんなに難しくありません。

あの,また当たり前の話ですが,土地や建物を売るって,そんなに簡単じゃありません。

実印と印鑑登録証明書が必要です。

ちょっと説明すると,土地や建物を「売る」って,そもそもどういうことかというと,

不動産登記上の持ち主が変わるということです。

例えば,「古田博大」が「稲葉浩志」に「東京都港区青山1丁目1番地」の土地を「売る」場合を考えてみましょう。

この場合,「東京都港区青山1丁目1番地」の土地の登記の持ち主欄=甲区に,「古田博大」と書かれているんですね。で,これを「売る」ということは,「古田博大」という甲区の記載が「稲葉浩志」に変更されるということです。そうすると,新たに「稲葉浩志」が「東京都港区青山1丁目1番地」の土地の持ち主として,不動産登記に登録されることになります。

これが「売る」ということです。

みんな,これ(=不動産登記の甲区の記載を自分に変更すること)をやりたいんですね。

「土地がほしい!」,「建物がほしい!」というのは,「甲区の名前を自分にしたい!」という欲求と同義です。

この「甲区の記載を変更すること」が一般的に「名義変更」と呼ばれています。

で,じゃあ,どうやったら「甲区の記載を変更すること」=「名義変更」ができるかというと,実印と印鑑登録証明書がいるんですね。↑の例だと,「古田博大」の実印と印鑑登録証明書が必要。

(補足ですが,「実印」というのは,「印鑑登録された印鑑」という意味です。「印鑑登録された印鑑」を一般的に「実印」と呼んでいます。だから,どれだけ立派な印鑑でも印鑑登録されていなければ実印じゃないし,逆に,100均の印鑑でも,印鑑登録すれば実印になります。)

なぜかって,現在の持ち主である「古田博大」が売ることを承諾しているかどうかを確かめる必要があるんです。持ち主が売ることを間違いなく承諾しているかどうかを確かめないと,名義変更はできない。当たり前ですよね(笑)

土地や建物の名義を管理している法務局が,「間違いなく持ち主が売ることを承諾している」かどうかを確かめる方法として,①持ち主が実印を押した承諾書(「譲渡証書」と呼ばれています。)と,②押されている印鑑が実印かどうか確かめるために印鑑登録証明書,の2つを提出するよう求めているため,実印と印鑑登録証明書がないと「売れない」ということになり,逆に,実印と印鑑登録証明書があれば「売れる」ということになります。

印鑑登録証明書は,印鑑登録した本人にしか役場は発行してくれませんので,印鑑登録証明書があるということは,持ち主本人が承諾しているということを,法務局としても認めることができるわけなので,印鑑登録証明書の提出が要求されるというわけです。

いろいろとゴタクを並べましたが,結局,持ち主本人が承諾しない限り,土地や建物は売れません。なぜなら,土地や建物を売る=名義変更する場合に,法務局が,持ち主本人が実印を押した書面と印鑑登録証明書の提出を求めていて,印鑑登録証明書は持ち主本人しか発行されないからです。

でも,「抵当権」があると,そうじゃないんですね。

やっと,話が戻ってきました。「担保不動産競売」です。

前回のブログから,担保について,「担保は,返済できなくなったら,それを売却して返済に充てます」と説明してきました。

でも,↑に書いたとおり,土地や建物って,持ち主本人が承諾しないと売れません=名義変更できません。実印と印鑑登録証明書が必要だからです。

持ち主本人が実印と印鑑登録証明書の提出を渋ったら,売ろうにも売れませんよね。名義変更できないからです。名義変更できない土地や建物を,誰も買おうと思いませんよね。だって,お金払っても,自分の名義にならないんだから,自分の名義にならないうちに,また誰かに売られちゃうかもしれません(そしてなんと,後から売った場合であっても,その後の買い手が先に名義を変更しちゃうと,先に買った人は,法律上,自分の財産であると主張できなくなるのです。だから,土地や建物を買うときは,必ず名義を変更しなければならないんです。後で誰かに売られちゃうと,負けちゃうからです。)。そんなもの,誰も買おうと思わない。

そうすると,「売ったお金を返済に充てる」という担保(抵当権)の目的が果たせませんよね。

だから,持ち主本人の意向にかかわらず,無理矢理売っちゃうという制度が必要になってくるわけです。

それが「担保不動産競売」です。

これは,持ち主本人の意向にかかわらず,抵当権をつけた土地や建物を売れちゃうんです。

「競売」という形で売ります。これは,裁判所が売りにかけるんです。

土地や建物を,裁判所の手続きで無理矢理売っちゃって,売れたら,当たり前ですが,買った人の名義に変わります。

もちろん,持ち主本人の実印と印鑑登録証明書は不要です。

売れたら,そのお金は,まず抵当権をもっている銀行が,返済に充てます。ほとんどの場合,さっき説明した「期限の利益喪失」によって,全額一括返済になっているでしょうから,その金額分,銀行が優先して持っていきます。余ることはあまりないでしょうが,余ったら,持ち主本人に返します。

で,当然ですが,土地や建物が売られてしまい,名義が変わってしまうと,いくらそれまで持ち主であったとしても,現在は持ち主ではないわけですから,法的にその建物に住む権利はありません。

その後も居座り続けると,新しい持ち主が「明渡訴訟」という裁判を提起してきて,土地や建物を明け渡すよう命じる判決が出ます。それでもなお居座り続けると,その判決に基づいて,新しい持ち主が強制執行を申し立てます。そうすると,そのうち家に執行官がやって,強制執行の日を伝えます。それでもなお居座り続けると,予告した強制執行の日に,執行官が引っ越し屋と鍵屋を連れてきて,中の荷物を全部外に出して,鍵を変えます。

そのため,最終的には,出ていくことになるわけです。

かなり長くなりましたが,結局,住宅ローンでお金を用意して土地や建物を買った場合,どうなるかというと,

①借りたお金はすべて土地や建物になって,手元には入ってこない。

②その土地や建物には抵当権がつけられていて,全額返済するまで抵当権は消えない

③「抵当権」とは担保のことで,返済できなくなったら,土地や建物を売却し,その売却代金を返済に充てることができる

④返済を滞納すると,「期限の利益喪失約款」によって,返済できなくなったら住宅ローンの残額を一括返済しなければならなくなる

⑤残額の一括返済なんて到底無理だから,土地や建物が売却され,その売却代金から,住宅ローン残額分を,銀行が優先して持っていく

⑥建物に住んでいるわけだから,土地や建物を売りたくない気持ちもわかるけれど,抵当権がついていたら,持ち主本人の実印と印鑑登録証明書がなくても,土地や建物を裁判所の手続きで無理矢理売りに出すことができる。

⑦そうやって土地や建物を売られちゃうと,建物に住む権利がなくなるので,どれだけ居座り続けても,最終的には,荷物ごと外に出されて鍵まで変えられちゃう。

僕は,住宅ローンを,こういう風に見ています。

今日はこのへんで時間切れですね(^_^;)

それではまた明日。

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