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#428 おもしろい条文を条文を発見しました:保証契約の取消し-3(今日は本題を書いています)

【 自己紹介 】

※いつも読んでくださっている方は【今日のトピック】まで読み飛ばしてください。

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【 今日のトピック:保証契約の取消し 】

今日も昨日と一昨日に引き続き,保証人の話です。

ちょっと脱線が過ぎましたので,今日こそ本題に入ります。

「保証人」は,借金の肩代わりを迫られてしまう立場にある,というところから話は始まります。

借主本人(主債務者)が返済できないときに,代わりに返済する。それが保証人です。

貸主(債権者)に保証人が返済したら,後日,保証人は借主本人(主債務者)に,肩代わりしたぶんを払えと「求償」できますが,借主本人にお金がなかったら「求償」も絵に描いた餅です。

しかも,この「求償」も,借主本人が破産してしまったらチャラにされてしまいます。

借主本人が破産を申し立てて,免責を受ける(借金をチャラにするという決定が出る)と,求償権も消えてなくなります。

こうなるともう,保証人はどうしようもありません。

↑に書いたのは,保証人にお金がある(債権者に保証人が返済した)パターンでしたが,保証人にお金がないパターンもあります。

昨日も書きましたが,保証人が返済を求められるケースって,借主本人が滞納して,「期限の利益」を喪失し,一括で返済を求められている場面です。

一括で返済できない保証人もたくさんいます。

その場合,保証人としては,貸主(債権者)が納得してくれれば分割して払うこともできますが,分割について話し合いがまとまらずに一括で返済せざるを得ず,なおかつお金がなければ,破産するしかありません。

自分は,借りたお金を一銭も使えなかったのに,破産させられてしまう。

保証人には,そんな未来も待ち受けています。

こういった保証人の「踏んだり蹴ったり」に対して,救済の手立てが新しく用意されました。

それが,「保証契約の取消し」です。

保証契約というのは,結んでしまったら最後(署名押印してしまったが最後),後で白紙に戻すことはできません。

ウソをつかれたり強迫されたりして署名押印したら別ですが,そういったケースはかなり稀です。

ウソをつかれたり強迫されたりしたことの立証も難しいですし。

ただ,2017年に民法が改正され,改正後の民法が2020年の4月1日から施行されましたが,その改正後の民法の465条の10に,「保証契約の取消し」について新しく規定が設けられました。

「465条の10」なんてややこしいですが,「枝番」といって,「〇〇条の〇〇」と条文を増やすことはよくあります。改正によって,条文番号がズレてしまうと,全部改正しなければいけなくなるので,その負担を回避するべく,「枝番」をつけて,なるべく改正の範囲を狭めようとしているわけです。

さて,改正後民法の465条の10によると,まず第1項に,↓のように書かれています。

主たる債務者は、事業のために負担する債務を主たる債務とする保証又は主たる債務の範囲に事業のために負担する債務が含まれる根保証の委託をするときは、委託を受ける者に対し、次に掲げる事項に関する情報を提供しなければならない。

一 財産及び収支の状況

二 主たる債務以外に負担している債務の有無並びにその額及び履行状況

三 主たる債務の担保として他に提供し、又は提供しようとするものがあるときは、その旨及びその内容

さて,読みにくいですが,あまり難しくはありません。

「保証契約の取消し」ということを強調してきましたが,第1項に書かれているのは,借主本人(主債務者)の「情報提供義務」です。

つまり,借主本人は,保証を誰かに依頼しようとする際,依頼しようとしている保証人候補者に対して,「情報を提供しなければならない」ということが,書かれています。

で,「情報」とは何かというと,1号から3号に書かれていて,

1号:財産及び収支の状況

2号:主たる債務以外に負担している債務の有無並びにその額及び履行状況

3号:主たる債務の担保として他に提供し,又は提供しようとするものがあるときは,その旨及びその内容

これまた理解しにくいですが,1つずつ説明していきます。

まず1号ですが,これは,借主本人の「財産及び収支の状況」なので,比較的わかりやすいかなぁと思います。

そもそも,↑の「情報提供義務」が課されるのは,借主本人(主債務者)が「事業のために負担する債務」の保証を依頼しようとする場面のみです。

つまり,主債務者が,何かしらの事業を営んでいて,その事業に必要な資金を調達するための借入れや,事業に使っているオフィスの家賃など,事業を進めるうえで負担する債務の保証を依頼しようとする場合に限って,↑の「情報提供義務」が課されます。

それ以外の場合,つまり,主債務者が事業を営んでいなかったり,事業を営んでいたとしても,プライベートな借入金の保証を依頼しようとするケースでは,情報提供義務は課されません。

ちなみに,この「主債務者」は,個人だけでなく,法人(会社など)も含まれます。

繰り返しになりますが,情報提供義務が課されるのは,主債務者が事業を営んでいて,なおかつ,その事業に必要な債務について保証を依頼しようとする場面のみです。

とすると,主債務者は事業を営んでいるわけですから,税務申告のため,財産関係書類を作成しているはずです。

税務申告に必要な財産関係書類には,貸借対照表や損益計算書が含まれます。

貸借対照表は,まさに「財産の状況」を表していますし,損益計算書は「収支の状況」を表しています。

だから,税務申告のために作成している貸借対照表及び損益計算書を見せれば,「財産及び収支の状況」について「情報を提供した」と認められるでしょう。

法人であれば,複式簿記が義務づけられているので,貸借対照表と損益計算書が存在しないなんてことはないでしょうが,青色申告でない(白色申告)の個人事業主だと,貸借対照表と損益計算書を作成していないケースもあると思います。

その場合は,税務申告書を見せれば,「収支の状況」については情報を提供したことになるでしょうが,「財産の状況」については情報を提供したことにならないでしょう。

別途,事業用財産について書面でまとめたりして,保証人候補者に伝えなければ,情報提供義務違反となりかねません。

さて,次は2号です。

2号は,保証人を依頼しようとしている債務(借入れや家賃)の他に負担している債務があるかどうか,あるなら,その額及び履行状況について保証人候補者に知らせなければなりません。

他にも借入れがあるなら,その借入額,残債の額及び滞納の有無について,保証人候補者に知らせなければいけない,ということです。

最後は3号です。

3号は,保証人を依頼しようとしている債務について,他に担保があるのか,担保がないとしても,担保にする予定はあるのか,ということを知らせなければいけないと定めています。

保証人候補者としては,自分が保証人になろうとしている債務について,他に担保(抵当権など)があれば,自分の負担が減りますし,仮に他に担保がなくても,これから担保が増えるなら,そのぶん自分の負担が減ることを予測できます。

つまり,3号は,保証人候補者が,「自分以外の担保があるかどうか」について知ることができるよう,主債務者に情報提供を義務づけています。

さて,465条10の第1項に書かれた,情報提供義務について説明してきましたが,この義務に違反すると,465条の10の第「2項」に基づいて,保証人は,保証契約を結んだ後(保証人となった後)に,保証契約を取り消すことができます。

「契約を取り消す」というのは,「契約を最初からなかったことにする」という意味です。

「保証契約が最初からなかった」のであれば,「最初から保証人にならなかった」ということになります。

そうすると,借主本人の滞納を理由に肩代わりを求められている保証人としては,保証契約を「取り消す」ことで,「最初から保証人じゃありませんでした」と反論し,肩代わりを拒否することができるようになります。

ただ,「情報提供義務違反」があれば,必ず保証契約を取り消すことができる,ということでもないんです。

ここが,めちゃくちゃ大切です。

そもそも,「情報提供義務違反」とは,↑に書いた,1号~3号の情報を,「そもそも提供しない」又は「事実と異なる情報を提供した」ということを意味します。

だから,情報を「提供した」「提供してない」が,まず争いになるでしょう。

先ほど書いたような,青色申告ではなく,白色申告の個人事業主の場合,貸借対照表をわざわざ作成していないので,白色申告の個人事業主である借主本人がいったい何を伝えれば「情報を提供した」と評価できるのか,それなりに難しいと思います。

当然ながら,保証契約の取消しを認めたくない貸主(債権者)としては,「情報を提供した!」と主張するでしょうし,保証人は「情報を提供していない!」と反論するわけです。

「情報を提供した」かどうか,情報を提供したとして,その内容が「事実と異なる」かどうか,結構ビミョウなケースもあると思います。

それと,もう1つ重要なのは,↑に書いた情報義務違反(そもそも情報を提供しない,事実と異なる情報を提供した)が原因となって,保証人となった(保証契約を結んだ)ことが必要なことです。

つまり,情報義務違反と,保証契約の署名押印との間に因果関係が必要です。例えば,他の理由(困っていてかわいそうだから,貸しを作りたいから)で保証人になった場合は,対象外なのです。

保証人が情にほだされることなく,あくまで,情報義務違反を理由に保証人になってしまった場合に限って,保証契約を取り消すことができるのです。

そして,まだあります(笑)。

なんと,貸主(債権者)が,借主本人(主債務者)の情報義務違反を,知っていたか,または知ることができた,という事情も必要なのです。

言うまでもないんですが,情報を提供するのは,借主本人(主債務者)です。

そして,提供する相手は,保証人の候補者です。

そうすると,情報を提供する場面に,貸主は一切関与しないんです。

そんな貸主が,情報義務違反を「知っている」ケースって,いったいどれくらいあるのでしょうか(汗)。

「知ることができた」ケースも,どれくらいあるのか,現時点では未知数です。

「知ることができた」ということは,貸主に,情報義務を主債務者が守っていたかどうか,確認する義務があることを前提としているように思えます。

その「確認義務」を怠った結果として知らなかった場合が,「知ることができた」のケースだと思われます。

ただ,↑の「確認義務」が,どの程度要求されるのでしょう。

貸主本人が一切関与しない「情報提供」について,どれくらい「確認」しなきゃいけないのでしょうかね。

僕としては,そもそも保証人を要求しているのが貸主なのですから,その「保証人を要求する」という態度に照らして,貸主(債権者)に確認義務が発生する,と考えてもいいのかなぁと思います。

情報義務が課されるのは,主債務者が「事業のために負った負債の保証を依頼しようとする」場面ですが,この「事業のために」を,債権者が知りながら,保証人を要求したのであれば,債権者としても,主債務者の情報義務について確認する義務がある,と考えてもいいのかもしれません。

まあ,僕がどれだけ意見を述べても無意味なので,おとなしく裁判例が蓄積するのを待とうと思います。

それではまた明日!・・・↓

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