#89 農地と相続ー②

昨日のブログ(こちら)の続きです。

昨日のブログでは,まず,不動産登記の「地目」についてお話しました。

その地目のうち,田んぼや畑は「農地」とされ,農地法の適用を受けます。

その結果,農業委員会の許可がないと土地の名義変更ができないということを説明しました。

そして,どういう場合に許可が出るかというと,農地の買主=新たな持ち主が農家ならば,許可が出るということでした。

とはいえ,農地の持ち主が亡くなった後,相続人(亡くなった持ち主の配偶者や子)が農家とは限らないので,この場合も名義変更ができないと困りますから,「遺産の分割」なら農業委員会の許可なく名義変更できると農地法に書いてあるということでした。

で,今日は農業委員会の許可なく農地の名義変更ができる「遺産の分割」とはなんぞやというのが本題です。

これには,相続の知識が必要になってきます。

相続については,既に結構詳しい記事を書いているので(),そちらも参照していただきたいのですが,ここでも少し説明します。

相続って,いろいろ段階を踏んで考えなきゃいけないんですが,ここで大事なのは,遺言があるかどうかです。

相続には,遺言がある相続と遺言がない相続があります。当たり前ですが,亡くなるまでの間に遺言を残している人もいれば,遺言を残さず亡くなる方もいます。

で,「相続」ってなんか漠然とわかったようなわからないようなワードなんですが,結局,遺産をどう分けるかの問題なんですね,「相続」というのは。

生きていれば,何かしら財産が必要なわけです。現代社会においては,生きるだけでお金が必要になってくる。だから,死ぬ最後の最後まで,どうしても財産を持っておかなきゃいけないわけです。だから,亡くなった方は,多かれ少なかれ財産を持っている。その財産を,生きている人でどう分けるかを決めるのが「相続」というワードの持つ意味なんです。

そうすると,遺産をどう分けるかどうかを決めるのが相続ということになるので,その分け方というのが,遺言があるかどうかで変わってくるんですね。だから,遺言があるかどうかが1つの分岐点になるわけです。

遺言がない場合は,「遺産分割」というのをやります。

「遺産分割」というのは,↑のリンク先の記事で散々説明していますので,詳しくはそっちを見ていただきたいのですが,ここでも軽く触れます。

「遺産分割」というのは,「相続人」で遺産の分け方を決める手続きです。「相続人」というのは,亡くなった人の配偶者や子供です。その相続人で遺産の分け方を決めるんですが,最初は話し合いをするんですね。遺産をどう分けるかを決めるために相続人で話し合うことを「遺産分割協議」と呼びます。話し合いだから「協議」を「遺産分割」の語尾にくっつける。

そして,話し合い(遺産分割協議)がうまくいかないと,次は裁判所で話し合いをします。これが「遺産分割調停」です。調停では調停委員が当事者の間に入って,双方の言い分を聞いて話し合いをまとめようとします。ただ,これでもうまくいかないこともありますので,その場合は,「遺産分割審判」という手続きに入ります。これは,裁判所が「えいやっ!」と分け方を決める手続きです。こうやって,最終的には裁判所が,どの相続人にどの遺産をどれくらい分け与えるかを決めてくれます(あの,言うまでもありませんが,当然,弁護士が代理人となったら,裁判所任せなんてせずに,なるべく取り分が多くなるように主張を尽くします。)。

これが,遺言がない場合に,遺産をどう分けるか決める「遺産分割」という手続きです。

じゃあ,遺言がある場合はどうなるか。

ここがちょっと複雑なんですが,遺言は2種類に分かれるんですね。

「相続させる旨の遺言」と「遺贈」に分かれます。順番に説明します。

まず「相続させる旨の遺言」というのは,例えば,「遺言者明石家さんまは,長女IMARUに,東京都港区1丁目所在(地番:1番,地目:宅地,地積:300㎡)の土地を相続させる」という遺言です。

なんか字面だけ見たら,「何にも不思議なところはない,というか,遺言でこんなもんでしょ?」くらいにしか思われないかも知れませんが(僕自身もそうでした),「相続させる旨の遺言」の大事なところは,遺産を分け与える相手が,相続人じゃなきゃいけないんです。

だから,「遺言者明石家さんまは,古田博大に,現金100万円を相続させる」とは書けないんです。古田博大は明石家さんまの相続人とはなれないので,「相続させる旨の遺言」によって財産を分け与えることはできません。

じゃあ,相続人になりえない人に財産を遺言で分け与えたいと思ったらどうするかというと,「遺贈(いぞう)」というのを使います。

↑の例だと,「遺言者明石家さんまは,古田博大に,現金100万円を遺贈する」という遺言を残すことになります。これはできるんですね。相続人じゃない人には遺産を「遺贈」する。

(正確に言うと,相続人にも「遺贈」することはできます。ただ,相続人に「遺贈」を使うことはありません。なぜなら,「遺贈」よりも「相続させる旨の遺言」のほうがメリットが多く(というか,「遺贈」を選択した場合のデメリットが大きすぎる),「遺贈」を選ぶ理由がないからです。)

で,「遺贈」というのも2種類に分かれるんです。

ややこしくなってきましたねぇ。最後にまとめますから,もう少しお付き合いくださいね。

2種類というのは,「特定遺贈」と「包括遺贈」です。それぞれ説明します。

まずは,「特定遺贈」です。これは,遺贈する財産を特定するんですね。さっきの「遺言者明石家さんまは,古田博大に,現金100万円を遺贈する」というのは,「特定遺贈」です。遺贈する財産を「現金100万円」と特定しているので,特定遺贈になるということです。

土地を特定遺贈する場合もそうです。例えば,「遺言者明石家さんまは,古田博大に,東京都港区青山1丁目所在(地番:1番,地目:宅地,地積:300㎡)を遺贈する」という風になります。

で,次が「包括遺贈」です。これは,遺贈する財産を特定しないんです。「財産を特定しないで遺贈するなんてどういうこと?」と思われるかもしれませんが,例えば,「遺言者明石家さんまは,古田博大に,遺言者の有する一切の財産を遺贈する」というのがあります。これは,明石家さんまの財産全てを僕にあげるという内容ですが,これは,財産を特定していませんよね。こういうのが「包括遺贈」です。全部じゃなくても,「遺言者明石家さんまは,古田博大に,遺言者の有する一切の財産のうち2分の1を遺贈する」のように,「2分の1」と割合的に遺贈するのも「包括遺贈」に該当します。

これでやっと,全てのワードが出揃いました。

・遺産分割

・相続させる旨の遺言

・特定遺贈

・包括遺贈

これらのワードを理解した上で,農地の名義変更に農業委員会許可が不要となる「遺産の分割」とは何なのかを見ていきましょう。

まず,「遺産分割」は,農地法に書かれている「遺産の分割」に含まれます。そりゃそうです。

ここからが少しややこしくなります。

まず,「相続させる旨の遺言」ですが,これが「遺産の分割」に含まれるかというと,結論から先に言えば,含まれるんですね。「おいおい,『遺産の分割』に遺言が含まれるなんてどういうことだよ!」と思われるでしょうから,その理由を説明しますね。

そもそも,「相続させる旨の遺言」が残された場合,どんなことが起きるのでしょうか。

↑の例で,「遺言者明石家さんまは,長女IMARUに,東京都港区青山1丁目所在(地番:1番,地目:宅地,地積:300㎡)の土地を相続させる」という遺言を残して亡くなってしまったら,どうなるんでしょうか。

この場合,IMARUは,この土地の名義を自分に変更することができます。まあ,そりゃそうですよね。相続させられたんだから,自分の名義にできなきゃ困っちゃいます。ただ,もう少し突っ込んで説明すると,「相続させる旨の遺言」の性質というのが関係してくるんですね。

「相続させる旨の遺言」の対象となった財産,↑の例でいえば,明石家さんま所有の青山の土地ですが,これは,「相続させる旨の遺言」が残されたことによって,「長女IMARUがもらうという内容で遺産分割が完了した」ということになります。よく,「相続させる旨の遺言は遺産分割方法の指定」と言われることがありますが,これは,つまり,↑の例でいえば,青山の土地については,長女IMARUがもらうという遺産分割がなされたことにしちゃうということです。

先ほど説明したように,遺産分割というのは,遺言がない場合に遺産の分け方を決めるものでした。まずは話し合って,それでもダメなら裁判所で話し合って(調停),それでもダメなら裁判所に決めてもらう(審判),それが「遺産分割」でした。

「相続させる旨の遺言」というのは,こういった遺産分割本来の手続きをすっ飛ばして,「IMARUが青山の土地をもらう」という遺産分割を成立させたことにしてしまう効果があります。だから,「遺産分割方法の指定」と言われるわけです。亡くなった遺産の持ち主が,遺産分割の方法=遺産の分け方を指定しているなら,それに従おうよ=遺産の持ち主が指定した分け方のとおりに遺産分割が成立したことにしちゃおうよ,ということですね。

とすると,「相続させる旨の遺言」は,「遺産分割が成立したことにしちゃおうよ」ということですから,結局は,「遺産分割」と同じことになります。遺産の分け方を,持ち主が亡くなった後に相続人で決めるのが「遺産分割」で,亡くなった持ち主があらかじめ決めておくのが「相続させる旨の遺言」なんですが,結局「遺産分割が成立する」のはどちらも同じなんです。

こう考えると,農地法に書かれている「遺産の分割」には,「相続させる旨の遺言」も含まれることになります。その結果,「相続させる旨の遺言」の対象となった農地を名義変更する場合は,農業委員会の許可は不要となります。

次は,遺贈ですね。

そもそも,「遺産分割」というのは,「相続人で遺産の分け方を決める」ものでした。つまり,相続人(亡くなった人の配偶者や子)以外は,遺産分割に関与することはできません。とすると,

「遺贈」は,「相続人以外に遺産を分け与える」ものでしたから,遺贈は「遺産分割」に含まれないはずです。

そうなんですが,「包括遺贈」だと事情が違ってくるんですね。だから,↑の話は特定遺贈のみに当てはまります。

「包括遺贈」だと,包括遺贈を受けた人,例えば,「遺言者明石家さんまは,古田博大に,遺言者の有する一切の財産のうち2分の1を遺贈する」という遺言があった場合の古田博大のことですが,この人は,相続人と同じ立場になるんです。つまり,包括遺贈を受けた場合は,本来相続人じゃないのに,相続人と同じような立場となり,その結果,遺産分割にも関与できるようになります。

財産全部の包括遺贈を受けた場合も,包括遺贈を受けた人が相続人と同じ立場になるのは↑と変わりないので,この場合も相続人が遺産をもらう「遺産分割」と同じなんですね。

だから,結局,特定遺贈は「遺産分割」じゃなくって,包括遺贈は「遺産分割」なんです。

(こう考えると,包括遺贈って,いわば死後に養子を作ったみたいなものです。相続人以外の人物と遺産分割せよと命じているわけですから。生前に養子を作れば,当然,その養子も実子と同じように相続人となりますが,それはやらずに,「包括遺贈」という体裁をとる理由というのは,僕も経験がないし,理解しづらいなぁと思います。養子にはしないけど相続人にはしたいという理由は,どういうものなんだろうなぁ。)

農地法の話でまとめると,結局,特定遺贈だと農地の名義変更に農業委員会の許可が必要で,包括遺贈だと農地の名義変更に農業委員会の許可は不要です。

(ここからはちょっと込み入った話ですが,包括遺贈の名義変更手続きについてです。特定遺贈の場合は,遺贈の対象となった土地を,「○年○月○日(死亡日)遺贈」という登記原因で登記することになりますが,包括遺贈というのはちょっと違うらしいです。まず,全部包括遺贈なら,「○年〇月○日(死亡日)遺贈」だけで足りますが,部分的な包括遺贈の場合は,まず,「○年○月○日(死亡日)遺贈」という登記原因で,包括遺贈を受けた割合分の共有持分を名義変更し,その後に遺産分割が完了したら「○年○月○日(死亡日)相続」という登記原因で残共有持分の名義変更をするらしいです。「らしい」というのは,司法書士事務所のホームページに記載されていたことを書いているだけで,僕の経験談ではないからです。)

結局,「農地を相続で名義変更する」場合に農業委員会による許可が不要となるのは,

・遺産分割

・相続させる旨の遺言

・包括遺贈

で,相続であっても農地の名義変更に農業委員会の許可が必要なのは,

・特定遺贈

です。

ややこしいように見えますが,意外と覚え方は簡単で,「相続なら農地の名義変更に農業委員会の許可は不要」と覚えた上で,「ただ,配偶者や子どもなどの相続人以外の人に,農地だけを限定して相続させることはできない」と覚えておけばいいんです。

あんまり簡単じゃないですかね?笑

ご家族が農地をお持ちであれば,一度その相続について話し合ってみたらいかがでしょうか。

今どきの相続では,農地を誰かに押し付け合ったりしますが,相続なら誰にでも農地を押し付けられるわけではないことに注意してください。

それではまた明日

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